(1)君を待つ風
(前編)
「で、さんは無事なんだな」
「あぁ。…無理しなきゃもう少しで回復するだろうな」
霊札や術をかけられ、それに抵抗しようとした為か、母さんの体調は悪い。
微熱が続いて、胃腸の方も弱っているからお粥系しか食べれない状態だ。
日本に帰国してからすぐに巻き込まれた『風牙衆の反乱』は神凪一族の力の大半をそぎ落とし、風牙衆に至っては数人の術者と頭首・風巻兵衛の命を持って幕を落とした。
風牙に味方していた、一般人を殺害した魔術師・ミハイルも死んだ。
風牙を縛る鎖は神凪から国(警視庁)に変わったが、神凪のそれよりもよっぽどましだろう。
神凪に残されたものは炎の精霊王と契約したという「炎雷覇」とかいう剣を扱えることと、その管理をしているということぐらいだろうか?
事件のことを魔術道具の発注がてらレイに教えていた。
いや、情報料で何%かまけてもらえるのと言うのもあるが、ミハイルの口にした俺を指す「コーディネーター」をなぜ奴が知ったか、独自の情報網を持ってして、俺達とは違う方向で調べて欲しかったからだ。
「そうか」
電話越しの友の言葉は重い。
「どうかしたか? レイ」
「シン、この電話は盗聴されていないな?」
「あぁ。その辺りは魔術的にも技術的にも問題はないぜ」
「…その…さんの、…『子供』のことだが…」
空気が重くなった。
「悪いが話せてない。そんな暇、なかったし。そこまで母さんは、回復してなかったから」
「…あぁ」
『子供』、というのは…母さんの子供、和麻のことじゃない。
母さんは、魔術師達にその、…非人道的扱いを受ける直前、妊娠していた形跡が在ることが、艦長…じゃなくてタリアさんの検診で発覚していた。
その『子供』の存在は、母さんは知らない。
タリアさんも治療の一環で催眠治療で母さんの昔の記憶を掘り起こした結果、母さんは妊娠にはまったく気がついていなかった。
母さんを助けたときすでにおなかにいなかったから、流産したか、あるいは…気持ちのいい話ではないが、魔術師達が…何かしらの実験に使ったか…。
タリアさんはもう少し精神的にも肉体的にも安定してから、話したほうがいいとは言ってくれた。
もしも不安定にして、母さんに何かあったら、きっと和麻がおかしくなってしまうだろう。
「実はな、和麻にも伝えて欲しいんだが」
「あぁ」
レイにしては躊躇うその言葉に、俺は首をかしげた。
「……その『子供』だと名乗る人物達から接触があった」
「……っば、おま、そんなわけ…っ」
信じられない言葉に…そう、レイが言わなければけして信じられなかったその言葉に舌が回らなくなった。
死んでしまっているものと、俺達は思い込んでいた。
だって、そうだろう?
崖から突き落とされた母体。
精霊達。
魔術師。
そのときに死んだか、切り刻まれたか。
魔術師が、簡単に手に入ったそういう類の存在をそのまま生かすとは考えられなかったから。
だから…っ。
「いいか、この世界。「ありえない、なんてことはありえない」んだ、シン」
「っ…っ、しょう、こは?」
「…今、父上がDNA鑑定をしているが、おそらくは間違いないだろう、とのことだ」
血の気が引く。
母さんの胎内から出され、魔術師達に何かされただろう、和麻の弟か妹の存在。
ん? ちょっと待て。今、レイは「達」って言わなかったか?
「レイ、今、「達」って言わなかったか?」
「…一人じゃないからな」
「は?」
「さんの『子供』は一人じゃなかった。…男一人、女二人の三つ子」
「…」
「……そのうちの、一人を俺はよく知っている」
「っ!」
俺はその言葉を聞いて次の瞬間、俺の中の時間は止まった。
「転生、という奴らしい。俺達とは違う形で、コズミックイラ世代の人間が、生まれ変わってこちらの世界に来ていたんだ。さんの、娘、として」
「だ、れ、が…?」
「ミーア・キャンベル」
俺が受話器が壊れるぐらい、それを握り締めた。
ミーア・キャンベル。
あのラクス・クラインの替え玉、というか偽者として議長の、こう言ってはなんだか駒になった歌手だ。
最後は、確か、ラクス・クラインをかばったと聞いていた。
向こう…コズミックイラの、あの世界の記憶は苦いが忘れてはいけない記憶だった。
アスラン・ザラ、ラクス・クライン、キラ・ヤマト。
そいつらの顔が頭に浮かび、そして消えていく。
レイの話からすれば、母さんの『子供』達のうちの二人の女の子が二人ともコズミックイラ世代の人間の生まれ変わりで、そのうちの一人がミーア・キャンベル。
『子供』達はそれぞれ母さんの中から落ちていくはずだったのだけれど、その場にいた魔術師の一人が面白がって三人を別々に分けて、保存されたそうだ。
…ホムンクルス、あるいは人造の使い魔を作る溶液の中に保存された三人は、それを見つけたほかの魔術師たちの手に渡り三人がばらばらになってしまい、おのおの、その魔術師の場所でなんとか人の形を得たらしい。
そのうち、一人は魔術協会の一つに助けられてもう一人を救い出し、もう一人は仙人、というか日本のニンジャに助けられて、育った。
と、レイはミーアと名乗ったその『子供』の一人に教えられたそうだ。
ミーアと、もう一人の女の子は、母さんの胎内に宿った頃から意識体として宿り、神凪や和麻の存在を知っていて、彼女が殺されかけた…いや、実質神凪一族から殺された一件も、母さんの中からつぶさに見ていたのだという。
その詳細な話は「兄にしか話せない」とのことで、それ以上は聞けずじまいだった。
つくづく信じられない。
けれど、俺達がこの世界にいて、俺達がそのときには理解できなかった能力(ディスティニーのこと)に目覚めた上に、精霊だとか悪霊だとか妖魔だとか魔術師だとかそういう類の存在を目の当たりにしてきた。
ありえない、なんてことはありえない。
この世界に来て、レイが教えてくれたその言葉をもう一度心の中で、まるで呪文のように呟く。
「くぅん」
電子音と肉声の間のような声に俺は視線を上げた。
「ディスティニー、母さんについてろって言ったろ」
くぅん、ともう一度鳴くと俺の指先に鼻っ面を押し付けようとする。
なんとか、顔に笑みが浮かべられた。
「…和麻、に言わないとな」
「きゅうん」
レイを通じて、その『子供』達が会いたいといっているのだ。
母親である、母さんと。
そして自分達の兄である和麻に。
口ぶりからして、契約者であることは知っているらしい。
それと、彼らが魔術師協会の一つの保護下に置かれているということと、その組織の人間を同行して会って欲しいと言って来たことだ。
「魔術協会『セントラル』、ね」
その名前は聞いたことがあった。
魔術の秘匿と秩序を目指し、頼まれてもいないのに一般人から魔術を隠すために暗躍している、軍隊形式を取り入れたヨーロッパを中心とした魔術師達の団体。
…あの頃。
和麻が復讐に燃えていたあの頃、突っかかってきた、というか邪魔しに来た男が所属してた。
そいつの顔を思い出して、ひとつまた溜息をつく。
「和麻に、いわなくちゃ」
そうしなければ何も始まらない。
俺はふらつきながらも、その場を後にした。
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シンはミーアのこと、ちゃんと知らないっていう設定で書いてます。それで大丈夫、だよね?(聞くな)
あんま好きじゃなったから、ほとんどまともに見てないんですよ、種運命。(なら、キャラ入れるなとは言わないでくれ)
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