空の尊い人も、きっとこんな世界を望んではいなかったろうよ




「いいか、寄生虫。仮にもこの俺様の魂と同化して、俺のとっときの秘術もくれてやったんだ。この俺様のようにとは流石に無理だろうが、それを目指して生き抜け」

そのココロは?

「どこぞの蛆虫に負けたりなんかしたら承知しねぇ、常にパーフェクトを目指せ。万が一にも、いや億の一にも貴様が無様に敗者となったその暁には!!」

白金の長い髪をなびかせて、彼はこう言いきる。

「別次元だろうが、俺の魂の欠片の持ち主だろうが、400年以上の腐れ縁だろうが関係ねぇ!!!」

目がくわっと見開く。

「お前の心臓引き抜いて秘術取り戻して、懇切丁寧に切り刻んでドラゴンの餌にしてやる!!」

あぁ、その時、君と再会できるのも、悪くないなぁ。

そう思ったそのとき、彼は…爆炎の魔導師、最強のハンサム様(こう言わないと彼は怒った)ダークシュナイダーは、一瞬だけ目を見開いて、それから笑った。

「このバーカ」

あぁ、そんな馬鹿でも、君とヨーコさんの未来を願ってるよ。いいよね? それぐらい。

そこであたしは目を覚ました。

瞬きを繰り返して、夢の残滓を振り払う。

今の『あたし』は彼の精神に憑依…彼曰く寄生虫のように寄生していた存在ではなくて、きちんと血肉を持った一人の人間なのだ。

…まぁ、一般人とは言えないがな。

ベットから起き上がると部屋の中にある鏡台の前に座る。

薄いピンクの髪に緑の瞳の少女が鏡に映る。

これが今のあたしだ。

かつてのあたしよりもかなり幼く、そして…その世界では二次元の存在だったはずの子供。

くっ、と口元が笑みを浮かべた。

二次元、と言ってもそれはかつてのあたしにとってであり、「今」のあたしには現実だということを、この12年で思い知っているというのに。

「懐かしい人の夢を見たからか?」

そう、この世界にこのあたしとして生まれ変わる直前に会って、そして今のあたしを形成する魂の大元の人物…爆炎の魔導師、ダークシュナイダーの。

あたしは櫛で髪をとかした。

本当ならば魂の影響で白金になればいいのに、二次元であったはずの彼女の容姿そのままだ。

その分、精神と能力は侵食されまくっている。

「おーい、飯できたぜー」

さて、食事にしよう。

あたしはパジャマを脱ぐと手早く着替えて顔を洗いに行くついでに汚れ物を洗濯機に入れ込む。

いまいち、この世界の科学がどこまで進んでいるのか理解できないが、まぁ便利は便利だ。

「おはよう」

「あぁ、おはよう。

あたしの名を呼んだのは精悍な顔つきの男だ。

名を猿飛という彼は、かつてのあたしが生きていた世界で、今のあたしの状態と同じように二次元の存在にそっくりなのだという。

濃い青の髪に紅い瞳。

…その存在はその二次元の作品の名前では「ランサー」と呼ばれ、正体はケルト神話の英雄・クーフーリンその人だというから驚きだ。

彼自体がその存在かといえば、そうではないが。

「あんぎゃぁ(おはよう、)」

もう一人、いや…もう一体というべきか。

むくむくとした手足の本当に小さなドラゴンがあたしの足元に擦り寄ってくる。

最初に出会った頃よりも大きくなってるな。

「あぁ、おはよう。

東洋風ではなく、西洋風のミニドラゴンの思考があたしに飛んでくるのをうけとめて、言葉で返すと彼は嬉しそうに笑う。

この人ではない存在も、かつては人間の少年だった。

…彼らについてはおいおいと語ろう。

今は目の前にある朝食が先だ。

あたしは手を合わせて「いただきます」と言うと箸に手を伸ばそうとしたそのときだった。

ごとり、と音がしてあたしと彼らはその音の方向に顔を向ける。

「厄介ごとか」

「そのようだな」

「ぎゃう」

現れたその存在に、あたしは小さく息を吐き出した。







あたしとこの世界について、少しだけ語ろうか。

あたしの精神的な年月から言って400年以上前のこと。

あたしは普通の一般人の女子高生だった。

クラスメートの誰かと、誰か。

今は顔を覚えていない彼らの口論の現場にあたしは居合わせてしまい…結果的には、それに巻き込まれ、気がついたら…あたし的には二次元の存在であった漫画・バスタード! の主人公、ダークシュナイダーの精神に憑依していた。

ただ憑依していたのではなくて、なんというか…彼の精神が主人格で、あたしがサブのような形の奇妙な精神だけの共同生活を強いられることになったのだ。

…いや、もう、なんていうか…その…いろいろあった、としか言いようがない。

精神体だからなんにもできないだろうとか思ったけれど、そうじゃなかった。

寄生虫とののしられ、あたしが女の…もう年頃の女性だと知ると侵食という名の精神的強姦を、彼は面白半分でしてきた。

泣き叫んでも押さえつけられて、がつがつと知識と魔力と、得体の知れない何かを注ぎこめられた。

そして、彼ら人を殺す様も犯す様も見て、何もできない自分に気が狂いそうになったけれど、まぁ、それももういい。

そんなこんなの400年以上経ったその後、彼は4人の勇者と戦って、そして封印された。

その後は、概ね漫画の筋書き通りになって…少し違うのは、あたしが自主的に自分の中に蓄積されたダークシュナイダーの魔力と完全に同化して二人だけを守ろうとしたことか。

まあ、なんというか…封印されていた間もあたしはあたしとして自我を保ち続けていられたのは、ダークシュナイダーのおかげだったし…。

「…はじめまして、ティア・ノート・ヨーコ。そしてさようなら、ダークシュナイダー。君達は嫌かもしれないけれど…あたしは貴方達とルーシェ・レンレンを愛してたよ」

それから意識を飛ばし、その魂を魔力と共に弾き飛ばしたはずのあたしは…彼の魂の欠片と同化して、そして違う世界へと飛ばされてしまった。

…全てはダークシュナイダーの秘術の都合の為に。

別世界に強制的に移動するという爆発的な魔力はメタ=リカーナを巻き込んだアビゲイルに取り付いた破壊神のものを使ったようだ。

そして飛ばされた世界は、またあたしが漫画で知っていた世界…のはずだった。

あの世界観に、微妙に、というかかなりバスタードの世界がほどよくブレンドされた世界なのだ。

あたしが住むこの里は忍者の隠れ里(と、言う割にはオープンだが)。

忍者は各国に隠れ里を形成して存在していて、原作と違うのは…彼らには絶対の敵対者が居るおかげでどんな小さな里も運用できるだけの収入は得ていることだ。

バスタード世界で言うところのクリーチャーたち…モンスターが生息しているから、彼らに対抗する為の一般的な存在が「忍者」なのだ。

まぁなんていうか…人里を襲う、ということは今は滅多にはないだろうが危険な生き物として世界に存在していて、精霊や魔獣もちゃんといた。

いや、猿飛に連れて里から外に出たときにボブゴブリンを見たときは吹いた。

なんでこの世界にこんなモンスターたちがいるんだと。

そして知ったのは、そんな彼らも絶対ではない。

妖精族、亜人族、人間、精霊、幻獣、魔獣、魔族。

そして尾獣。

バスタード世界ではおなじみの連中がこの世界でおなじみの連中と一緒に当たり前に生きているのだ。

ありがたいことにあたしはダークシュナイダーが使える魔術の知識が活用できることに気がついた為、一般人の親の目を盗んでに連れ出してもらってその魔術を完成させて行った。

忍者の里の子供なのだが、忍者にはならないと硬く心に誓っている。
                                                                イリュージョン
今は薬草栽培のプロになる為にのところに弟子入りしたという形にしており、両親や近所の連中にはそれとなく 幻 術 をかけていなくてもいい存在だと誤認識させてある。

いくらこの世界の実の両親であろうとも、正直あたしには赤の他人だ。

この世界で魔術…一般的に見えない存在たちとの交流によって力を行使する技術は失われていて、禁術に近い。

まぁ、その素質がある…精霊達を視覚化させることができる、というのは里の上層部にはばれてしまっているが今のところあたしを束縛はしなさそうだ。

まあ、いざとなったら里を捨てればいいから問題はないのだが。

食事を済ませるとに断ってと一緒に受付所に歩いていくことにした。

いつもならばを護衛に連れて行くのだが、暗部としての仕事が入ってしまっているということだ。

あぁ、うちでは全てオープンだ。

なぜならば、彼…猿飛はあたしにその槍を捧げて忠誠を誓ったので、里よりもあたしの命令を守っており、仕事の内容も教えろといえば教えてくれる間柄だからだ。

動きやすい服装に荷物をリュックサックにつめて背負うと「あぎゃあぎゃ」と言いながら。がしがみついてくるので好きにさせた。

彼らがどうしてあたしと一緒にいるかは、また後で語ろう。

仕事依頼の受付に行くと、傘に火という文字が書かれたそれをかぶっているご老体…あたしの精神年齢から見ればまだ若造だ…があたしを見ると笑みを浮かべた。

「おぉ、。元気じゃったか」

「お久し振りです、三代目。すみません。里の外に出たいので許可を頂きたいのですが」

「おう、そうか」

そう、ここは…基本はナルトの世界。

そして西洋ファンタジーと科学がトッピングされた世界でもある。

全く、空の尊い人も、きっとこんな世界を望んではいなかったろうよ。

あたしはそんなことを考えながら、許可がおりるのを待つ。

「珍しいな、さんと一緒じゃないなんて」

そう言ったのはイルカ先生だ。

今日はアカデミーじゃなくて受付の仕事なのだろう。

一時期アカデミーに見学という形のクラスの担任は、このお人よしのイルカ先生だ。

「えぇ、動けるのがあたししかいないので」

さらっとそう言うと、彼は手元の巻物を広げる。

「三代目」

「護衛として誰かつけようかと思うのじゃが」

「いえ、結構です。里の皆さんのお手を煩わせるつもりはありません。外に出る許可をいただければ、一人で行けますので」

「しかし…。外は危険じゃぞ?」

「大丈夫です」

脳裏に出てくるときにに言われた言葉を思い出す。

「護衛つきで傍の町まで出るほうが賢いんだがな、マスター」
                                        
レイ・ヴン
仕方が無いか…里の外に出たら街道を少し離れた位置から一気に【黒鳥嵐飛】で飛びたかったんだが。

「では、申し訳ありませんが…」

一番近い町の名前を言うとうんうん、と三代目がうなずいた。

「よし、では誰に行って貰おうかの」

「じーちゃん!」

その声に少し反応してしまう。

振り返ると、金の子供がそこにいた。

胡散臭い、顔のほとんどを隠してる癖して声だけはいい上忍と、黒の子供。

…まずい、非常に、まずい。

そう思った瞬間、三代目が口を開いた。

「カカシ、報告を聞こう。…おう、そうじゃな。よければおぬしら続けて依頼を受けてみんか?」

「おう! どんと来いってばよ!」

あたしは内心、天を仰いでいた。

「あーーーっ! ちゃんっ! 久し振りだってばよ!」

「ナルト知ってる子か?」

「おう!」

「ぎゃう、あう(原作の7班になっちゃったな)」

の言葉にあたしは小さく溜息を付く。

そう、あたしのフルネームは、春野

原作でいうなれば、彼らの仲間として一緒に居たであろう「春野サクラ」になるはずだった…魔人の欠片だ。





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