いくつもの国を渡り、いくつもの仕事をこなしたけれど…やはり郷愁というものはどんな年月が立っても浮かぶものなのだろうか?
飛行機の中…ファーストクラスのシートの中でそう思いながら外を見つめる。
「いかがなさいました?」
「……あたしにもまだ自分が生まれた国を愛する心とやらが残っていたのが不思議よね」
「さようでしたか」
そう言いながら、うんうんと頷くのは巨漢の男。
色が白く、彫が深い美男子のこの男は今の容姿こそが醜いものだとそう信じ込んでいる上に、俗に言う吸血鬼なのだと誰が信じようか。
でも事実はそうなのだ。
太陽光にも照らされても人の姿を取れるマジックアイテムのおかげもあって、いまや普通の人間のように出歩いていることが知れたら裏…魔術師や退魔師達が卒倒するだろう。
まぁそれも知らせてみるのも一興かもしれないが。
「ピロンとマロンが様の屋敷を手配させております」
「見るのが楽しみだわ。」
くっくっく、と笑っていると飛行機が静かに日本の大地に降り立った。
飛行機から降りるときは、実に紳士に彼はあたしの手を取ってくれる。
周囲の人間たちはきっとあたしをどこかの金持ちか、はてまたはそれの愛人じゃないかと考えているだろうか。
とりあえずそんなどうでもいいことをふと考えながらあたしは日本に戻ってきた。
そう、戻ってきたのだ。
「ありがとう、ダイ・アモン」
「過分なるお言葉でございます」
魔族に近い吸血鬼とその眷属を引き連れて。
そうダイ・アモン。
この名前でピンと来る人は某週間少年漫画、あるいはその単行本を愛読していた人だろう。
本来ならばこの世界にこの吸血鬼が存在するわけがないのだが、でも彼らは元々この世界に生きて悪名をとどろかせていた。
この世界、とかあたしが言ってしまうのは…それは彼らが、そして今まさにあたしがこうして息をするこの社会・世界全てがフィクションとして、漫画やアニメや小説などで紹介されて作り出されていた世界で生まれた魂の持ち主だからだ。
最初、【自分】として覚醒したのは幼少時代。
それからはもう混乱の極みだったが、諦めがついてこの世界で生きることを決め、そして力を求めていった。
その過程であたしはある人物の代わりとして存在していることに気がついて、運命にも逆らっては見たものの、やはり人情というか…なんというかその手のものに負けてしまって。
原作どおり、その人物が結婚した相手と結婚し、そしてまた原作どおり二児の母親になった。
まあその間、紆余曲折を経てあたしはその相手とは離婚し、あたしは世界をめぐった。
これは原作にはなかったことだが。
いろんなことがあったのだが、言葉にするのは面倒くさいのではぶく。
そのめぐった世界であたしはいろんな能力を身につけて開花し、今現在に至るのだ。うむ。
「様、迎えのようです」
猫科を思わせる巨漢の外国人が手を振っている。
「ご苦労様、ピロン」
「過分なるお言葉、このピロン、恐悦至極に存じます」
そう一礼するけれど、ジーンズにYシャツ姿にはあまりその優雅な仕草は似合っていない。
やはりこの手の連中には執事服がベストか。
「車にご案内いたします」
「ありがとう」
微笑むとピロンは微笑み返してくれると、ダイ・アモンが手で指図をする。
一礼して彼は荷物を全て抱えあげた。
「車はこちらです」
行けばベンツでお出迎えだった。
「お帰りなさいませ、様」
「マロンもご苦労様」
「いいえ、過分なるお言葉」
運転席にいるマロンは胸の辺りに手をやり、ジーンと感動に打ち震えているようだ。
「さぁ、どんな屋敷をあたしに用意してくれたのか、見せて頂戴?」
「「御意」」
車が動きだす。
「…様にご報告申し上げます」
「えぇ」
「日本の国家退魔機関・特殊資料整理室室長から是非様とお会いしたいとの連絡がございました。帰国の時刻などは相手には伝えておりませんでしたが、おそらく今日にでも連絡がまたあると思われます」
原作での女傑はこの世界でも女傑なのかな?
くすり、と笑った。
「次に連絡があったときに、日時を決めて会ってあげましょう。屋敷の方はお客様をお迎えしても大丈夫なレベルなのね?」
「「はい、勿論」」
ピロンとマロンの言葉にダイ・アモンはうむうむと頷いた。
「この国の退魔機関もやることは手早いですな」
「そうね。相手もそこのところはプロだから」
車は滑るように道路を走る。
「それと神凪の下部組織・風牙衆からも連絡がありました」
「あら。兵衛さん、お元気かしら」
原作では神凪に反乱を起こす一族の長…だが、あたしがいた頃に散々宗主に進言して風牙の待遇改善を多少なりともしたし、あたしがいなくなった後も宗主に手紙を書き綴って彼らのことを遠くから見守って来たのだが…。
「特殊資料整理室よりも先に彼と会いたいわね」
「では僭越ながら、私がアポを」
ダイ・アモンがそう言ってくれるのであたしは大きく頷いた。
「あの子に代わりはなくて?」
「はい、お嬢様はよく眠っておられます」
そう。
あたし達がそう会話をしている間に、その屋敷が見えてきた。
和洋折衷な建物。
なかもなかなかゴージャスなんだろうな、と想像をしたが…正直中を見て絶句した。
まあ、見事。
世界を飛び回って眼を肥やしたけれど、それでも中でもトップクラスの調度品。
そして。
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」
クラシカルな服装のメイドさんたち。
「ピロン、マロン。この子達は?」
メイドさんたちが少しだけ脅えた気配を見せる。
あたしってそんなに怖い声をしているかしらね?
「お嬢様の世話を我々がするわけにもいかず、かといって自動人形にさせるのはいかがなものかと一考しました」
「…屋敷のことは君達に一任はしているけれども…大丈夫なのかしら? この子達」
「は、彼女達は魔術を知っていますゆえに」
「え、術者なわけ?」
あたしは手短に側にいた女の子に問うてみた。
「その…私達は、術者の家系に生まれましたが…その」
あぁ、分かった。
この屋敷の主要人物は人外が多いから一般人だとすぐに魅了されてしまう。
かといって中途半端に術者だと、対応をこちらが誤りそうだから、その手の人間を集めたわけか。
彼女らは術者としては仕事につけず、一般人として就職か、あるいはその人生を歩まなくてはならざるおえなかったそんな人間たち。
ふむ、面白い。
お金も時間もたっぷりあるのだから、彼女達を再教育するっていうのもいい暇つぶしになりそうだ。
彼女達には悪いが。
「OK、いいわ。ありがとう、それと変な質問してごめんなさいね」
微笑むと赤面される。
どうしたのかしら? 熱でもあるの?
あたしはダイ・アモンとピロン、マロンの三人を率いて彼女達の目の前を歩き、そして振り返る。
「あたしがこの屋敷の主、です。どうぞ、よろしく」
あたしが背筋を伸ばすと、大きくなってしまったたれそうな胸がぷるんと揺れてしまった。
「母上!」
「お、かあ、さ、ま」
見た瞬間、血液が沸騰し、そしてあたしは思う存分、力の限りこう怒鳴った。
あたし こ ど も た ち
「人様の娘と息子に何してくれてんだ、てめぇええええええ!!!!!」
あたしの魔力ははじけ、その奔流がそいつの身体を叩きつける。
でも敵もさるもの。
魔術道具…今まさにあたしの娘になるその子の心臓を貫くはずだったナイフをあたしに投げつけ…あたしは右目を失った。
中途半端に終えてしまったその儀式のせいで、あたしの息子の最愛の女性は生きてはいるが昏々と眠り続けている。
助けてくれたのは仙人だった。
ショックで呆けかけた息子に、あたしは右目に包帯を巻いたままの姿で言った。
「あたしの息子なら、自分の惚れた女を必ず取り戻しなさい!!」
あたしの喝に息子は大きく頷いた。
精神に影響を及ぼされているのだから、と精神世界の学問や能力を学ぶために息子は仙人に弟子入りした。
あたしは娘を守るために奔走した。
使い魔を作って娘を守らせると、身体にいいという薬や魔術や魔法を得るためにどんな場所にも赴いた。
魔法使い・魔術師・魔導師・黒魔女・白魔女。・錬金術師。
人外の場所にも行って戦ってしまい…うん、今現在、どんな相手でも負ける気はしない。
その間、あたしは数々の能力を開花し、そしてそのおかげで異名を持つ術者となってしまった。
最初は炎術師だったが、今ではすべての精霊たちと言葉を交わし、古代語魔術や暗黒魔術にも手を染めた術者に変貌した。
ぶっちゃけ言っていい?
あたし、ダイ・アモンたちが登場した漫画の主人公の魔法大半使えるわ。
そんなあたしが日本に帰国したのは、高名な占い師にあの娘の身体に一番いい方角が日本をさしていたことと、息子が秘術を使えるようになって帰ってくると式神で使いがきたのだ。
原作では力を得た息子は散々世界を荒らしたが、荒らしたのは母親であるあたしになっただけのこと。
息子は復讐は最愛の人を助けてから、と考えているだろうが…ごめん、息子よ。先にあたしが殺しちゃったわ。てへって言ったら許してくれるだろうか。
…魔術師相手ではいくらでも残虐になれたわ、うん。
かつての文学少女が、今となっては…人によっては残虐かつ非道な魔女になってしまったけれど…まぁ、気にしない、気にしない。
気にしたってどうにもならないんですもの。
そんなあたしは先に使い魔二人に娘をつけて最新施設のその手の病院の病室を確保をさせて体調を万全にさせると、ピロンとマロンの二人に住居を構えさせた。
お金?
そんなのは湯水がごとく使えと言ってある。
あたしの所得する財産は丸々二カ国分の国家予算だ。(どんな悪いことして貯めたかは聞かないで)
あたしとダイ・アモンは下僕を一本従えて最後の最後に魔術結社のアルマゲストの上層幹部数人とその弟子を始末してようようと日本に帰国した、というわけだ。
ダイ・アモンたちは日本の水が合うかどうか心配だけど、まぁ吸血鬼と人狼と人虎なだから死にはしないだろう。
神凪深雪の立場のトリッパー。巨乳。
世界で大暴れしたのはこの方、という話を書こうとしたんだが、あまりにもあれでそげな話になりそうなので…没にした。
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