(2)世界を閉ざす賛美歌

(EX2)




の家を見てきてほしい」

そう、最愛の母・に頼まれた俺、八神和麻は全ての仕事を終えた深夜、神凪の本家近くにあるの家付近がよく把握できる場所に文字通り飛んだ。

母さんの父母、つまりは俺の祖父母は神凪においては柔軟な意思の持ち主のはずだったが、今となっては知る由もない。

正直、母さんの葬式以降、祖父母の姿を俺は見ていないのだ。

話に聞けば、炎術の使えない孫を産んでしまった娘の存在を疎んじて隠居したとかしないとか。

まあ、そんなことはもうどうでもいい。

じーさんばーさんが俺のことを憎んでいようともうすでに過去のことなのだ。

俺自身は、俺を愛してくれると相棒のシンとディさえいれば、他はどうだっていい。

遥かな上空に身を躍らせ、家を一瞥する。

人の気配はあるが、さほどの異常もなにもない。

なら、帰るかな。

この程度のことで母さんの方からキスしてもらえるなら安いもんだ。

こういう面では疎くて晩熟な母さんは、シンやあのデュランダル一家と過ごしてから「キスは挨拶」とか過剰なスキンシップも平気になってはきた。

けれどなかなか自分からはしてくれない上に、最近はなんとかかわそうと努力している。

「に、日本人の挨拶はキスじゃないでしょう?!」とか慌てた母さんは可愛かった。

っと思考が母さん一色になるところで、とめる。

神凪の一族にはまったくわからないように動く、風の精霊たち。

あぁ…もう一つ、どこかで何かが動き出したな。

動いてるのは神凪宗家の本宅近く。

あれだけ精霊たちが動いているのにも関わらず、まったく神凪は騒動に気がついていない。

…いや、気づかれないようにしてるのか?

風の精霊たちが、その場所近くまで俺の身体を運んでくれる。

おお、なかなかえぐいな。

人間の身体が細切れになってる。

あのぐらいだと、二人かそこらか。

そんな血の海の中、がたがたと震えながらも炎の精霊を呼び込んで、何かに向かって攻撃するあいつ…確か、あぁ、あの仕事が重なったヤツだ。

そんな時にあいつの声が、耳に届いた。

…。

癇に障った。

なんで俺がこいつを殺さなくちゃいけないんだ。

殺してやるほど憎む価値もないヤツに、俺が殺したと思われながら死なれることすら迷惑だ。

それにこのことが母さんの耳にでも入ったら「傍にいたのに和麻、気がつかなかったの?」なんて言われてしまう。

俺は指先をただそいつに向かう。

ほんの少し力をこめればあの風も…。

…?

違和感。

…!

精霊たちが言うことをきかない?!

眉を潜めて、かなり込めて、遥か上空からそこに向かって『力』を叩き込んだ。

邪気が霧散していく。

そいつの身体を一瞬にして己の傍に移動した。

片腕を失ったヤツの顔はすこぶる悪い。

内心舌打ちをした。

死ぬのなら、俺が犯人ではないと思いながら死ね。

人を勝手に加害者にするな。

俺は加害者になるのならばそんな思考すら奪い取って一瞬で、命を奪っている。

そう言ったところで今のこいつには聞こえない。

ここから近いねぐらはあったが、一番こいつの命をつなぎとめるものがそろってるとしたら、我が家の隣だ。

治癒力の高まる魔術道具がある。

最終的な手段としてエリクサーもあるが…その分の料金はこいつに払わせるか?

それとも神凪か。

俺はとりあえず、そいつを担ぎ上げて、そのままその場から消えた。






携帯電話で隣の部屋の窓を開けておくようにシンに言っておくと、そこには母さんもいた。

「母さん、身体に障るだろう? 寝てればいいのに」

俺はそういいながら、部屋の床が血で汚れないように精霊たちに言って足元に落ちる前に空気中で止めてある。

「和麻、その人…」

「結城家のヤツだ。死にかけてたから、一応な」

と、言っても今の状態も死にかけは死にかけだ。

俺はもうすでに血がしみこんで着れなくなった服で止血すると、シンに言って霊札とギルバートから貰った魔術の道具を取り出した。

母さんが汚れるのも構わずにそいつの顔についた血をぬぐってやり、そして俺の手伝いをしてくれている。

「シン、霧香に連絡してやれ」

「…神凪に恩を売るチャンス、とでも言うのかよ」

コーディネーター(遺伝子をいじくって誕生した新人類で頭の回転やら身体能力は普通の人間とは違うんだと)だからではなく、こういう部類のことではシンはかなり鼻が利く。

そう、あくまでもこういうことだけにはよく気がつく。

瞬時にあの女の性質と神凪(分家とはいえ)を思い浮かべてそう判断しやがった。

警察は火力がほしい上に、古参の退魔組織とのつながりを喉から手が出るぐらいほしがっている。

「あの女の判断に負かすさ。その程度ぐらいはしてやってもこっちに不利益はねぇ」

シンが自分の携帯電話を取り出しているのを確認してから、俺は魔術道具を発動させる。

淡い光が浮かび上がり、そいつの身体を包み込む。

血が止まり、傷口が綺麗に修復されていく。

失った腕だけは元には戻せないが。

「…和麻」

「あぁ、悪い。血で汚した」

くそ、着易い服だったのにな。

生き延びたら慰謝料としてかなりの金額覚悟しとけよ、この野郎。

死んでも結城の家からむしりとってやる。

「あとはあの道具がやってくれる。悪いけど、今から客が来るよ、母さん」

まだ心配そうにあいつを見る母さんの視線を、俺に向けさせる。

「着替えたほうがいいって」

「…う、うん」

あぁ、その前にこれだけは言っておこう。

「俺はちゃんと言いつけ守ったんだから、母さんも後で約束守ってね」

昔の子供の頃の口調でそういう。

俺が何かをおねだりするときにこうすると、たいてい母さんは許してくれた。

「…一方的だったと、思います」

お。

ちょっとは母さんも抵抗してきたな。

へらり、と俺は聞かない振りをした。

「後でキス三回、宜しく」

「一回でしょ?!」

よし、キスすんのこれで認めたも同然。

あ、と唖然とした母さんの表情に、にっと笑ってやる。

「おい、あと10分くらいで霧香くる……ってお前、なんか言ったのか? 和麻。どうした? 母さん?」

俺はシンには何も返さずに、ただ笑って血のついた服を脱いだ。







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