R.O.D//:stigmata

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その瞬間、周囲は一瞬にして凍りついた。





その日も俺は、八神邸に出勤すべく、通勤路を歩いていた。

それにしても、最近この辺も人が増えたな。近くにマンションが出来たからか?

まぁ、賑やかになるのは構わないが騒がしくなるのはゴメンだなぁ。

八神邸の前に着くと、何故か人だかりが出来ていた。

「んー?何かあったのか? 和麻」

「あ、さん、それが」

が説明しようと口を開いたその瞬間。

「ぱぱー!」

人だかりの中心にいた小さな物体が俺目掛けて飛びついてきた。

「洸!?どうしたんだ、お前!?」

「ぱぱにあいにきた!」

「ママはどうした、ママは?」

「おーちでご本読んでる」

うわぁ・・・まーた抜け出してきたのか、こいつは。

俺はとりあえず洸を左腕で抱きかかえると、右手で携帯を取り出した。

1回。2回。3回。・・・10回。出る訳ないよな・・・あいつが。

俺は一旦電話を切ると、別の回線にかけ直した。

『はい、もしもし』

「あー、ねねねか?久しぶり、俺だ、

さん!?お久しぶりです。今日はどうしたんですかぁ?』

「こっちに洸が来てる」

『え』

「冗談じゃねーぞ?まーた抜け出してきたらしい」

『先生は何して・・・あ』

「お前、もしかして最近新刊出したか?」

『はい・・・』

原因はそれか。

「それじゃ、お前も仕事で出てるって訳か。今どこだ?」

『福岡です』

うわお。

「2、3日ならうちで預かるが」

『お願いします・・・2日後の夕方には帰りますんで』

読子の奴一人じゃ子育ては絶対不可能だ。

ねねねがいるから洸は生きている、と言うより、洸もねねねと一緒になって読子の世話をしてる、と言った方が正しいかも知れない。
ビブリオマニア
愛 書 狂って奴は本当に、どいつもこいつも。

今は亡き、もう一人の愛書狂の顔が脳裏によぎった。

「とりあえず、お前が戻ったら洸連れて行くから。読子に一言言ってやらんと」

『おとーさんも大変ですねー』

「ははは。仕事中に邪魔したな。それじゃ。洸、ねねねお姉ちゃんにバイバイしろ」

「ばいばーい」

『あまり迷惑かけちゃ駄目よ、洸』

「はーい」

おお、子供らしい良いお返事だ。

で、だ。

俺が電話を切ると。



周囲は絶対零度の空間と化していた。



「どういう事か、説明して頂けますか?様」

凄くイイ笑顔の操ちゃん。

一言も口をきかない和麻。

当惑の風牙もとい空牙衆の面々。

「んー、説明って言ってもなぁ」

「ぱぱぁ?」

「んー?どした、洸」

「おにわみてきてもいい?」

「おう、行ってこい。気をつけるんだぞ」

「うん!」

この空気をものともしないとは、流石あの二人の血を引くだけあるな。

将来大物になるぞ、洸の奴。

「あいつは、俺の息子だ。」

その一言に、周囲の気温が一段と下がる。

・・・。

言ってなかったっけ?俺。

和麻、もといと出会ってから今日までを振り返る。

・・・。

言ってないな。

うわあ。

まずかったか・・・。

が物凄く不機嫌なのは、パートナーなのに隠し事して、って奴だろうな。

「すまん、隠していたつもりはなかったんだが」

「・・・母親、は」

ようやくが口を開いた。

「お前も会った事があるだろう?読子だよ。第16代ザ・ペーパーの」

「あの人、ですか・・・」

「あぁ」

「しかし、様。ご結婚されて奥様やお子様までいたとは、我々の情報網でも少しも」

兵衛さんの困惑した声がそこに混じる。



待て。

「何か勘違いしてないか?お前ら」

「何ですか?勘違いって」

操ちゃん・・・怖ぇ。

「確かに洸は俺の息子だが、血の繋がりはないし、今の所妻はいねぇぞ」

「へ?」

が間の抜けた声を出した。

「あー。すまん、俺の言い方が不味かったか」

最初っから説明しないといけないか。

俺は、今は亡き友人・ドニーの事を思い出していた。






あれは何年前の事だったか。

大規模な古書販売のフェスティバルが行われると聞き、俺は初めて仕事抜きでイギリスに行った。

こういう古書の中には結構掘り出し物の魔術関連書物がそれと知られずに売り出されている事が多い。

俺は書物を何冊かと、目に付いた本を知り合いへの手土産に何冊か購入し、ホテルに引き上げた。

その翌日。

ホテルに「貴方が買った本の1冊を譲って欲しい」と土下座しかねない勢いでやってきた男がいた。

それがドニーとの出会いだった。

俺も読書は結構好きな方だ。(意外とか言うなよ)で、色々と話が弾み。蔵書を見せてくれると言うので尋ねてみると。

ここは本当に個人の家か?図書館の間違いじゃないか?

ってな感じの場所。

まさに本の巣窟。

最初行った時は死ぬほど驚いたものだ。

絶版の書物や魔術関連書物も豊富にあり、俺は仕事がらみの時も結構な頻度でドニーを尋ねた。

ドニーがザ・ペーパーだと知ったのは大分後でだったが、ドニーは俺の戦いを見ても俺を恐怖のまなざしで見ない数少ない人間の一人だった。

まさしく愛書狂のこいつには、一生恋人なんざ出来ないと思っていた。ので。

読子を「恋人だ」と紹介された時は死ぬほど驚いた。ドニー以上の愛書狂だと知った時、ようやく納得がいったが。

ある日。引き受けていた仕事が一段落して、久々に連絡を取ろうとしたら。



ドニーは死んだと聞かされた。

読子に、殺されたと。



ありえねぇ。

そう思った。

あれ程愛し合っていた二人がどうして、と。

大慌てで読子の家に向かったら。

本を読まず、ただじっとうずくまっている読子がいた。

あの、読子が。本がなければ息が出来ない!などと言っていた、あの読子が。

どれだけのショックだったか。想像がつく気がした。

二人が殺し合わざるを得なかった理由は、判らなかった。が、俺は何とか読子に立ち直って欲しいと思い、ありとあらゆる手を尽くした。

大事な友人の、心から愛した人で、俺にとっても大事な友人だから。

読子は次第に元気を取り戻し、16代目ザ・ペーパーを襲名するまでになった。

もう大丈夫だろう、と思った時。

また読子の心を抉る様な事件が起きた。





「とある組織の奴らがな、人工的に作り出そうとしたんだよ。『ザ・ペーパー』を」

「人工的に、ですか?」

何を話そうとしてるのか、言った感じの和美。

「あぁ。特殊工作部のような特務機関に属する者は、皆定期的な健康診断が義務付けられている。その時の健康診断の少し前に、読子は放射性物質による被爆が考えられる場所に任務で行っててな。異常はないだろうって事だったんだが、念の為卵子を摘出しての検査を行ったんだ。その卵子細胞が盗難にあった。よりによって、凍結されていたドニーの精子と一緒にな」

「ま、さか・・・」

操ちゃんの顔が青くなる。

「そう。そのまさかだ。読子程でないにしても、ドニーも歴代髄一の腕を持つザ・ペーパーだった。その組織の連中は、ドニーの精子と読子の卵細胞を受精させ、試験管ベビーを作り出し、しかも普通じゃない方法でその子をこの世に送り出した」

「普通じゃない方法とは?」

流石しっかりしてるな、兵衛さん。

「詳しくは判らねぇ。だが、未だに赤ちゃんを人体の外で育て上げる技術は存在しない。だが、洸の奴は、卵子細胞が盗み出された数週間後には2〜3歳にまで成長していた」

「なっ!?」

その場にいた全員が絶句した。

「普通じゃありえねぇ。だが、組織を壊滅させ、ありとあらゆる検査をした結果、どう考えても洸はドニーと読子の子供でしかありえねぇ、という結果しか出てこなかったし、身体にも何ら異常は見つからなかった。生まれつき紙使いである事以外、何も洸の身体に異変はなかった。」

俺は庭で遊ぶ洸を見た。

どっからどうみても普通の子供な洸を。

「散々周囲に反対されたが、読子は洸を引き取りたいと言って聞かなかった。自分とドニーの子供だから、と。だが、ただでさえどうなるか判らない状況で、しかもあの国は未だにシングルマザーへの風当たりが強い。洗礼さえ受けさせてくれない。それじゃあんまりだって思ってな。読子説得してイギリスで一旦結婚して、洸を認知して即離婚した」

読子の奴、俺の戸籍が汚れるからとか色々心配してたが。

どうせこれから先結婚する当てなんかないから気にする必要ないのにな。

「俺としてはそのまま結婚したままでも良かったと言えば良かったんだが、俺とは夫婦にはなれんと読子が抜かしやがったし、まぁ俺としても洸の身分さえ保証できればどーでも良かったからな。とゆー訳で、洸は俺の息子って訳だ。」

俺は洸に向かって、近くの紙で適当に折った紙飛行機を飛ばす。

洸は目を輝かせながら紙飛行機を追いかけている。

「悪かった。本当に隠すつもりはなかったんだ」

俺は改めて皆に頭を下げた。



2008.12.24 UP

うわあああ!! ありがとう、本当にありがとう!!
リア様から頂きました!
私が書いてる話にもちらりと出てくる『R.O.D』の人たちが登場。
しかも子持ちだ、さん(笑)。美味しい設定な上に、さんなら絶対そうするであろう行動ですよ!
やべぇこれマジな設定にしていい?(ここで聞くな)
ありがとう、本当にありがとうリア様!!(感涙)

また、ページの変換上和麻(和美)の名前変換が出来ません。
再UPにて設定しました。変換できているはずです。
また、子供はオリジナル設定です。

ご了承ください。

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