「勇者の血筋とかそういう系?」







衛宮は元はそんな苗字でもその容姿でもなかった。

たとえ異世界に飛ばされまっていても数日で元の世界に戻れる日々を送る、健全な男子高校生だった。

その時点でいわゆる『普通』ではないが、それでも彼にとってその非日常を日常としていた。

つい、とは表現できない彼の体感として150年程度昔には。

その世界にいつものように、ではなく同級生との殴り合いの喧嘩に、憎からず思っていた少女を巻き込んで「しまった!」と思った瞬間に彼は精神だけ飛ばされてとある存在に憑依していた。

感覚として、彼女をも巻き込んでしまったというのはあり、あせって探そうにも己の肉体はなく、何度も歯がゆく思ったことだ。

かの存在とは最初はまさしく喧嘩ばかりだったが、お互いの過去を干渉しあい、いつしか肉体は一つでも精神は二つであるその状態を受け入れ、日々を過ごしていた。

彼自身が新たな世界に行く切欠は、その存在が彼の意に反して消えていくのを止めさせようと命をかけたことだ。

気が付けばの容姿と肉体は、その存在とよく似ていた。

かの存在が世界の守護者という生業をしていたからか、もまた同じ存在なのかとその『世界』から干渉を受け、相互で情報交換を行い、彼は彼女がこの『世界』にいることを知った。

150年という長い時間、磨耗していく感情の中でも彼女に対する罪悪感とかつての恋慕の気持ちはかすかに残っていたのだ。

同胞がいることの歓喜と、彼が彼女にしたことが発覚して嫌われるという恐怖。

そんな感情が入り乱れた。

『世界』は一度、彼女を変質させ、自分の世界に落ちた彼女とさせた能力と存在に敗北していて、彼女を管理及び監視するために自分を選んでくれた。

憑依していた期間が長かったので、かの存在に似た能力に、いままで培ってきた能力を変質させた。

髪は力を使う場合は白く染まるが、それまでは前の自分のものだった紫紺で、瞳も黒という自身の色彩で容姿と、そして身につけていた能力は限りなくあの存在と酷似していた。

彼の苗字を名乗ることにしたのは大元の自分自身と、そして世界との決別の意味も兼ねていた。

もう、戻れまいと心のどこかで彼は確信していた。

戻れなくても彼女を支えて生きていければいい、とも思った。

この世界にオカルト的存在たちが生きていることを『世界』から教えられ、この『世界』のルールを魂に刻まれて受け入れられた。

まず金策に走り、彼女のいる場所を特定する。

孤児院で幼児化していることを知った。

彼女が少しでも過ごせやすいように、と孤児院に資金援助をしつつこの『世界』の裏側の連中とその流れで顔見知りになった。

人間の枠を超える能力を持った彼は、この世界では不老の存在と化していた。

厳密に人間ではなくなってしまっても、は構わなかった。

という彼女を幸せにできるのであれば、それでよかった。

彼女は大元の世界にいたあの頃に年齢が近づくにつれて、自分の罪の意識に辛抱できずに彼女と接触して、そして許しを乞うた。

憑依先ではむごい目になっただろうに、それを口にせず、その世界に飛ばした彼をは許してくれた。

気がつけば彼は彼女を引き取る段取りを終えていた。

一緒に生活してくると見えてくる彼女の癖に驚いたりもしながら今の生活を形成していた。

親のように兄弟のように接していたが、日々女性らしくなる彼女の様子にガラにもなく胸がときめくのを自覚する。

自身の素肌を見せる羞恥心がなくなっていたことと、男の裸を見ても動揺しない彼女が魔力提供をしようと言ったときは頭の中が真っ白になってしまった。

彼の知る魔力提供は肌と肌を合わせることが一番なのだ。

彼女は何気なくそう言い、自分の魔力をこめた宝石や装飾道具を持ってきたそのときの脱力感はいまだに忘れられない。

期待した自分を罵り、それでも我慢ならず多少のスキンシップをもって自分自身にも魔力提供をしてもらっている現状。

この状況が続けばいい。

二人で生きていければそれでいい。

同胞は我々だけなのだから、と。

しかし彼のその希望は裏切られた。

「…もしかして、いや…あんた、、なのか?」

小柄な少年とも青年とも取れる微妙な年代の彼が自分に話しかけてきた。

神凪一族に呼ばれ、顔を出したが不愉快な思いしかしなかった。

表情にはそれを浮かべず、さっさと帰ろうとしたら呼び止められて振り返ると彼がいたのだ。

(?…どこかで、見たことのある)

この『世界』で? と思い直し。

「失礼だが、私は君は会ったことはないのだがね」

固い口調でそう言うと相手は「っ色違いアーチャーなのに、声もアーチャーっ!?」と聞き捨てならない言葉を口走った。

アーチャー。

あの存在、150年一緒にいた彼の分霊とも言うべき存在が、聖杯戦争に参加した際におけるサーヴァントのクラス。

「貴様、なんだ」

少々、殺気を込めた。

それを知っているのはこの世界にはいないはずだ。

可能性といえば、自分たちと同じ世界からの異邦人だが…。

知りえない情報を知られている不愉快さに自然と入れられるものは強くなっていく。

神凪一族の邸内なので、気がつく連中は気がついているが、そんなことはどうでもよかった。

「お、大神、って、いう名前には」

「そんなありふれた名前はいくらでも聞いたことがある」

目が細くなっていく。

それと同時に殺気もまた。

これ以上すれば、おそらくは風牙衆から何かしら警告を受けるだろう、というところで彼は絞り出すように言った言葉には目を見開いた。






「……?」

受話器の向こうでが訝しげな声を上げているのが判り、は小さく溜息をつく。

「あぁ、すまない」

「いや、動揺するのは判る。まさか、あたし達以外にもいるとは思えないけれど…はそうと判断したんだな?」

「…そうだな。その話は夕食のときにしたい。悪いが個室を予約してくれないか? 中華か和食かは君に任せるよ」

「いやに丁寧な対応だね」

「……一応、分家とはいえ神凪一族だからな」

ごまかすか何かすればよかったのだが、あいにくと神凪の邸内でのことだった。

神凪は気がつかないかもしれないが、風牙の人間はごまかせない。

話を聞けば、風牙の人間を動かしてのことも知っているようで、そのまま捨て置けなかった。

日本で一番の霊的火力を持つのは神凪だ。(ついで石路だろうか)

歴史も古く、政治力も先代で伸ばしてかなりの権力は持っている。

その性質は傲慢でたちが悪いが、放っておいて当たり障りのない対応をしておけばこれほど金を吐き出してくれる相手はいない。

そんな分家の子供とどういう経路で知り合ったのか、などという腹の探りあいは面倒だ。

にも会わせておいて、いざとなったら切り捨てよう)

彼はそう判断を下す。

その切捨ての方法もうまく考えなければならないが。

「勇者の血筋とかそういう系?」

受話器越しにくっ、と笑みがこぼれる。

「…いや、いや。勇者、ではないが始祖が火の精霊王に祝福されたとかで一族は火では傷つかないようだよ」

「ふぅん」

興味をなくしたように電話の向こうの彼女はそう返した。

精霊王の契約はしていないが、彼女は大半の属性の精霊たちとの契約を終了していたのを電話越しに思い出す。

「今日会ったのかい? その子に」

「彼の用件は急ぎのようでね。俺としても嫌なことはさっさと済ませるに限るさ」

「…、「俺」に変わってるぞ」

言われてからは気がついた。

自分がかなり感情的になっていることに。

「判った。がそこまで嫌がるんならさっさと会ってやることにしよう。予約は中華で取っておくよ」

あぁ、と返して電話を切ると小さく溜息をまたついた。

(いやな相手さ)

なんだって?」

大神

磨耗した記憶で彼女が絡んだ記憶を思い出して、自分に話しかけてきたそいつを睨む。

「う、お、おこんな、よ」

現役高校生だという彼の容姿は当時のまま、のようだ。

目を細める。

そう、トリップしてしまったあの時に喧嘩をした相手で………が、あの頃好意を寄せていて、そして彼女のそれを嘲笑った男。

それが、彼なのである。

(ころしたいぐらいに)

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