海賊王



「俺にもチューしろ!!」

どーん! という音が聞こえそうな自信満々な声でくんに船長さんが言いました。
いつもなら聞こえないふりをしてしまうくんですが、いかんせん今は駄目でした。
なぜなら船長に抱きかかえられてメリーの頭に座っているからです。
どうもルフィは、妖精ピクシーとくんのキスシーンを思い出したらしく、勝手に怒り出したのです。
最終的には「ムシニンゲンばっかりずりぃ。俺にもしろ」ということになったようです。
くんは小首を傾げました。
彼は悪魔という人間ではない生き物で、今の見た目は小柄の少年です。
その少年からキスされても嬉しくないだろう? と思うのですが、船長は唇を尖らせています。


べしり。



とりあえずナナシくんはそのタコのような唇を叩いて意思表示してみました。

嫌だ。

「お前がいやだって言うほうが嫌だ」

船長はきっぱりと金色の瞳を見返します。
くんは小首を傾げます。

「ちゅう!」

しばらく考えて、くんはルフィの手を引っ張りました。

「お?」


ちゅっ。



掌に小さなキスを一つ落とします。
みるみるうちにせがんでいたルフィの顔は赤くなっていきました。
その間にするりとくんは腕を抜け出し、メリーの頭から甲板のほうへと移動します。
しばらくして落ち着いた海賊王は、小さく呟きました。

「口じゃねえのか」

掌へのキス。
それは懇願。
金色の光はのそのそと動き出した海賊王を見つめます。


…あんまり、しつこく封印解けとか、こういうことしろとか言わないで欲しいんですけれど。


その意味を知った船長は、大きく頷きながらこういいました。

「いやだ!!」

今日も麦わら海賊団は平和です。

掌のキスは懇願なんだそうです。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

航海士



「ルフィにキスしたんですって?」

誰に聞いたのか、航海士のナミさんがそういいながらくんの顔を覗き込みました。

「ずるいわ〜。船長っていってルフィばっかり。あたしにもしてよ」

くんは小首をまた傾げました。
重ねて言いますが、くんは少年です。
そんな子供からのキスなど嬉しいものなのか判らないのです。
それでもしないと、後々何を言われるかわかりません。
くんは両手をあげました。 ナミさんが顔を近づけつつ抱きしめます。


ちゅっ。


ナナシくんがしたそこは、頬。

「あ〜んもう、可愛い〜〜!!」

頬へのキス。
それは親愛。

「ナミ! が嫌がってんだろ、やめろよ!」(ルフィ)
「うっさいわね! 愛情表現よ、愛情表現!!」(ナミ)


今日も麦わら海賊団は平和です。

頬の上なら親愛のキスなんだそうです。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

船医



「な、なぁ。ナミとルフィにキスしたのって本当か?」

おずおずと言ったのはトニートニー・チョッパー。
人間トナカイの船医さんです。

「なあ、それって人間の「大好き」っていうのを示す表現なんだろう?」

くんはそっと彼の様子を見ました。
悪魔っ子なので人間の気配でも動物の気配でもないくんに、最初は戸惑っていたチョッパーですが今では大の仲良しです。

「お、俺は別に二人の事なんかうらやましくねぇぞ! 本当だぞ!!」
「うらやましいんだな」

見ていたウソップがぼそりといいました。
くんは小首をかしげ、しばらく考えていましたが。

「え」

まるでどこぞの騎士がお姫様のそれに触れるかのようにチョッパーの手に触れると。

「え」


ちゅっ。


人間の手の上にあたる蹄の部分に、くんは唇で触れました。

「お、おぉおお…っ!!」

顔を真っ赤に染める船医さん。

「言ってみるもんだな! チョッパー!!」

横でウソップが笑っています。
手の上からのキス。

それは尊敬。

後々、ナミからそのことを聞いた船医が感動のあまり大泣きするのはまた別の話。
今日も麦わら海賊団は平和です。

手の上からのキスは尊敬のキスらしいです

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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