この男達と会ったのは満月の夜。
森の方からの闇の気配に私は高揚しているのが判った。
ひどく気分がいい。
鼻歌を歌いたいのを我慢して、深夜孤児院を抜け出す。
大人たちや他の子供達をごまかす為に魔法を繰り出し、一人外へ出ると満月の灯が出迎えてくれたっけ。
それをよく覚えている。
さぁ魔法の練習をしよう。
その為の的がやってきている。
口の端がつりあがった。
折角寝入っているのに、無粋な悲鳴をあげさせたくはないので、自分からその闇に向かった。
もう精霊魔法は中級程度は唱えられるようになっているかの確認もこめて、そして周囲を飛び交うこの里の忍者の気配に気がつきながらも、私はその時はどうでも良かった。
忍者ごと殺してしまってもかまうものかと、私の中の何かは囁いて。
そして私は手を向けて、笑顔で魔法を放ったのだ。
デイオ
「焦熱波」
その手の先に、彼がいたな。
「ちゃんの使うのは忍術じゃないよね。印を組んでないし」
思考が過去から現在に引き戻され、私は熱いお茶を彼に出していた。
あのままなら私の魔法で死んでいたはずのはたけカカシは、「どうも」と小さく頭を下げるとお茶を見る。
「で? ちゃん?」
「ぎゃうあがぁ(なんでこんな奴家に入れたんだよ)」
の文句の鳴声を聞きながら、私は自分のお茶を入れる。
そろそろ腹が減った。
なにかありあわせのものでも良いから作ろうか。
「無視しないで教えてくれないかなぁ」
「にでも聞けばいいでしょう」
私は即座にそう言い放つ。
「…一応、保護者なんだからさん付けとかしない?」
私は息を吐き出す。
殺し損ねた相手だからか、私はどうもこの男が気に入らなくて仕方がない。
400年以上も前、おそらくはとが普通の人間でクラスメートをしていた『あたし』なれば確かに彼の声音とルックスに歓声を上げたかもしれないが…私はそうは思えない。
あぁもしかしたら私と似通った髪の色を見るからいらだつのかもしれない…。
私は黙って自分用にお茶を入れた。
もう少し待って帰ってこなければ、自分で作るか。
「ちゃん、人の話聞いてる?」
声の低くなったそれにが威嚇の鳴き声をあげた。
「もねぇ…あんなに様に懐いていたのに、今は君にべったりして」
「ドラゴンは」
それでもヒントを与える、というか予測を確信に変える言葉をこの男にくれてやるのは、どうしてだろう?
ダークシュナイダーを思い出させる色彩をしているから?
それでもやはり、いつでもこの里の人間は殺せるから?
「主物質界における最強の存在であり、高い知性を有し、さらには非常に希少種でもある」
「ぎゃうがああ!!(任せろ、俺は出来る男になる!!そしてお前とうはうはする!)」
が合いの手のように鳴く。
うはうはとはなんだろう?
「しかしながら、より強い存在に従うという性質も兼ね備えています」
「より、強い存在?」
ここまで言ったのなら判るだろうし、これ以上言うつもりはない。
私は自分に入れた茶を一口飲んだ。
「それって…」
「ただいま」
黒装束の男が部屋に現れた。
入ってきた、というよりも現れたと言っていい。
「様…お帰りなさい」
「お帰り」
「カカシ、お前何を勝手に人の家に入ってきて、と同じ空間にいる。帰れ」
「ひどいですよ。様、俺一応、護衛としてここにいたんですけども?」
「聞いたぞ? お前に化けてをたぶらかそうとした輩が来たのだろ。てめーの始末はてめーでしろと俺は教えなかったか? ん?」
がそう言うと影分身の一体が買い物袋をさげて帰ってきた。
勿論黒装束ではなく、どこにでもいるような普通の一般人の変化をしたそれは申し訳なさそうな顔を作って私に声をかける。
「あー、超特急で美味いもの作るから待ってろよ」
「いや、私も手伝おう。その方が早い」
「影分身、俺と代われ」
「断る」
影分身は本体にずばりとそう言い切ると本体側はわざとらしく肩を落とした。
「様、あの男は」
カカシの方を向いて、にぃっ、と笑っては答えない。
あぁ、もうこいつ殺してきたな。
「カカシ、お前は待機所に戻れ」
「……御意」
何か言いたそうなカカシの姿が消えた。
早いな。
「探りか?」
「いい加減鬱陶しいから、のことを絡めて教えてやったがどうでるだろうな」
くっくっく、と喉が鳴る。
「もうすでにが魔法を使っていることは理解しているはずだ」
魔法はドワーフやエルフ達亜人と呼ばれる連中の専売特許だったのに、人間の私が使えることに。
まぁそれを言ったらルーン魔術を使い出したのこともそうだろう。
「取替え子だと思われるのは心外だな」
時折優秀な人間の赤ん坊を妖精たちが自分たちの子供と交換して育てる、という御伽噺があるが…気位が高いエルフや人を嫌っているドワーフがそんなことをするはずがないだろう。
他亜人にいたってもそうだ。
「でもまぁあの連中に魔法を見せることにためらいがないよな」
影分身が笑う。
「なぜ私がそこまで考えてやらなくてはいけない?」
自分の力は好きに使う。
自分の思うまま、自分の為に。
私がそう言うとがぎゃうぎゃうとまた鳴いた。
「それもそうだが、このままいくとアカデミー卒業と同時に下忍に組み込まれるというよりかは、あれだ。暗部に組み込まれる可能性が高いな」
「里に忠誠心がない忍びに何を期待するのか」
からからと本体のが笑いながら変化をとく。
蒼い髪に赤い瞳の美男子がそこにいた。
「それよかあれだな。綱手みたく外に出ちまえばいいさ」
「どっちにしろ組織に組み込まれたままなのには変わりないがな」
手軽に夕飯を作り上げると、分身の方が消える。
私がそう言うと、は口を歪めた。
「の使う大半の魔法は殺傷能力が高すぎるからなぁ。こぞって里の戦力にさせるだろう」
「面倒なことだ」
「ぎゃうが(そうだな)」
私達は席に着くと手を合わせた。
「いただきます」
『法』『道徳』『世間体』 何の壁にもなりゃしない
いざとなったら里を抜ければいいこと。そういうことだ。
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