もっともっと強く抱きしめたい


(彼女にべた惚れな彼に)



「輪魂の秘法だ」とその存在は重々しくそう言いながら、柔らかく暖かそうな…しかし第三者が触れれば火傷だけでは済まない炎で彼女を守りながら教えてくれた。

「アンチエナジードレイン。お前たちの魂と力と身体を守る為に、我が主・は己の魂と魔力をお前達に分け与え、その為に休息の…『ヨミの眠り』についておられるのだ」

目覚めたばかりの力を応用し命を救ってくれた彼女に対して、和麻がそうとは知らず、目を覚まして一番最初に向けた感情は自分がどんなに努力しても得られなかった力に覚醒した彼女に対する…例えそれがどんなに小さくても…【嫉妬】だった。

それが恥ずかしくて、そして居た堪れなかったのを和麻は今もずっと覚えている。

自分が惹かれていた年下の少女に対する複雑な感情は…その存在が教えてくれたことと、事実昏々と眠り続け、自分たちに笑顔を向けることがなくなった彼女の姿でそれ以降の彼の行動の原点になった。

神凪和麻はのことを愛していた。

友人以上家族未満、あるいは兄のようなその立場を失うことが怖くて想いを告げられなかったとしても。

なのに彼女を守れず、守られてばかりで、そしてそんな彼女に最後には嫉妬するだけの小さな男のままでいることに彼は我慢できなかった。

自分の中に、彼女の魂と魔力、そして己自身の能力があることを確信してその場で助けてくれた仙人に弟子入りした。

彼女が眠っているだけなのであれば、目覚めるだけの何かを探そう。

世界をめぐって探せるだけの能力を身につけて、そして彼女が目を覚ましたら、今度こそ自分が守り続けるのだ。

全てを。

それだけの力を身につけるのだ。

そう思い、そして実行に移して、今現在の自分がいる。

神凪という姓を捨て、師匠から頂いた八神という名を貰い、その名にかけてもう誰にも負けないという自身と実力を身につけた。

一緒にいた翠鈴も同様だった。

彼女に対しては姉か母を慕うような感情しか浮かべられなかったが、今では同志で相棒で家族でもある。

修行も復讐も一緒にした彼女に、エリクサーを託し、の目覚めのきっかけを作ってくれと頼み…そして今その彼女は目が覚めたと一緒に、日本の、自分が連絡して予約を入れてあるホテルについている。

なのに自分はむさくるしい野郎の顔を見ながらの仕事だった。

簡単な除霊のはずがそうは行かず、さらには今となってはどうでもいい『神凪』の名を聞いた。

……仕事を入れてしまったのは自分なので自業自得なのだが。

(今更、俺がまた怖がっているなんてな…)

ホテルに向かう足取りは軽いのだが、心中はまた複雑だった。

(会いたい)

(しかし、嫌われていたらどうしよう)

「守る」と言っていたのに、守れなかった自分。

ほかの事ではいくらでも和麻は強気になれるが、のことは別格だった。

今、一緒に居る翠鈴にさえ怖くて確認してくれとも言えない始末だ。

心のどこかではその翠鈴がの側にいられるのだから大丈夫だという思いもなくはない。

復讐でその手を血で染めた。

彼女を自分から奪った連中が許せなかった。

翠鈴の命を奪おうとしたのも許せなかった。

過去に戻っても何度もきっと自分は同じ選択をするだろうと和麻は思う。

しかし……どうしても覚悟を決めたはずなのに、と顔を合わせるのが嬉しくて、それでいて怖い。

自分自身の荷物をコインロッカーから引っ張り出して、なんとなく真新しく買った服に着替えてからホテルにチェックインする。

翠鈴に頼まれて自分の名前で予約をしていたのですんなりと部屋に入り、そうして荷物をベットの上に放り投げる。

「和麻」

携帯電話越しではなく、彼と翠鈴が使える精霊術が声を届けてくれる。

「今から部屋に帰るわよ」

と、いうことはもだ。

「あぁ」とだけ返事を返した。

風術で自分の存在が部屋にあることはもう翠鈴には知られていることを理解し、彼は深呼吸を繰り返した。

隣の部屋に帰ってくるということは、そのまま自分と会わせようという彼女の意思だ。

(落ち着け)

自分自身にそう言い聞かせる。

深く息を吸って、吐き出す。

それを何度か繰り返していくうちに、ノックの音が部屋に響いた。

どきりと心臓がなり、そのまま五月蝿いぐらいに動き始めるのを彼は自覚しながらも彼は動いた。

扉一枚隔てた向こうに、彼女がいる。

「はい」

「和麻? 入るわよ」

「あぁ」

短いやりとりだけで和麻の口の中は乾いていたが、そのまま彼女達を迎え入れた。

翠鈴の後ろで、自分を見上げている彼女の姿に和麻は呼吸を忘れた。

眠っていたときは青白い顔をして、呼びかけにも応えずぴくりとも動かなかった彼女はまっすぐに和麻を見上げてくれていた。

「あ、あの…」

「…あぁ」

声が聞けれたことも数年ぶりで、和麻は(あぁ、は、こんな声していたな)と思い返しながら彼女を見下ろしていた。

(右の目の色が変化してしまっているのは、どういうことなんだろう。あのエリクサー…紛い物か?)

そう考えながら指先が自然に彼女を求めていくのを理性で止める。

「ほら、ここで止まらないで。和麻、邪魔よ」

翠鈴の声にのろのろと彼は反応した。

「さ、

「はい」

翠鈴がさりげなくと場所を入れえ、彼女の背中を押すように部屋に入った。

そうとは知らず、和麻は二人を部屋に招き入れると、くるりと振り返る。

「あう」

ちょうど和麻のすぐ後ろを歩いていた上に、後ろから押されたのもあって立ち止まって振り返った和麻の胸にの顔が当たった。

「…っ、

「…はい…っ」

切羽詰った和麻はの後ろから彼女の背中を軽く押した翠鈴を見つめ、彼女が頷くのも手伝って、口を開く。

「抱きしめていいか?」

自分は血で汚れているとか、少し前まで嫌われるのではなかろうかと考えていたそんな思考はもう頭の彼方にすっ飛んでいた。

ただ、実感したい。

「はう?」

はい、とも言えないそんな言葉を聞きつつ、返事をきちんとまたずに和麻は自分の胸の中に来たを抱きしめる。

彼女と言う存在を。



「はい」

自分の服にしがみつきながら、おとなしく抱きしめられているの存在に、また和麻は泣きそうになる。

生きて、起きて、呼吸して、動いて、見てくれて、返事をしてくれている。

ただの当たり前の動きにただ和麻は感動していた。



「はい」

返事を返して彼女は苦しいのかもぞもぞと動き出す。

けれどそれを構わずただ和麻は抱きしめていた。

(もっともっと強く抱きしめたい)

彼女の熱を感じたい。



「…は、い」

「そろそろ止めてあげて頂戴。和麻」

「翠鈴」

「えぇ、判るけど」

苦笑いをする姉貴分で相棒の声に、しぶしぶ和麻は腕を緩めた。

ぷはぁ、とが赤い顔で息つぎをするかのように顔を上げてくる。

(あ)

潤んだ瞳に紅潮した顔。

愛しい彼女は腕の中にいて…。



たまらず名を呼んだ。

「…お、おひさし、ぶりで、おはようございます、和麻さん」

おずおずとそう返してくれるその言葉すら嬉しくて。

「あぁ、久しぶり。…それから、お前、寝すぎなんだよ。

泣きそうな声で和麻はそう訴え、の小さな謝罪の声と、そして翠鈴の苦笑いがそれに混じった。




これが三人の再会であり、彼らの物語の本章の始まりでもあった。



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この作品の和麻さんはさんに絶賛片思いしていました。今も、彼女を愛してます。


♪うんちく♪
輪魂の秘法/バスタード!でDSがヨーコさん達を救うために使った魔法。逆エナジードレインの影響で2年の眠りにいた。
さんは倍かかっています。
用途は本文参照。
さんは「風の聖痕TRPG」のクラスの「エングレイヴド/希少存在」のスキル・不死鳥の翼を無意識に火術で底上げして使用した、と考えてくだされば…。
まぁ、実際そんなTRPGでもそんなことは出来ないのですがね…。



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