闇の住人 (後編)



(皆が支えてくれるのだから)

うん。

(本当のお父さんも、そして僕も、お母さんもちゃんと見てるからな)

うん。

((だから、一真))

うん、僕頑張るよ。

だから。

(だから)





「さよなら」

そう口にして一真は眼を覚ました。



ぱちり、という音が聞こえてきそうなくらいにはっきりと一真は目を開けると、数回瞬きを繰り返してそれが手塚家の自分の部屋だと認識すると身体を起こした。

だが半分以上、見た目以上に夢見心地なので、ベットの上でぼーっとしている。

「おはようございます、一真様」

「…おはようございま、す?」

ナチュラルに「様」付けをされて、一真は?マークを浮かべていますという顔をしながら挨拶をしてきた人物を見上げた。

「初めまして、…手塚一真です」

ふにゃり、という表現が似合うような笑顔の一真に彼女は微笑んだ。

「初めまして。申し遅れました…。私、草薙弥生と申します」

彼女の名前を口の中で転がす。

「覚えてらっしゃいませんか?」

「…僕、たちを助けてくれた方、ですよね? ありがとうございました」

そうお礼を言ってから自問自答する。

助けてくれた?

何から?

その間に弥生が何か言っているのだが、一真の脳裏に先ほどまでの(一真の体感として)記憶が蘇ってその言葉を耳から遠ざけた。














学校帰り。

義兄の国光、裕太とその兄・不二周助、そして知り合って仲良くなった海堂薫らと一真はテニスコートにいた。

体調の悪そうな一真を気遣いながらも楽しく過ごしていた彼等は、帰りにふと立ち寄りたくなった公園で一休みしていた。

そこは植物が多く、あまり夕刻になると人気がない公園であった。

「一真は一番小さいから一番下の弟だ」と誰かが言い、「そうしたら兄ちゃんって呼ばなきゃね」などと軽口を叩きあいながらそこへと不自然なまでに自然に歩く。

ちょうど電灯がぽつりぽつりとつく時間帯だが、今日日の小学生ならばこの時間帯はまだまだ遊び時間だ。

ならばジュースでも飲んで帰ろうという話になったのが、それが『罠』だったのだ。

公園に入りたくなるという気持ちも、休もうと思う気持ちも全て公園で待ち構えていた人物が、一真の負の感情…闇の瘴気を使って子供達を遠隔操作していたのだと、一真達が知るのはもう少し後のこと。

待ち構えていた人物は、闇を纏っていた。

叫んでも、叫んでも助けは来ないと思い、そして子供達は逃げ惑った。

そして、ようやく見つけた他の人は、その人物の眷属とも言うべき生き物を駆逐するのに手間を取っていた。

闇を纏ったそれが、自身が「吸血鬼」であり、一真の父母を殺したと、一真を殺して血を飲むのだと言って迫ってきたとき、海堂と裕太は一真を庇う。

(殺される!)

そう三人が思い、目を閉じた瞬間、鈍い音が聞こえた。

目を開ければ、大きな背中が自分を守っていてくれていた。

「っ!」

「邪魔するな、地使い」
それとも先に死にたいのか?

闇の住人…吸血鬼の言葉にその人物は笑ったようだった。

「しなせんよ…。死なせて、たまるかぁっ!!」

うっすらと立ち上った男のオーラを確かに一真と、その背後にいた少年たちは見た。

しかし、吸血鬼のそれはさらに男のオーラを上回る。

(嫌だ)

一真の脳裏に両親の最後がフラッシュバックする。

「一真」

そんな義弟を助けようと国光が動こうとするが、弥生達に止められて動けない。

「一真くん! 裕太! 海堂くん!」

周助の声。

「…嫌だ、嫌だ! もう嫌なんだ! 誰かが傷ついていくのを、死んでいくのをただ見ていくのなんて、絶対嫌なんだぁぁ!!!」

一真の小さな身体が振り絞るような、そんな声を上げる。

「「一真…」」

裕太と海堂がそう名前を呼んだ時だ。

『一真』

ふわり、と宙に人影が浮かんだ。

「!! お前は!!」

吸血鬼がばさりと蝙蝠でできたマントを払い、距離を置く。

一真を庇った人物はがくりと膝をついた。

「お、かぁ、さん?」

「!」

一真の側で裕太と海堂が目を見張るのがわかる。

判ったのだろう。

ここ、数日のニュースの被害者の顔写真を覚えていたのかもしれない。

『一真? 貴方には力があるわ』

「そんな、もの、ないよ!」

あったら母は、父は死ななかった。

そう叫ぼうとした一真の唇を、母の姿をしたそれは指一本で黙らせた。

『一真、力は心なのよ?』

「こころ…、こころのちから?」

母の眼差しは生きていたとと同じく優しげだった。

『さぁ、貴方の心はなんと言っているのかしら…』

「ぼく、の、こころは…」

父母の死、友人の怯え、義兄の声、見知らぬ、だけれど自分を守ってくれている人、吸血鬼に対する憎しみ、悲しみ…。

「…?」

一真の心が静かになっていく。

その静かになった心に何かが囁いた。

『さぁ、その言葉を口にして』



大気に宿りし精霊達よ




一真はそう呟きながら、静かに前に一歩、出る。

「?!」

闇の眷属たちをようや倒せた弥生と、彼の主はその声に一瞬だが身体をこわばらせた。

一文字、発音すたびに彼らの周囲に居る精霊たちが、少年の元に集結して行く。



風と為りて我に力を与えよ


「一真?!」

「一真君?」

義兄たちの声は彼の耳に届いていたが、一真は返事を返さなかった。

代わりに風が逆巻く。





天使の名のもとに集い



「まさか、まさか、お前…ただの子供、いや…いや違う!

ここで初めて吸血鬼は狼狽した。

目の前に居るのは衰弱した獲物ではないことに気が付いたのだ。

眷属たちを使い、一真やその周囲の人間たちに襲い掛からせるのだが、一真の周囲に集まった濃度の高い力に全てが【浄化】させられていく。

「ばかな!」

その様子に、彼を庇って倒れた男も驚愕した。

「風、の精霊…そんなっ!」

『今、貴方の目の前で起きていることが全ての真実よ』

その声に、彼は顔をゆがめる。







全ての悪しき存在より解き放て!!!


 霊 覇  天 盡!!!





光の渦とかしたその力が吸血鬼を取り囲むのを見て、その後…、一真は気を失ったのである。





続く
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