(2)世界を閉ざす賛美歌

(後編)





食事をすませたあたし達は散歩とリハビリもかねて、外出することにした。

勿論、昨日できなかった買い物もする。

かかりつけの病院を探したほうがいいのだが、和麻の方で情報屋さんを介して信頼できそうな裏の事情もよく知る医者を探しているのだそうだ。

…普通の大きな病院でいいんじゃないかなぁ、とか思ったのだがなにか息子達には考えがあるんだろう。

…まあ、神凪の息のかかっていない裏の病院とか医者というのは少ないから、時間はかかるだろうけれど。
(だってあたし、死んだはずの人間だし、もしも見つかったらややこしいことになりかねない)

長時間歩けないけれどまったく動かなかったらそれはそれで駄目なのだ、あたしのこの身体は。

昨日の夜にお世話になったデュランダル一家に日本に無事に着いたことをお知らせすると、主治医でもあった艦長、もといタリアさんからその旨は注意を受けた。

リハビリを続けていけば、普通の人と同じだけ、ちゃんと歩けるようになる。

しばらくはシンや和麻に迷惑をかけるかもしれないけれど、どちらかに付き添ってもらわないと外には出れない。

人目を気にしなければディ(ディスティニーの愛称)もその背中に乗せてくれるんだけれど、『チャイルド』の特性上、やはり傍にシンがいないとあの子は出てこれない。

あぁ、外に出るといえば、本当は引越し蕎麦を買って隣とかに挨拶がてら配るのだが、昨日は気がつかなかったが仕事用に隣の部屋もうちの息子は購入したそうだ。

うぅ…ここがいくらか聞くのが怖い!

借りたんじゃなくて、買ったっていうところがポイント!!

何千万もするとこだろうと思うのに!!

まったくの仕事用の隣の部屋にはもうすでに家具を入れていて、それなりに見せてあるし、何よりも霊札や仕事用の魔術用品もあちらにあるということだ。

他にもいくつかアパートとか借りてるらしい。

フリーの退魔師だから、組織に目をつけられることもあるだろうし狙われることもあるから、勿論偽名で借りたりしてるらしい。

あ、ちなみにこのマンションはあたしの名前「八神」で買ったそうた。

隣は「シン・アスカ」で。

多少なりとも調べれば、それが和麻の身内だってことはわかるんじゃなかろうか、と言ったのだけれど。

どうもうちの長男はあれだけ言ったのに、苗字は同じだがあたしとシンは親子だが、自分は遠縁の人間という戸籍を作ったらしい。

あれだけ親子にしてくれと(見かけは同じ年齢だけれど、あたしは母親なのだから)頼んでおいたのにも関わらずだ。

大泣きしてやろうか、と思ったんだけれども「母さん達の為なんだ」と力なく微笑まれた上に、もうすでに戸籍を偽装するためにかなりの金額をはたいてしまっている以上、なんとも言えなくなってしまった。

だって稼いだのは和麻、ここまで準備してくれたのも和麻、お金を支払うのも勿論和麻だからだ。

家から携帯電話から服から、食事から電気代から全ては和麻とシンの退魔師としての収入から………。

……。

……。

…うぅ、駄目な親ですみません、息子たちよ。(涙)

あ、話がそれた。

食事の後片付けをして、食料品もそこそこ買おう、何を作ろうって息子と話あって決めるとメモに書く。

お化粧をして身支度を整えると、シンも用意して待っていてくれた。

「和麻も一緒に来ないの?」

「…あぁ、ごめん母さん。本当は行きたいんだけど、どうも仕事が入りそうなんだ」

本当にすまなさそうに言う息子の頭を撫でたくなって、だけれどもうすでに撫でられるような身長さではないから頬を撫でる。

さすさす。(撫でてる音)

「謝らないの。お仕事だもの。お母さんも早く治して、もっと動けるようになったらお仕事頑張るからね」

無料のアルバイト及び就職情報誌をGETしてくるから! なんて言うと和麻は少しだけ顔をしかめる。

「ゆっくりでいいよ。あんまり仕事させたくないんだ。学校とか行きたいのならいけばいいし…ただ家にはいてほしいから」

むぅ。

「またその話、蒸し返してるのか? 母さん」

あきれたようにシンがあたしを見てるのが判る。

「だって、シン…」

「いいの、いいの。母さんはででーんと家にいてくれたら。仕事は俺らがしとけばいいことなんだからさ」

そんなことよりさっさと行こうぜ、なんていわれたのであたしはその場でその話はそこまでにした。

…あたしの仕事もそうだけど、シンをこっちの学校にも入れたいんだよねぇ。

そのことも言ったけれど二人に話をそらされてそのまま流されちゃったんだよなぁ…。

駄目なのかなぁ。

こちらの世界に来る前にもうアカデミーは卒業してるって言ったけれど、数年は若返ってこちらに来たから、今どう転んでも高校生にしか見えない彼。

…けど、あたしはバイトはするぞ。うん。

ディスティニーが小さく鳴いて、その姿を消した。

『チャイルド』の彼はシンの半身でもあってその姿を消しても、その存在は常にシンと共にある。

「じゃ、一緒に出ようか」

「あぁ」

あたしは息子達にそう言って、家を出た。

マンションを出たところで分かれると、シンと一緒にゆっくりと歩く。

久々の日本は都会はやっぱりごみごみしていた。

日用品で昨日買い忘れたものや、食料品を買うついでにデパートの位置、駅からの距離を把握する。

途中で足がしびれたり、ふらついたら即喫茶店かハンバーガーショップに行くのを約束されて、二人(+一体)で仲良く時間をかけて歩いた。

…周囲の人はあたし達をどう見ているだろう。

どう見ても、母と息子には見えないだろうという結論がすぐに自分の考えに出て、少し胸をえぐる。

若くていいじゃない、とか言われるだろうけれど……ちょっと複雑です、お母さんは。

なんと言いましょうか。

年齢に担った知識と経験をそろえた上で若いとか言われたらそりゃあ嬉しいしけど、今のあたしは強制的に肉体年齢をとめられたまがい物のお母さんで、しかも精神年齢は多少プラスアルファされていて…(自分で考えてて頭痛くなってごっちゃになった)…止めよう、暗くなる。

母さん?」

「シン、こっちの服も似合うかな?」

「俺ばっかりじゃなくて母さんの服だろう?」

そう苦笑いしながらも付き合ってくれるシンが好き。

仲良く手を繋いでマンションに帰り、まだ和麻が帰って来ていなかったので、シンと一緒に昼食を作る。

一見、高校生ぐらいに見えるシンだから補導する立場の人が出たらどうしようか、なんて思ったけど取り越し苦労だった。

野菜を二人で並んで切っていく。

こうして二人しての料理なんて初めてだ。

判ったことは。

「シン…ものすごく大雑把…」

「え、いや、だって、ほらアカデミーの野戦訓練とかでも包丁握ったりしたけど、こういうのは、チームメートの女の子がしてくれたから、さ」

女の子の名前は確かルナマリアって言ったっけ。

……種運命はちょっとしか見たこと無かったからわからないけれど、彼女は最終的にはどうなったんだろう?

そんなことをうっすらと思っていると、シンがそれを摘み上げた。

分厚く剥いてしまった皮を恥ずかしそうに持ち上げて、笑ってるシン。

彼が笑ってれば、いっか。なんて思ってしまうあたしは薄情な人間だろうか?

昼食を食べに帰れる時間がないという和麻の連絡に少しだけ残念に思いながらも、食事を済ませる。

それが終わると買ったものを片付けて、昨日と今日、かなり酷使までは行かないけれど動かしたので身体のマッサージを入念に。

それから昨日買ったものが送られて来たのでそれを搬送してきた運送会社の人とシンに御願いして置き位置を決める。

一日経つのって早いなぁ。

そうこうしているうちにもう夕暮れ時だ。

晩ご飯に作る料理を二人で決めて、判らないレシピはつなげたばかりのネットで調べて印刷した。

買ってもらった携帯電話に和麻から連絡が入って、帰るのは深夜になるとのことだ。

「危ないのなら、お母さんは家にいるからシンとディスティニーに行ってもらいましょうか?」

なんて言うと和麻は軽く笑って「そこまでの相手じゃないからいいよ」なんて返してきた。

…。

あれ? なんか記憶に引っかかった。

…フィクションでの、話の流れ…出だしはどうだった…?

なんで和麻との電話でそれを思い出すの?

え、えーと…もうかなり薄れてるけれど、確か殺人事件は起きたはずだ。

助けられるのであれば、助けたい、な。

助けられるかどうかは判らないけど。

しかも、いつ、どこで、何が、そして誰がそんな目にあうのか忘れてしまった上に、息子に頼らざるおえない自分に自己嫌悪しながらどうにか口に出した。

「母さん?」

「和麻、その…神凪の方の…の家の方を少しだけ見ておいてくれないかな」

の家はほどなく神凪の家に近い。

異常があればきっと息子なら気がつくだろう。

「なんで?」

「おじいちゃんやおばあちゃんが元気でいらっしゃればそれでかまわないんだけど…」

嘘は言わないほうがいいけれど、どう説明すればいいかわからないから、こう言う事にした。

「なにか嫌な予感がするから」

「神凪にとって? それともの家の人間が?」

「それは判らないけれど」

「……見ておくだけでいいなら、いいぜ」

「ありがとう、和麻」

「そんかわりキス一回、じゃ」

ぷつり、とすぐに電話が切られる。

母さん、神凪がなんだって?」

「少し嫌な予感がするから、の家を見てきてほしいって頼んだの」

「ふぅん」

ディがあたしの足元に擦り寄って小さく鳴く。

「それにしても」

「?」

「なんでうちの息子はあたしの御願いを聞くたびにキスを強請るんでしょうか?」

シンが笑顔で言った。

「そりゃ母さんを愛しちゃってるからに決まってる」

…真顔でそんなこと言われて、嬉しく思う反面、それって家族としての愛情よね? なんて小一時間問いただしたくなった。






その日の深夜。

精霊たちがあまりにも騒ぐので起きていたら、血で汚れた和麻が隣の部屋に一人の人物を担ぎ込んだ。

片腕を無くしたその彼の名前は、結城 慎治。

神凪の分家・結城家の男の子(もう、そうは言わない年代かもしれないけど)だった。








ブラウザバックでお戻りください

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送