プロローグ




≪使い人≫


12歳で成人とみなされ、そしてそれまでに使用する精霊達の操り方、念の鍛錬、そして体術を習う。

そして12になったとき、『付き人』をつけられ。

『使い人』として認められて世に送り出される。

もしも使い人…主が男なら付き人は女に。

主が女なら付き人は男に。

そして自然界と人間の狭間を護り、妖魔を封印・浄化を行い、世の理の秩序を護る存在となる。

それは世の中の大半の人間達は知らない。

いや、知るべきではない存在である。

だがしかし、何事にもイレギュラーは存在したのだ。








「水無月…俺の娘は行ってしまったよ」

「それで良かったのか?」

「…ああ…あの子は付き人を失ってから…腹の中にいる子供まで失うことになるんじゃないかと、常々思っていた。子供を生んで…その子を連れて家を出た。

…この先『使い人』はやってはいけんだろう。あの子は…あの女は最初からいなかったことにする」

「……地の精霊達が、彼女に手を貸したのか」

「精霊達はあの女を好いていた…今は、生まれた赤子もな」

目を細める初老の男に、水無月と呼ばれた男は虚空を見上げた。

「このことは、他の使い人たちには知らせるか」

「地の使い人たちには俺から伝えた。…『影山』の家はこれで途絶える」

「!」

「…地の代表格は、これより須賀になる。それでいい」

水無月、と呼ばれた男は溜息をついた。

初老の男が言い出したら聞かない性格なのは付き合いでわかっていた。

「…お前がそう言うのなら俺はもう、何も言うまい」
      げんな
「ありがとう、幻那」

この数年後、初老の男は命を落とした。

苛烈なる妖魔との戦いで友をかばい…。

そしてそれから…10年の月日が流れた。










彼はその日の事を良く覚えていた。

一つ年下の友達は、そのくるくるとよく変わり、笑顔を見せてくれた明るい表情を消して無表情にきちんと正座をして、彼の祖父の隣に座っていた。

白と黒の世界。

その場所は二色に染まっていた。

彼の目の前には、友人の父母の写真が大きく引きのばされて笑顔でこちらを見つめ返している。

明るい人たちだった。

写真を見ているのがつらくて目をそらし、友人に目を向けた。



「兄ちゃん、兄ちゃん」と、後をついてきては一緒になって遊んだ彼は今、無表情に参列者を見つめている。

しかし彼には泣いているようにも思えた。

涙がこぼれていないのが、不思議に思うぐらいに彼の瞳は確かに泣いているように思えた。

色素が薄く茶色の髪に、大きくて深緑色に見える瞳。

小さな彼が喪服を着ていることさえ信じられなかった。



「…ちゃんは、これからどうするのかしら」

「ご親戚の方は見えられていないのね…」

「お母さん、あの子を連れて家出なさったらしくて」

「まぁ! じゃあお父さんとは血がつながってないのね」

「…ご実家の方にも連絡しようとも、何もお家に残ってないようで」

「お父様も、施設で…」

「じゃあ、…あの子もそうなるかしら?」


傍に居た、一真の家の近所にすんでいた小母さんたちの会話を聞いて、彼はぎりっと歯軋りをする。

友人の父母は事故で亡くなったのではないと聞いていたからだ。

連続通り魔事件が友人から父母を奪った。

友人の父は警察官だった。

祖父の話ではとても優秀な、交番勤務の警察官で親しみやすい性格な人だった。

友人は、母親とともにパトロール中の父親にお弁当を届けに行き…そこで三人とも襲われた。

助かったのは…友人一人だった。






「…一真」

彼の祖父が葬式が一段落し、近所の小母さんたちも皆帰っていったあとに、そう名前を呼んだ。

のろのろと、友人…一真は顔を上げる。

「事件の事を大人連中に聞かれて疲れたな」

ぴくり、と一真の顔に表情が戻った。

「今日もお父さんとお母さんのことで聞かれたが……よう我慢した。えらかったな」

頭をくしゃりと撫でられて、一真は口を開く。

「…僕のせいなの」

彼は一真に近寄った。

「僕、逃げなさいって母さんにいわれたのに足がすくんで恐くて逃げれなくて」

一真に頬に涙がようやく流れた。

「一真ちゃん…」

彼の母親がそっと一真の頭を優しく抱きしめる。

「違うの、一真ちゃんのせいじゃないの」

「だから僕、何言われても、平気、なの。僕が悪いから。だから僕は、僕は一人じゃなくちゃいけない」

「お前の、どこが悪いんだっ」

「小僧」

彼と、彼の祖父の言葉が重なる。

「たとえおぬしの身体が恐怖に震えんでも、お前に何が出来た? あの父や母がお前を護ろうとした気持ちをお前は自分を責めることで無駄としておる。そんな親不孝は許さんぞ」

「…そうよ。一真ちゃんがそんなこと言うと、お母さん達が悲しむわ…」

「……っ」
堰を切ったように涙をこぼす友人の手を、彼は握る。

「泣いて、いいからな」
一真はその言葉で初めて、声を出して泣いた。


「お父さん、書類の提出は全部すみました」

彼の父親がそう言うと、泣き終えた一真に視線を合わせるように腰をかがめた。

「一真ちゃん、ごめんね。小父さん達、一真ちゃんに許可貰わないで勝手に話すすめちゃったけど」

「?」

泣きはらした目を向ける一真に。

「一真ちゃん、家の子にならないかい?」

「え…?」

「父や母を忘れろ、とは言うてはおらん。だがお前には家族というものが必要じゃろう。お前「を」護っていく家族が。そしてお前「が」護る家族が」

「…僕…僕…」

「父や母が伝え切れんかったものをワシらがおぬしに伝えていく…深くそう考えるな」

「…僕、一人じゃなくていいの…?」

「いいんだ」
そう言い切ってから、彼は写真で微笑む男女を見つめた。

「お前は今日から、手塚一真。俺の弟だ」

それは、手塚国光11歳。一真は10歳になったばかりのことだった。










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