(5)勝利の方程式
(EX5)
正直、余計な情報を与えすぎたんじゃないかと思う。
勿論、神凪に。
神凪厳馬を倒すときに「だが、幻滅した。神凪厳馬。あんたは、最愛の女を助けられないばかりか、今も苦しめてる」なんて言葉を吐いたし、口止めはしてあるようだが、神凪の幾人かは俺の母・の生存を知っている。
厳馬は倒したし、神凪綾乃も最後には手を出してきたのでまとめて昏倒させたので宗主も何かしら思うかもしれない。
ま、そのことを差し引いても「神凪厳馬をこの手で倒した」ということは俺の機嫌をすこぶるよくした。
本当は命をとりたかったのだが、母の…の泣きそうな顔を思い浮かべてしまった俺は最後の最後に手加減をしてしまったのだ。
え? どういう手で勝ったのかって?
それこそ地の利は俺にあるのだ。
罠をしかけて誘い出して、その場所に来たら発動させ、身動き取れないそのときを狙って一気に片をつけた。
正々堂々? なにそれ美味しいの?
シンやディに言ったら「汚ねーーーっ」「わふわふ」と言われたので速攻、そういい渡してやったら「俺、絶対和麻とは勝負しねぇ」「くぅん」とか言い出してきた。
「お前が俺に勝とうだなんて100年早いわ」と真顔で言ったら二人(一人と一体か?この場合)とも落ち込んでたっけな。
お前それでよくザフトの赤服着てたよな、とか思ったが…まあ、それはまた別の話だ。
機嫌よく朝食を作り、家族団欒を楽しんでいたら霧香から電話がかかってきやがった。
神凪の呼び出しに、少しばかり眉を寄せる。
が、致し方ない。
母さんからの家のことについても頼まれたしな。
まだうだうだ言うようなら今日、この日を神凪最後の日にしてもいい。
それ相応の準備…デュランダルに頼んで対炎術師対策の魔術道具一式は作ってもらっている…をいくつか装備して、俺は車を廻した。
この時、母さんとシンたちにいくつか装備を渡しておけばまた違っていたのだと思い知るが、それは本当に後の祭りだ。
神凪宗家の家に行く前に、の家に行く。
とりあえずの家の気配をたどるが人の気配がしないのに眉根を寄せ、後で誰かに聞くか、と思い直して宗家に出向く。
神凪の出迎えは無言の殺気と慇懃無礼な言葉で、それも宗主の一喝でいくつか収まった。
俺の傍には霧香とその側近二人がついてくる。
「神凪の感想は?」
「…コメントを控えさせていただきます」
女の方のその言葉に喉が鳴った。
言葉はあれだが、目が正直だ。
「よく来てくれた、和麻」
宗主とその側近もまた二人がその場に座っていた。
自然に笑みが消える。
大神雅人、とこいつは誰だ?
「八神和麻としては、お初に」
そう言ってのけると、眉を寄せる。
神凪和麻として交渉したいんだろうが、もう俺は八神和麻だ。
あんたの家族でも一族でもないんだよ、と言えれば簡単なんだが、な。
「で、用件は?」
最初にあったのは宗主からの謝罪と礼の言葉だった。
勿論分家の連中を助けたのと生かしておいた礼だ。
殺しても良かったが、という言葉は勿論口に出さない。
俺はただ黙って宗主の言葉を聞き、俺の方の交渉窓口は霧香になっていた。
とりあえず謝罪には応じ、その賠償金(かなりの金額)を貰うことで和解とはいくまでもないが停戦に応じよう、というところまで話は言った。
「それで勿論、いいわね? 和麻」
「…もう一声だ、宗主」
俺はダメ押しをすることにした。
…思い返せば、もしもあの女がと顔を合わせないという保証はどこにもないじゃないか。
「俺が二人ばかり、神凪で許せない人間がいる。一人は昨夜、俺なりに決着をつけれた。だが、もう一人、一番許せないやつがのうのうと生きている」
「和麻」
警察としては聞き逃せない言葉を俺が使っているからか、霧香が言葉をかけてくる。
「…それは、お前の、母親を…死なせた者か」
「ちゃんは、誰にやられたんだい?!」
大神雅人が身を乗り出してくるが…おいおい、あんたまさかうちののことが好きだったとかそういう関係じゃなかろうな?
俺はその問いに答えず、ただ宗主を見据える。
「証拠を掴んだ人間を、そいつはつぶした。圧力を掛けた。偽りの感情で人の気持ちをもてあそんだ。正直、この場からでも殺してやりたいほど、俺は憎んでいる」
俺の中の憎悪が、ふくらみ、殺気に混じる。
霧香や他の連中は青ざめたが、宗主たちは顔色を変えないのはさすが。
「母の友人で母の隣で笑いながら、そして裏切った」
ここまで言ったら判る奴はわかるか。
宗主は「まさか」と呟き、そして今度こそ、顔面を蒼白にさせた。
母の一番の友人は、あの女だと知っているからだ。
「俺は二度とこの家に足を運ぶつもりはないし、母は勿論、家族の誰にも越させないつもりだが、万が一にもってことがある。あんたが今、思い浮かんだその『女』が、俺の目の前に現れたなら、俺は問答無用でそいつを殺す。今、そいつが誰の家族であってもだ。そうさせないために、軟禁でも監禁でも封印でもするんだな」
本当に殺してしまえば、は、母は、悲しむだろうから。
フラッシュバックする記憶。
母の身体を検診した、あの夫婦の言葉。
喪失感。
無力感。
怒り。
抑えろ、と俺の中の何かがささやく。
あぁ、そうだ。
母さんの為に抑えるんだ。
今は、まだ。
「生きて、呼吸していることだけでも腹正しいが、それぐらいは許してやる。だから、俺達家族の目の届かない場所にそいつを連れて行って、そして二度とそこから出すな。もし、それができない場合」
俺は嗤った。
「俺は神凪の敵という立場で持って、いますぐそいつを殺しに行く」
誰が悲しんでも、誰が立ちふさがってもだ。
もうそれは俺の中では、いつか必ず行う決定事項だが、それは言わない。
「和麻!!」
「…いや、いい。橘警視…。そうか、あの女が…。が言いたがらないはずだ」
「母は復讐を願ってはいない。許している。…が、俺は母のように心は広くないんでな」
「判った。…彼女の罪は、我ら神凪が裁こう。それでよろしいか?」
は、と内心それを鼻で笑う。
神凪はぬるい。
特に身内には。
だが、それには言わず、俺の口は違う言葉を吐いていた。
「…それと、母は神凪の人間じゃない。名前も何もかも、他言無用だ」
勿論、その夫にも。
「……判った」
俺の強い口調に宗主は頷く。
「霧香、これでいい」
そう、今はまだ殺す時期じゃないからな。
「…まったく…」
額を押えている霧香は宗主に確認をとる。
「これで一応は、停戦に応じよう。神凪。せいぜいあがいてくれ」
そう言って俺が立ち上がろうとしたときだ。
「待て、和麻。まだ話は終わっていない」
「なに?」
「和麻ぁああああああああ!!!!!」
スパーンッとふすまが開いて、見れば宗主の娘が包帯だらけの身体でそれでも炎雷覇を振りかぶっていた。
正当防衛だな。
俺は一瞬で風の精霊を拳に集める。
狙うは顔面。
文字通り、鼻っ柱を叩き折る。
ヤツが振り下ろすその前、俺が目を細めたその瞬間、またも宗主の喝が部屋に鳴り響く。
それだけで娘の支配下にいた炎の精霊たちが宗主のそれに収まっていく。
俺を助けたんじゃなく、娘の命を救ったその大喝に他の連中は耳を押えてもだえていた。
勿論、この俺も。
落ち着いて、話を仕切りなおした。
娘のあの暴挙に対しての謝罪は賠償金の額を増やすことでおさめた。
彼女の傷の具合はそんなに重いものではなかったので、自宅で寝ていたのだという。
宗主のとりなしで、娘…神凪綾乃も会話に加わることになった。
次期宗主だから、だそうだ。
次代で神凪も滅びるなぁ、とか思ったが、いやまさに今現在滅びのときだな、と思い直す。
「橘警視から話は多少、聞いている。おぬし、分家の二人を殺害したものと少しならず接触したそうだな」
「接触と言っても攻撃してる最中にちゃちゃをいれた、という感じだ。ご対面もなにもしてやしないが?」
それだけでも判ることは判っているし、なにせ風牙の動きも少しは知っている。
それを全部教えるわけにもいかない。
話をしている最中に、大神の分家の連中が騒ぎながらやってきた。
俺の存在を気にしながら、大神操とその兄弟が神凪煉が風の妖魔らしき存在に誘拐されたことを報告してきた。
あのガキはいったい何をしてやがんだ? と思えば、大神の兄妹は俺を見ながら言った。
「厳馬様の付き添いに」
俺が昨夜病院送りにしちまったからか。
「だからと言って、護衛も付けずに動いたのですか?」
「俺達が護衛についてたが…その」
護衛を殺さずにガキだけ連れて行ったか。
「わざとだな」
「えぇ。神凪煉を連れ去ったということを、神凪宗家にきちんと伝えるために貴方達はわざと生かされた、と見るべきでしょうね」
ご苦労なことで、と俺は立ち上がる。
「せいぜいあがいてくれ。霧香、帰るぞ」
「待て和麻、……手を貸してくれんか」
「断る」
一刻も早くなんとかしなければ、と言い募った連中の目と言葉に宗主が俺に矛先を向けてきたので一刀両断に切り伏せる。
「あ、あんたの弟なのよ?! 煉は」
「俺の身内に煉なんてヤツはいない」
「…っちょっとっ!」
「間違えるなよ、神凪。俺がお前らを見捨てているんじゃない。俺が、お前らに、見捨てられたんだ」
「和麻」
宗主の言葉も無視して続ける。
「…捨てられた俺がなんでお前らの為に動かなきゃならない? しかも喧嘩を売られた上で。停戦に応じただけでもありがたいと思ってもらわなくちゃ困るぜ」
怒りかなにかで震える綾乃の様子に俺は目を細める。
大神の兄貴の方は何かしら思い当たる節があるんだろう。
俺から目をそらした。
「それに神凪は最強なんだろう? 俺の手なんざ必要ねぇだろ」
「…あたしはまだ宗主に用があるから、ここにいるわ」
「では我々は警視庁に戻ります」
俺に付き添う二人がそう頭を下げて、俺はそのまま退出した。
…風牙の連中の気配がしない。
もう、動いてるな。
俺はうっすらとそう思いながら、殺気混じりでこちらを見てくる連中の息の根を止めることをどうにか堪えて駐車場までやってきた。
風で車を調べて、何も爆発物がないことを確認する。
…仕掛けられてたら、ドカン、だからな。
と、ふいに女の携帯電話が鳴った。
「はい、どうした?」
女の顔がどんどんと物騒になっていく。
「八神さん…落ち着いて聞いてくれ」
「一気に言え」
「さんが、連れさらわれ…シンくんが怪我を負った」
「…シンの容体は」
「今、パトカーで移動中だ。よし、合流するぞ…場所は…」
女が相手に何か言っている間に俺の携帯がなる。
「シン」
『ごめん、和麻。母さんが、さらわれた』
「…お前がやられるなんてことは、よっぽどだな。相手は?」
『魔術師。ミハイルとか言うガキだ。あのくそ野郎…っ』
「落ち着け、シン。熱くなるのはお前の悪い癖だ。母さんをわざわざ連れ去ったんだな?」
『あぁ、今警視庁の連中で、探査系の術を持ってる人に頼んだら、カンサイ方面ってのに行ったことまでは掴んだんだけど、それ以上はわからなくて…俺っ』
関西方面、ね。
『強い、風の攻撃だった』
風、風、ねぇ?
その魔術師と風牙はもしかしたらグルか?
いや、兵衛は俺とことを構えるつもりはないはずだが……。
(和麻、様、どうか、このまま、お聞き、ください)
呼霊法!
俺は携帯を掴んだまま注意をその言葉に向ける。
(、様、の居場所、は)
京都。
(を、母を人質にしたのはお前たちの本意ではないってことか)
俺がそう返したが返事は来なかった。
「どうします? 八神さん」
おどおどと男がそう聞いてくる。
「決まってんだろ」
風牙衆はどうでもいいが、ミハイルっていう魔術師はぶっ殺す。
それが罠でもなんでも食いちぎってやる!!
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