16 類は友を呼ぶ
「僕、不二周助っていうんだ。宜しくね」
「僕は海津光燠といいます。宜しくお願いします」
後に彼の相棒である一ノ瀬梨乃はこう語る。
「…なぜかゴングの音が聞こえました」
小学生ながらに『ジュニアテニス界の天才』と謳われはじめた、外面菩薩内面魔王な不二周助と。
水使いで、さらには戦国武将『第六天大魔王』織田信長の気質と記憶と妖力と兼ね備えた海津光燠の対決はここから始まったのである。
『付き人』という存在が決定した事は、手塚兄弟と係わり合いのある三人の小学生たちにもきちんと伝えられた。
通常ならば一般人にはこういうことは隠すのが術者から言えば当たり前の事だったのだが、元々使い人の力に目覚めたのもその力に振り回されないように修行していたのも知っている三人ならば別に教えてはいけないことはないだろうと言う事になった。
不二裕太と海堂薫の二人は「またテニスできなくなるのか?」と眉をひそめたが、逆に彼らが居るおかげで自由に一真と遊べることができるかもしれないということを暗に教えられ、その存在を受け入れた。
風牙衆の子供たちと同じなのだろうと、二人は思ったからだ。
最近、手塚家周辺に引越ししてきた風牙衆には、勿論次世代の子供も少なからずいる。
彼らは皆、よく気がつき、聡明であった。
それは少なからず神凪一族からの虐待が、彼らをそういう風に作ってしまったのだが。
(周囲に気を配り、注意を怠っていなければ神凪は平気で幼い子供にも女にも暴力を振るったし、それは神凪一族の子供も同じだった。
なので風牙衆の女・子供に至っては神凪一族の前には不必要に出ず、またでしゃばらず、必要があって彼らの前に立つときは神経を研ぎ澄ませ、叱責を受けないように心がけるよう教育を受けているのだ。
まあ、それでも必要以上に神凪一族は彼らを責め立ててはいたが)
それは兎も角
閑 話 休 題。
なので、同世代でありながら自分たちよりも頭が良く、またこちらの言葉を真剣に聞き、あるいは一緒になって笑いあってくれるようになった風牙の子供達を尊敬してもいた。
風牙の子供たちも二人のことをとても好意的に、そしてある意味尊敬もしていることには気がつきはしなかったが。
そうこの二人は良いのだ。
問題は。
「不二」
手塚国光はテニスのライバルであり、押しかけ(それでもあまりもう嫌いとはいえないので微妙な位置な)親友の不二周助は、テニスコートで数回目の勝負のときにぽろりとそれを教えたのを多少後悔していた。
不二周助はその大人しそう、温和そうに見える容姿とは裏腹に結構過激な一面も持っている。
術者ではないのにも関わらず、一真のところにやって来た石路紅羽を挑発のを皮切りに、使い人最強の血筋を誇る水無月流魔にさりげなく喧嘩を売るのは日常茶飯事のことであった。
基本的に周助は自分の懐の中に入った人物に甘く、そしてその人物に近づく者に警戒心を抱く性質を持っているのだ。
特に不二裕太、己の実の弟もともかく手塚一真に近づく人物達には人一倍警戒心が強い。
「だって裕太も海堂も自分でなんとか気をつけるだろうけど、手塚と一真君は…(ボケてるし)…ね?」
(何が「ね?」なのだ、何が。…の間には何が入るんだ)
「はっきりと言って欲しいの?」
(エスパー?!)等という微笑ましい(?)やり取りを国光はしたことがある。
友人としてお節介だけど放っておけないのだと言われて、国光は上手く返すことはできなかった。
不二は彼なりに一真を大事にしてくれているのは知っているし、彼は口下手な自分よりも弁は立つ。
弟
精霊術師としての一真の力を見たことが多々あるが、それを吹聴しようとはしたことがないし、だからと言って一真を特別視しない友人なのだ。
敵に回すとやっかいなのだが、味方でいるときはこれ以上もなく頼もしい存在だ。
ただ彼は付き人、そして風牙衆の大人…特に風牙衆当主・風巻兵衛を危険視しているのだ。
「一真君に恩があるからって一族引き連れて守りに来ましたってところから怪しいじゃないか。例えそれが仮に八神さんの言いつけであったとしてもだよ? 何か裏があるに決まってる」
その見解は正しく正しいのだが、国光や一真などは「そうか?」と小首をかしげてしまう。
「手塚や一真君たちは人が良すぎるからね? 友達の僕でバランス取らなくちゃ」
にっこりと微笑みながら、不二周助は弟と、そして海堂を引き連れてまた手塚家に泊まりに来たのだ。
そして、ある意味運命の出会いを果たした。
それが冒頭の挨拶である。
「この重い空気はなんなんだ? 国光」
年齢的には幼いが、使い人としてはすでに成人であるがために風牙衆の分家次期当主という立場に居る不破秋典は眉をひそめ、そして促された先を見て納得した。
ちなみに今一真はいない。
タイミング悪く、風牙衆本家の方に呼ばれてしまい、そちらに顔を出しているのだ。
「こんにちは、不破さん」
「ちわっす」
「あぁ」
挨拶してきた裕太と海堂に軽く挨拶し返す。
手塚家の真後ろに引越ししてきた彼は、同年齢であり風牙衆分家当主という立場なので国光達の術者に対する良き相談役となりつつある少年だ。
最近、国光と同じ小学校に転校してきて同じクラスという彼は、玄関から入るのではなく、いつの間にやら作られた秘密の入口から手塚家の庭に入って来るのだ。
余談ではあるが手塚家では一応、国一の道場を利用するという形で風牙衆は勝手に庭に入る程度は黙認されている。
「こんにちは、皆様」
丁寧な物腰でやってきたのは、秋典の付き人の後藤吉野だ。
無表情、というか国光よりも硬い表情の彼女は、庭に居る二人に目をやった。
「周助様と海津様?」
「も、申し訳ありません…」
海津光燠の付き人である一ノ瀬梨乃がすまなさそうに頭を下げた。
水の付き人として先程、裕太達に挨拶した彼女は笑顔の周助と光燠になにやら中てられて、あの二人だけの話し合いというか異様な黒いオーラの中に入っていけないのだ。
「なにやらお二人でお話し合いをしたいそうで…」
勝気そうな彼女がそういうのも無理はないだろうと国光は密かに思う。
なにせ『あの』(どんなのだといわれれば表現に苦しむが)不二周助と、そしてそれと同様の黒い笑みを浮かべる事ができる海津光燠のタッグなのだ。
しかも今は内心国光がつけてしまった開眼モード状態の不二である。
(正直、自分はあの空間には入りたくない)
それが国光の本音だった。
「付き人のお前を放って?」
秋典はそんな国光を他所に小さく笑った。
「…わ、私は」
「お前が一真の水の付き人じゃなくて、『魔王』の付き人だなんてことはお見通しだ」
海堂の言葉に梨乃は困惑したように秋典を見上げる。
「『魔王』ってだれっすか?」
海堂がさらりと話を元に戻す。
秋典はさして気にした風もなく、肩を竦めてから「海津光燠、あいつのことさ」と不二の隣で一件にこやかに会話している子供を指差した。
「あいつ」
「海津が?」
裕太や海堂にとって海津光燠はただの付き人ではなかった。
一真の「夢であった友達」ということで何回か彼の口から名前を聞いたことがある二人は、一真に紹介されたその日に意気投合までもいかないがそこそこ仲は良くなったのだ。
他の大人の付き人たちとは違い年の近い彼を、時代がかった言葉を使うがそれもまた個性と二人は受け入れていた。
もっとも今は猫を被っているようなので、普通の話し方のようだが。
「光燠が魔王?」は裕太。
?マークを飛ばす二人に対して梨乃と国光は眉を寄せながら秋典を見つめた。
『魔王』
…風牙衆の当主全員には海津光燠がどういう存在かは知らされているのだ。
以前の海津光燠+織田信長の御霊=現在の海津光燠。
キメラ
魂の合成獣であること。
国光や手塚家の面々はそのことを知らされても「で?」と真顔で問い返した兵だが、裕太や海堂、そして裕太の兄・周助はどういう反応を示すかわからない。
おそらくは国光と同じ反応だろうとは思うのだが、いかんせん彼らの口から風牙衆の子供たちに伝えられたら、いかに聡明な彼らでさえもいらぬ騒動の元になってしまう。
少なくともその身にまとう魔力で本当に水使いなのかと思われている節もあるし、さらに加えれば探査・調査に秀でた彼らが本腰を入れて調べれば、例えそれが分家筋でも判るからだ。
織田信長の御霊は水使い・海津ゆかりの魔術師が先祖伝来に封じてきたものだったことが。
「確かに兄貴とあの笑顔で話が長続きしてるの見るだけで、光燠(性格が)黒いだろうけど、でもあいついい奴ですよ」
「………あぁ」
くっと秋典は笑って見せる。
「…お前の兄貴とおんなじレベルだから魔王じゃねーのか?」
「あぁ、そうか」
最近慣れてしまったのか、海堂も言うときは言うのだ。
そんな海堂の言葉に裕太は無情に素直に頷いた。
(そういうお前たちも…)という言葉を国光は飲み込む。
「やれやれ、どこもかしこも一真の周囲には腹黒属性か」
秋典の言葉に彼の付き人は無表情のまま、彼らの目の先でにこやかに微笑み合い、空気を重くさせている二人を見つめた。
呼霊法と呼ばれる風牙衆の伝声法の応用を使えば彼らが何を話しているかわかるのだが、それができないのは一重に彼らにそれがばれた時の精神的攻撃がかなりいただけないというのはもう想像で判る。
「類は友を呼ぶって言いますよね」
「え…」
裕太の言葉に梨乃は頬を引きつらせ、国光は小さく溜息をつく。
「でも中核は真っ白な一真なんだがなぁ…」
(そういう、秋典も結構黒い性格だというのを自覚してないのか)
口にしたらにっこり笑顔で『口撃』されるだろうからあえて口にしない。
類は友を呼ぶ。
「…なら、魔王属性の人間はまだ増えるということか…」
それだけ国光が口にすると、吉野は「ご愁傷様です…」とばかりに国光に頭を下げ、海堂と裕太、そして梨乃の三人は少なからず顔を青褪めさせた。
彼らの目の前で黒い空気に包まれた二人は、一真が帰ってくるまで終始にこやかに話しを続けていた。
これ以降、彼ら二人はお互いを好敵手であり一真を中心とした同盟を結んだらしいが、二人が顔をそろえれば必ずといっていいほど舌戦が繰り広げられる事になる。
それは何も二人だけではなく、同じ属性の人間が揃えばたちまちのうちに一触即発の空気が流れ出し、周囲の人間の胃がきしきしと痛み出す羽目になるのだが、そんな未来の事など彼らには勿論、予想できなかった。
ブラウザバックでお戻りください。
訳のわからない小話になってしまいました(苦笑)
というか、結局手塚家を軸に集まってきた術者は腹黒系か俺様系がこれからも多くなるだろうねっていうお話でしょうか。
なんとなく海堂も裕太も口は達者になって行くような気がしないでもない。
あと、女性は女王様気質か尻に引くタイプ。
「風使い」キャラ登場しました。二人とも、織田信長側につき、後半水無月流魔に殺害された風使いです。
「16 類は友を呼ぶ 」/似かよった傾向をもつ者は自然と集まるもの。
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