エピローグ
「皆は…、皆は?!」
思い出した記憶に驚いて、しっかりと覚醒する恐る恐るそう口にすると、弥生はまた微笑む。
「大丈夫ですよ、皆様客間のほうにいらっしゃいます」
「ありがとうございます!」
そういうと一真は布団を跳ね上げた。
廊下を走り、客間に急ぐ。
ばたばという足音を立てると国一に叱られるのだが、構いもせずにかれは走った。
ばん!
「国光兄ちゃん、周助兄ちゃん、裕太、薫!!」
「こりゃ、一真!」
国一の叱責にも動じず、一真は大きな声で親友の名前を呼んだ。
「薫って呼ぶな」
「おはよう、一真」
海堂薫と不二裕太はすでに起きていた。
無論、周助と国光もだった。
「今日が日曜日で本当によかったよね」
にっこりと笑いながら周助は長身の男の側に立っていた。
「水無月流魔だ」
「あ、あの、そ、その…は、初めまして!」
「落ち着かんか、一真」
国一はそう言いながら頭を撫でた。
「は、はい…」
「そちらには母が来たそうだな」
「国一祖父ちゃん…?」
「こちらにはお前の父たちがきたぞ」
「!」
吸血鬼の残党の眷属が、おこぼれをもらおう…端的に言えば主が執着した血を一滴でも飲もうと家に居た国一と彩菜を襲撃した。
それを撃退したのは三人の幽霊だった。
一真から預かった位牌から立ち上った光の中から現れた彼らは、一瞬にしてその眷属たちを庭の木々の力を使って大地へと消えさせた。
それから一人はすぐさま消えてしまったが、もう一人の初老の男はじっと国一を見つめてから頭を下げて消えていった。
残りの一人は…一真の養父であり国一の教え子だった。
(あの子は神様から素晴らしい力を授かってしまったようです)
(どうぞ、あの子をよろしくお願いいたします)
そう言うと消えてしまった。
最初に消えたのが実父、次に頭を下げたのは実の祖父だと漠然と国一は感じたが口にはしなかった。
国一は黙って一真の頭を撫で続ける。
一真の顔は青ざめていた。
何か口を開こうとする義理の孫の様子に気がついて、国一は眉をしかめる。
「一真、あやまる必要はない」
国光が先手を打った。
「皆、無事だった。怪我もしていない。悪いのはお前じゃない」
「だって…さ…」
一真の言葉が徐々に小さくなっていく。
吸血鬼との騒動に巻き込んでしまった。
怖い思いをさせてしまった。
命の危険にさらした。
様々な言葉が一真の中で渦を巻いた。
「大丈夫」
そう一言言ったのは周助だった。
「君の兄さんが言ったとおりだから、ぜんぜん大丈夫だよ」
「周助兄ちゃん」
「それどころか、得がたい存在を知ることができたんだもの。ね?」
にこやかに笑う周助はうっすらと目をあけていた。
どうも「使い人」「妖魔」の類の説明を流魔と名乗った青年にさせていたらしい。
「でも、迷惑、かけた…」
「かけたっていいだろ」
きっぱりと海堂がそう言った。
目は「何をうじうじしてやがる」と言っていた。
「だって俺たち、ダチだろ」
裕太の言葉に、そしてそれに頷く海堂の様子にくしゃりと一真は顔をゆがめかけ、そしてそれをごまかすように顔をこすった。
「僕らは『兄貴』だもんね」
「君はともかく、俺はな」
「へぇ、そういうこと言うんだ…手塚くん」
うっすらと目をあけながら言う周助に、国光は眉を寄せる。
「皆さん、お茶が入りましたよ」
お盆にお茶をのせて国晴と彩菜が客間に入ってくる。
あんなことがあったのに、皆には笑顔があった。
養母も、養父も、義兄も。
友人も、その兄も。
死んでしまった母も養父も父も、祖父も。
そして彼を取り巻く、地使いも風使いもその付き人も。
彼の様子を微笑ましく見ていた。
誰もが彼を大切に思っていた。
誰もが彼を愛しく思っていた。
「うん…うん!」
そして彼も、等しく全てに対して暖かな感情を返していた。
「こういうのも、…いいな」
小さく呟く主に弥生は微笑む。
「はい」
そう返すと、ずっと押し黙り、暖かく見守っている地使いに目をやる。
包帯だらけの地使いも安堵したように微笑む。
(…だが、一真君が使い人の術が使えるという問題が残っているがな…)
それでもここに、手塚(旧姓「影山」)一真を巻き込んだ一つの事件が…表向きにはこののち、犯人は逃亡。未解決事件とされるが…幕を下ろした。
これが後に「麒麟」と言われる存在の目覚めであったことに、彼らは気が付いていなかった。
麒麟聖伝〜麒麟覚醒編〜
完
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