月明かりの木の下で



「行く年月が流れようとも、月と太陽と星の光りは変わらぬものですな」


そういいながら、かつての英雄(すこーし信じられないけど)メルビンが、あたしによく温めた紅茶をくれたわ。

ここは山奥。メダル王のお城のすぐ側。

なんでここにいるのかって言うと…。

世界を見てみたいって言ったメルビンの希望どおり、あたし達は今まで行ったことのある街やお城や村を巡ったのよ。

メルビンが覚えている場所はあまりなかったけれど、行けれるだけ行ったの。

あたしは勿論、移動魔法のルーラ使って行こうって言ったのにのバカ!

「それじゃあ、大陸にわたる空気は判んないよ」とか言い出して。

メルビン復活させて疲れきってるのにガボとあたしは船で休ませて、一人で船操って。

半日で数箇所だけしか周れなかったんだけれど、メルビンはひどく満足してたわ。

そう! メルビンだけは!

ガボは判んないけれど、あたしは笑顔を振り撒くあのバカ(誰のことですって? の事に決まってるじゃない!)が気に入らなくて、ムカムカして。

メダルを一つ発見したのを理由に、あたしは無理矢理皆を巻き込んでルーラを唱えたのよ。

エンゴウの村から一気にメダル王のお城まで飛んで、三人が文句を言おうとする前に。



「今日はもう休みなさい!!」



人差し指をに突きつけると、しどろもどろに返事して、ガボと一緒になってこくこく頷いたの。

野宿は本当、死んでも嫌だったけれど。

メダルの王様の所はモンスター(スライムだけど)臭いし、この際、仕方ないわ。

こうでもしないと、あの天然お人好しバカは休まないんだもん!



殿が某の封印を解いてくださってよかった…」



そう言いながら、メルビンは皺だらけの顔をもっと皺だらけにした。

岬の端っこに住んでる、歳の離れたの友達(真顔で言われた時には、こいつ頭大丈夫かと思ったわよ)の笑顔に似てたわ。



「もしも殿が某の封印を解いてくだされなかったら、こんなにもこの世界を知ることはできなんだ」



目を閉じて、メルビンはお月様を見上げた。

泣いてるのかって思う、そんな一瞬。


「勿論、マリベル殿やガボ殿と出会えたことも、神に感謝するでござるよ」

「神様に感謝する前に、あたしに感謝してもらいたいもんだわ」


ふふんって胸を張ると、が時折見せるような笑顔を見せて、メルビンは「勿論でござる」なんて言ってくれた。

野宿をするってあたしが言った時、ガボとメルビンは少し嬉しそうに目を輝かせた。

元々ガボは人間の子じゃなくて狼だし。

メルビンは昔魔王と戦ってた時に何度も経験があって懐かしいらしくて。

は「熱でもあるの?」とか言って心配そうにあたしを見たけど、少し怒った顔を見せると、何も言わずに嬉々としてメルビンの手伝いをしたの。

ほんと、伝説の英雄様って何でも知ってるわ。

野営の仕方、持ってた食料をいかに美味しい料理にするかとか。

あと、河の一部と焼け石でお風呂まで作ったのよ。

釣った魚と、持ってたパンを焼いて食べて、人心地着いたらお風呂に入って…。

あたしが子守り歌歌ったら、は毛布かぶってころんと横になったかと思うと微かな寝息を立てはじめた。

ガボは、そんなの側、お腹の辺りに寝転んで丸くなるとすとんって落ちるみたいに寝て。

だから起きてるのはあたしとメルビンだけ。

静かな森の中で、ガボとの寝息と火の音が吸い込まれるみたい。



「マリベル殿は、お優しい」 



何言ってんの? あたしは?マークを飛ばしながら見ると、メルビンはお茶を一口飲むと言い出した。



殿のお体を心配なされたのでござろう?」

「ちっ、違うわよ!」



大声を出してしまって、あたしは慌ててとガボの方を見た。

…良かった、寝てる。



「あたしがなんでこの天然お人好しバカの心配してやらなくちゃいけないのよ」



ちょっと声のトーンを低めにしながらそう言うと、メルビンも低い、だけど良く通る声で返してきた。



「某が世界を見たいと言ってしまった故、殿はわざわざ船にて大陸を渡ってそれぞれの国を見せようとしておられる。船をまともに動かせられるのはご自分だけで大変であろうに」



そう。

実はそう。

漁師の息子だからなんだろうけど、はひどく船の操りかたが上手いのよ。

だから一度も海の上で苦労したことなんかない。

でもそれはにすごく負担になってんじゃないかって最近思うようになったの。

笑顔だから。こいつってばいつも笑顔だから。

本当の気持ちは判らない。

吐き出せばいいのに何も言わない。

それが……むかつく。

別に心配したわけじゃない。ただ、…そう、ただ。


「つらいなら、そう言えばいいのに。だから腹が立つのよ…」



あたしは、言いたくないのに。勝手に口が動いた。

後から思えば、もしかしたら優しい月明かりとメルビンと紅茶のせいかもしれなかったけど。







あれはキーファと別れる時だった。

キーファって言うのは、もうメルビンも知ってるかもしれないけれど、あたし達が住んでる大陸一帯を治めてるグランエスタードの王子様。
王子だけど、物心つく前からの顔見知りでとは大の仲良しで。

二人してよく冒険ごっこしてたわ。

そのキーファが自分のやることを自分で決めたあの時。

は俯いてキーファの主張を聞いてたの。

ガボはともかく、あたしは本当は反対だった。

だってこいつ時期王様よ? 妹のリーサはどうすんの?

そして本当は嫌だけど臣下で、治めるべきあるあたし達はどうでもいいわけ?

この大陸に残るって行ってもずっとこの大陸にいるわけじゃない。

そう言おうとして、の方を見たら。我慢してる顔だった。

「さよならなんて、言ってやらないからな」

の言葉に、キーファは最初戸惑ってたけれど、すぐに笑って見せた。

「ああ」

「絶対だ」

「うん」

「絶対、また会おうな!!」

「あぁ、それまで元気にしてろよ!」

あたしはそれを見て、何も言えなくなっちゃったわ。

いつも一緒に駆けずり回って。

泣いて笑って、怒って。

そんな二人が納得してるのに、あたしが何を言えるっていうの?

それに、もうこの時からはお城の王様とリーサ…つまり、キーファの家族に責められる覚悟もしていたのよ。

幸い、二人ともを責めなかったけれど。

だけど。

お城の兵士の中にはのことを睨んでる奴や声を荒げる奴もいて。

は一言もそいつらに対して弁明も釈明もしなかった。

その夜よ。

フィッシュベルに久しぶりに帰って、あたしは家に戻った。

ガボはの家に泊ることになってて、ゆっくりできると思ったんだけれど、今までの生活は身に染みついちゃったのか。

あたしは一人で村の中を歩いてた。

そしたらが一人で海に向かって座ってて。

脅かそうと思って後ろから声かけようとして、気が付いた。

の肩が震えてるのを。

もう少し近くに寄ったら、嗚咽も聞こえてきた。

たった一人で、泣いてたのよ。

海に向かって、たった一人になって、ようやくあいつは泣けたんだって気が付いて。

あたしはそれに背を向けて走って家に帰った。

何もできない自分が悔しくて。
側にいれない自分が情けなくて。
かけれる言葉が…なくて。

「辛いなら辛いって言えばいいんだわ。泣きたいなら、我慢することないじゃない? でも……」

あたしは寝入ってるガボとの二人を見る。

本当、幸せそうに寝入ってくれちゃって。



「こいつ、天然お人好しバカだもん。何にも言わないのよ」



いっつもいっつも他人の為。

自分の為に何かしようとか考えてもない…バカ。

あたしが誰にもお礼が言われないって文句言ったら、真顔で。



「俺、誰かに誉めてもらいたい為にやってるんじゃないし」とか言う、そんなバカ。



この後、速効、拳で殴ったわ。あたし)



「だから、誰かがこいつのこと考えなくっちゃいけなくなるのよ」

「マリベル殿は本当に殿がお好きなのですな」



………。



「誰がっ! なんで? そういう結論になるわけ?!」




メルビンは少し高く笑ったわ。

冗談じゃないわ。その目は封印されてる間に腐ったんじゃないの?

なんであたしがこいつのこと好きなのよ!!



「何、どうかしたの?」



眠そうに、目をこすりながら起きてきたに向かって。


「うっさいわね! あんたはとっとと寝てなさいよーーーー!!!」

「はっはいいいっ」

「ほっほっほっほっほ」

「あんたも笑うなーーー!」

月明かりの木の下で、あたしの叫びが木霊した。

絶対に、絶対に違うんだからね。そんなんじゃ、ないんだから。

あたしはいつのまにかそう、自分に言い聞かせてた。
2001・04・24UP






創作を作った当時、影山は戦闘中の会話とかを聞いてて「マリベルもしかして主人公にラブ?」とか考えながらゲームしてました。
いや、だってそんな気がしませんか? ちなみにマリベルの職業はこのとき「吟遊詩人」と思ってくださいましv


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