れんきん†むそう

第伍話


「う〜、顔から火が出そうだよ」

一美刀の顔は、真っ赤に染まっている。

「上出来だったぞ」

「民達も士気が膨れ上がりました」

「かっこよかったのだ」

上から順に、、愛紗、鈴々の順である。

「でもさん。私の台詞も考えてくれたって良かったじゃないですか」

「ば〜か。俺が考えた台詞を読むより、一美刀が考えて、感じた事を言葉にしたほうが皆に伝わるってもんだ。聞いただろ?あの雄叫びを」

あの瞬間、骨の髄が震え、心の奥底から沸き上がる熱い衝動が、血を熱く滾らせた。

「そうですね。頑張らないと。なんといっても【天の御遣い】なんですから」

一美刀の頭をなでる

「そうだな。俺達に出来ることをしないとな」





「そろそろだな」

が、言葉を漏らす。

「それでは、手はず通りに」

皆でうなずく。

「ご主人様、後もう少しで戦が始まります」

「鈴々の槍が火を噴くのだ!」

「そして私の青龍刀が悪を粉砕するでしょう。ご主人様は我らの活躍を、後方にてゆるりとご覧あれ」

「そんなこと出来ないよ。さんに愛紗に鈴々、そして村の人たちだって、武器を持って戦うんでしょ?」

そして3人を真直ぐ見る。俺は無手(?)だけどと余計な水は指さない。

「私も戦うよ」

「しかし、それはあんまりにも危険です」

愛紗が咎める。

「危険だよ。それに怖い。・・・・でも。私の事を【天の遣い】だって信じている村の人たちが居るなら、私だけ安全なところにいるわけにはいかない。武器を持って戦うことは出来ないけど、せめて皆と一緒に前線にいさせて欲しい」

本当に、ただまっすぐに前を見る一美刀。

「素晴らしい。やはりあなた方を主と仰いで正解でした」

感嘆の言葉が愛紗からこぼれる。

「はい?」

一美刀は、狐につつまれた感じだった。

「その言葉こそが英雄の証。その行動こそ人は付いてくる。ですがその言葉をさらりと言える人間はそうは居ないのです。その言葉を言えるあなた様は、やはり私の想像していた【天の御遣い】そのもの」

「言っただろ、愛紗。一美刀は、主と祭り上げても申し分ないと」

が、言葉を足す。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私はさんみたいに戦えたり作戦が出来るわけじゃないし、本当に【天の御遣い】じゃ」

言葉を遮るは、鈴々。

「どっちでも良いんだって、そんなの。今わね、皆で村の人たちを困らせてる黄巾党をやっつけるのが大切なのだ!」

ブンッ、と大きい槍を景気振付けに振り回し、力強い一歩を踏み出した。

は、鈴々の頭を強くなでる。

「それじゃあ、俺達は行くわ」

たち一個小隊は一足先に列を離れる。

「皆の衆よ!これより街を守るための決戦だ。いざ、参らん!」

愛紗の宣言にこたえるように雄叫びを上げて、村人達はそれに続き、黄巾党の軍勢が陣を張っているという丘に向かう。

「常に二人一組となって敵兵に当たれば、百戦して百勝しよう。あとは私の指揮に従っていれば、必ずや天は我らに微笑むであろう!天運は我らにあり!怯むな!勇気を奮え!妻を、子を、友を・・・・・・そして仲間を守るために!」

行軍する村人達を、愛紗は絶えず鼓舞しながら歩き、村人達は徐々に覇気を上げていく。

「これが戦い・・・・やっぱり・・・・責任重大だよね・・・・・」

一美刀の口から、言葉が漏れる。

彼女は、愛紗の言葉に、村人の声に、生きるための願望が込められることがひしひしと感じられた。

「誰だって・・・戦うなんてしたくないはずなのに・・・・」

思考に落ちていると声が掛かる。

「居たよ!愛紗、お姉ちゃん!準備して!」

鋭さを含む鈴々の声に、村人達に緊張が走る。

「皆、陣形を整えよ!若者は剣を抜け!老人は弓を構えよ!これより敵陣に向けて突撃する!」

戦の火蓋は、切って落とされた。







「あと一押しで敵は崩れるぞ!皆、力を振り絞れ!平押しに押せば勝てるぞ!」

「皆頑張れーっ!あとちょっとなのだー!」

愛紗と鈴々の声を聞いて、村人達は雄叫びを上げて崩れかける敵陣に向かって突撃した。

その攻撃を受け、黄巾党の前線の一部が微かに崩れを見せる。

「今なのだっ!みんな突撃ーーーーーーーーっ!」

その崩れを見逃さなかった鈴々が此処とぞばかりに号令を発し、浮き足立った場所へ錐のように切り込んでいった。

「うりゃりゃりゃりゃーーーーっ!」

鈴々は雄雄しく叫びながら身長の数倍はある槍を振り回し、黄巾党の兵士達を吹き飛ばしていく。

その周囲では、出陣の前に説明された戦訓を忠実に守り、二人一組で敵に当たる村人達の姿があった。

一人が積極的に浅い攻撃を繰り返し、もう一人が的確に致命傷を与えていく。

二人のどちらか深手を負えば、後方に控えている兵と変わり、治療を受ける。

治療が終わり、再び前線に戻る。

見方によってはなぶり殺しにも似た戦法だが、それは確実に成果をあげていた。

そして、死者を出さないために。

一美刀は、ただ見つめていた。

直視するのもつらいのか、顔色も良くない。

いくら賊、悪人-----そう思っていっても、殺し合いを見ることに耐性はついてない。

だけど眼を逸らしてはいけないと自分にいいきかせて、黄巾党と村人達の戦いの一部始終を網膜に焼き付けていた。

「ご主人様。もう勝負は決まりましょう。ご主人様は後方へお下がりください」

「ううん・・・それは出来ないよ。私には殺し合いをさせてしまってる責任があるの。見ているだけで責任が取れるとは思ってない。けど、でも、せめてそれぐらいはしないと・・・・・・」

時折、胸の奥から湧き上がる強烈な吐き気を気力で押さえ込み、一美刀は片時も視線を外さなかった。

宙に弧を描く血しぶきや、戦場のそこかしこで木霊する苦悶の声。

地獄絵図のようなその現実を、足を震えながら必死に受け止めていた。

「ご主人様が居らっしゃった天界では、戦いは無かったのですか?」

「少なくとも私の周囲じゃなかった。だからさっきまで現実感は無かったけど、この光景を見たら・・・・・情けないでしょ。足が震えてくるの」

瞬きする度に散っていく命。

幾年月という時間を積み重ね生きてきた命が儚くも散ってしまう。

人々の命の重さは如何ばかりか。

思いを馳せるたび、体が震え、呼吸が荒くなり、神経が麻痺していくのが分かる。

「ご主人様・・・・・辛いのならば、見なくとも良いのですよ・・・・・?」

「駄目だよ・・・見ておかないと・・・・逃げ出すなんて卑怯なこと、したくないの」

唇をかみ締め、戦場を凝視する。

巻き込まれたなんて言い訳は通じなく、自分が発した言葉がこの戦いに繋がり、いくつもの命が散っていく現実に繋がったのだから。


其の時、戦場の一角から歓声が上がった。

敵の後方から一真たちの増援が入った。

人を超えた速さを殺さずに雄叫びを上げ一人飛び上がるは、
                   
こうりゅう
クルダ流交殺法 
陰流 攻(亢)竜

神速(足)ともいえる鞭のようにしなる無数の蹴りを一点集中させる技だが、そうすることなく分散させ、眼前の無数の黄巾党をなぎ払いながら先へと進む。
                 
セイバー
クルダ流交殺法 
陰流 聖 爆

の回し蹴りから真空刃が生じ更に奥の現存する周囲の無数の黄巾党をなぎ倒す。

その武は、正に一騎当千と呼ぶに相応しきもの。

一瞬にして数十という敵を打ち倒し、地獄絵図へと変えた。

村人は鼓舞し、黄巾党は畏怖する。

人々には、戦神、闘神、武神、修羅、そして死神のうちどれに映ったであろうか。

「時は今!皆、疲れているだろうが後一踏ん張り!我に続け」

愛紗は、の武に打ち震えながらもこの絶好の機会を逃すことなく、獲物を高々と掲げ、周囲を鼓舞しながら駆け出していく。

それに続いて喊声をあげながら駆け出していった村人達は、やがて黄巾党を圧倒し、実った稲穂を刈るように殲滅していった。


黄巾党の軍勢を完全に駆逐した村人達は、意気揚々と街に凱旋した。

残っていた街の人々は皆が皆、凱旋してきた者を笑顔で迎える。

街に花咲く笑顔で、戦に勝ったことを実感することが出来る。

しかし、その中には悲痛にくれる泣き顔もあった。

この戦にて、愛する人、親しき人、大切な人が逝ってしまったのであろう。

人が死ぬということは、解ってはいた。

死が無い戦が無いことなど解ってはいたが遣り切れない気持ちが膨れ上がる。

「どうかしたか?」

一美刀の頭に大きく暖かい手が置かれる。

さん」

一美刀の顔色を見て悟った。

と違い、一美刀は人の死、戦場と程遠いところからやってきたのだから。

「私が、あの顔をつくちゃったんですよね」

視線の先には、悲しみの顔。

「お前だけじゃないさ。俺もその要因だ。けどな」

視線を横に向けさせる。

「あの笑顔を作ったのもお前だ。だから、忘れるな。幾多もの死を無駄にするな。恐れて立ち止まるな。生き残った俺達の責任だ。愛紗たちだって、好きで戦っているんじゃない。でも、少しでも多くの人を助けたいから戦うんだ。それでも、俺達は敵、味方関係なく、その死を糧にして俺達は生きていくのだから、其の者たちに誇れるように生きていかなければならない」

一美刀の瞳をまっすぐと見つめる。

「胸を晴れ。お前は、この街と笑顔を守ったのだから」

「(そうだ。私は立ち止まれない。これから、さんたちと人々を救う戦いを始めるのだから)」

決意を込め、の瞳を強く見つめ返した。

は、頭を強めに撫で、嬉しそうに笑った。

二人をつつむ空気が、ほんのり暖かくなった。

「ご主人様」

「お姉ちゃん」

愛紗と鈴々の声が響く。

「どうかしたの?」

一美刀は、とのひと時を邪魔され、少しばかり残念と思いながらも表に出さないでおくことが出来た。

「はい・・・・それが・・・」

困惑に満ちた顔をした愛紗が、村人達を率いてやってきた。

「あんた様にこの街の県令になって欲しいんだ!」

「・・・・県令って?」

が答える。

「俺達風に解りやすく言うと。県知事、市長、町長ってとこだ。街の政(まつりごと)を担い、保安を確保するってところか?」

「【県知事】【市長】【町長】と言うのが何かわかりませんが、概ね殿が言われたとおりです。本来なら、朝廷より任命されるのですが・・・・」

愛紗が、の言葉を肯定する。

「その県令が、黄巾党に襲われたドサクサに紛れて逃げ出しちまったんだ。俺達を捨てて」

「むーっ!ヒドイ奴なのだ!」

怒りをあらわにする鈴々。

「だから俺達は朝廷なんか信じれねぇ。この街は俺達で守る!」

「けど俺達だけ街を治めるなんて、出来ないと思うから、天の御遣い様にこの町を治めてもらいたいんだ」

「わ、私!?」

いきなりの事で、裏返りそうになる。

「あんた様なら俺達はどこまでだって付いていくよ!」

盛り上がる周りの村人についていけない一美刀。

愛紗とを横目で見る。

愛紗は嬉しそうに、は諦めろという顔で頷く。

「お姉ちゃん、遠慮しないで受けたら良いのだ」

「鈴々も賛成なの?」

「県令が居なくなったって事は、街を守る軍隊もいなくなったってことだし。放っておけば、また黄巾党に襲われちゃうのだ」

「鈴々の言う通りです。それにこうやって我々を押し立ててくれる人々が居るのを、無視することは出来ないでしょ?」

「良いじゃないの。行く当ても無いし、ここからはじめればいいじゃないか。人々を救うのも」

が、男臭い笑顔でにかっと笑う。

「だけど・・・・本当に私でいいの?」

「あんたでなきゃダメなんだ!あなた様と関羽嬢ちゃんと張飛嬢ちゃんと殿でなくちゃ!」

村人達の熱意に言葉が返せない。

軽々と返すべきではないと解っているからだ。

「頼む!俺達を導いてくれ」

一美刀は、空を見上げ目を瞑る。何を思うのだろうか。

ゆっくりと瞳を開き、村人達を真っ直ぐと見つめる。

「解りました。私達がどこまで出来るかはわかりませんけど、県令をやらせていただきます」

一美刀の返事に、村人達が沸きあがる。

そう、一美刀は、愛紗と鈴々に誓ったのだ。【天の御遣い】を名乗ることで一人でも多くの人々を助けることが出来るのなら、たとえ汚名を浴びようとも貫いてみせると。

そして、更に誓う。

ここにいる村人達の笑顔を守って見せると。





勝利の宴の中、は子樽と柄杓を持って席をそっと外し、出陣前に見つけた桜の元に足を運ぶ。

パンと手を合わせ地に手を付くと木の横に名も無き碑が出来上がる。

殿・・・・何をしてるんですか?」

後ろにいるのは、一美刀、愛紗、鈴々の3人。

3人とも碑を作った技のことには、口を出さない。

「ただの自己満足」

3人は、次の言葉を待つ。

「・・・・・はぁ・・・・わかったよ」

の根負けである。

「戦で亡くなった全ての者の碑だ」

柄杓で碑に酒をかける。

「一美刀には言ったが、俺達は今回、そしてこれからの先もだが、敵・味方関係なく逝った者達の死を糧にして生きていき、前へと進んでゆく」

柄杓で、酒を煽る。

「出陣前の口上でも述べたと思うが、黄巾党だって最初は悪政に苦しんでいた人達だったんだ」

一美刀が、に習い碑に酒を流す。

「なのに、何処を間違ったか、ただの暴徒と化してしまった」

続いて、愛紗が碑に酒を流す。

「守るものがあったはずなのになぁ」

そして、鈴々が碑に酒を流す。

「被害者になると憎しみを忘れることは出来ない。された事を忘れろ、許せとは言わない。これは戦争なんだ。野望、欲に溺れた馬鹿、そんなやつらだって、きっとこの戦乱の被害者なのだろうから。逝った者達一部として、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいからさ、弔ってやりたくて・・・・・」

が、再び碑に酒をかける。

「なんてな」

照れ隠しに、一言付け加える。

「さぁ、宴に戻るぞ。明日から、激務になるんだろうからな」

名も無き碑は、街の誇りとなっていく。




第5話 完


冬眠様から頂きました5話です。
うわー、陰流の技出てるし、錬金術も使うシーンがあってもうほっくほくです!
うちのさんをかっこよく書いていただき、本当にありがとうございます!!

2009.2.01 UP


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