(1)世界はいつも旅の途中
「ナルト、か」
僕は呆然と見上げてきた四人を見下ろす。
『あたし』としての磨耗した記憶の中で、うっすらとだが覚えているその姿は原作でいうなれば第二部の、アニメでいうなれば『疾風』編の成長したそれで…あぁ、うん。
なかなかどうしてかっこいいじゃないか。
サクラちゃんもサスケも成長して…えーと側にいるおなか出したファッションのあの子は確か、暗部出身の子だっけ?
っていうかサクラちゃんもお腹出して…木の葉じゃ今、そういうファッションが流行ってるのかな。
最近、一楽にも食べに行っていないのでそのあたりはどうも判らない。
女の子がお腹出してするファッションはえらく勇気がいると思うんだがどうなんだろう?
「僕が誰だか、わかるかな?」
にっ、と笑う。
金色の瞳を彼らに向ける。
「、くん?」
サクラちゃんの言葉に、くっと笑った。
髪は前とおんなじように短くまとめているけれど、身体のほうがだいぶ様変わりしているから以前の僕を知っている人が見ても、今の僕とはすぐには判断つかないだろう。
「…」
サスケもまぁ、かっこよくなっちゃったなぁ。
一瞬にして臨戦態勢に入ったのか、写輪眼が浮き出ている。
まぁ、もう片方の瞳には僕があげたものが顔を出している。
へぇ…サスケにはそう出るようになったのか。
「あれが…、くん? どう見ても…」
「!」
ナルトが僕の真名で呼ぶ。
あぁ、なんていうのかぁ。
ぐいっとこっち見ろ! と意識が彼に引っ張られる感じだ。
「迎えに来たってばよ!」
「頼んでないよー?」
ほんの数年前に、僕達で交わしたことのあるいつもの台詞。
忍者アカデミーに向かうのをしぶった僕に対して、毎朝彼はそう言いながら玄関のドアを叩いたっけ。
あんまり懐かしい言葉のやりとりに、僕は心からの笑みを浮かべてしまった。
は、と口を開けて思わず笑い、金色の瞳を細める。
「元気そうだねぇ」
しみじみとそう言うと、ぐっとナルトは一瞬だけ歯を食いしばった。
視線が交差して…あぁ、思い出す。
僕が…いや本当は『あたし』としてかな? その辺り曖昧だ…この世界にやってきて諦めの混じった、それでも人間に戻れたという歓喜と。
そしてやはりその業からは逃れられないという絶望を味わった瞬間を。
ふっ、と思考がその海に沈んだ。
気がつけば『あたし』は、また(ここ重要)知らない天井を見上げていた。
これで何度目なのかは、もはや数えることを止めてしまった『あたし』は立ち上がって鏡を探す。
とても小さな和室の一角にぽつんと置かれた古めかしい鏡台を開くと、幼い自分が写っていた。
黒髪・黒い瞳という慣れ親しんだその色素に安心した。
女の肉体であることにも、心のどこかでほっとしていた。
それと同時に、この『あたし』の今までこの世界で生きていた人生と知識が、同時に『あたし』のそれに襲い掛かる。
何度も経験したことだが、慣れはしない。
そう、何度も何度も、だ。
『あたし』の名前は、。
普通のどこにでもいる、RPGゲームが好きな高校生だった。
ある日、部屋から出ようとした瞬間、なんの因果か異世界トリップしてしまった。
ネットで氾濫してる二次創作のように好きなアニメや漫画やゲームの世界ならば、ここまで精神は磨耗もしなかったがそうそう美味い話は転がっていない。
世界はそこまで甘くなかった。
最初に跳んだのは、『真女神転生』だった。
男主人公しかいない世界のはずが、しっかり女の主人公として存在していた。
中盤出だしに東京に核が打ち込まれてしまう、あのゲームだ。
一番最初の母親が悪魔に殺されてしまっていたのもショックだった。
自分の本当の母親とそっくりでもあったし、また彼女の子供としての記憶も経験も一番最初に自覚した時にしっかり精神に刻み込まれていたから。
そこで剣と銃の取り扱いを我流で己の肉体に叩き込んだ。
そうしないとBADENDで、死んでしまうからだ。
その後、中立エンディングを迎えたら次に行ったのは『デビルサマナー ソウルハッカーズ』の男主人公になっていた。
名前もとなって、身体が変わったことによる変化にどぎまぎしながらなぜか二周(つまりゲーム的にエンディングを迎えたな、と思ったらもう一度気がつけば最初からやり直し)していた。
二周目でスプーキーを救出したし、結構男として好き勝手にしたから同じことをするのも苦ではなかった。
その次に跳んだのは「真・女神転生If」。
ここでは主人公じゃなくて一般生徒としてだ。
それでもなぜか主人公達と一緒に戦っていたが。
ちなみに女として、で。
次は『ペルソナ』
男主として2パターンのエンディング見たら次の世界に強制移動だ。
何回この世界を繰り返しただろう。
最初のうちは違う世界に跳ぶたびに、自分に優しい世界(元の自分の世界だったら)とかスポーツ漫画やアニメの世界だったらと思ったこともしばしばあったが、もはやそんな余裕はなくなっていた。
しかし、まだ己は人間なのだという自覚も自信もあった。
行った世界では、確かに性別は変化するが人間だったからだ。
しかし、次の世界ではそれすらも許してもらえなくなっていた。
そう、次に行ったのは『真・女神転生ノクターン』。
女主として存在し、結果として三周した。(全部のエンディングを見せられる羽目になった)
ようやく次の世界にいけれると思ったら、次はプラスアルファの『真・女神転生ノクターン・マニアクス』だった。
うっすらとした記憶の中で、好きなキャラだった違う会社のゲームキャラに会えるのだと思うとわずかに興奮した。
女であれば、もしかしたらもしかするかなと思ったことも確か。
けれど、自分の肉体が女ではなく男だったので意気消沈した。
でもダンテはいい相棒(なるまでが大変)だった。
ちなみに2周した。
『デビルサマナー 葛葉ライドウ』でも、その次の『ペルソナ3』でも男の身体だった。
1周目でステータスをMAXにした。出来る限りの人間関係もMAXにした。…そのせいか、女の子の数分、この世界の1年間をループするはめになった。
さて、ここはどこだろう?
鏡を見ながら、『自分』の経験をゆっくりと思い返す。
『アバタール・チューナー』か? 『真女神転生2』か?
そう思った瞬間、そのどれも的をはずしていた。
「え?」
ここは例の悪魔召喚系ゲームの世界じゃない!
『あたし』はこの国の小さな里に住んでいた。
だが、『あたし』の知らない血筋が原因で、親戚(遠縁で血が繋がっているのかどうかも疑わしい)がいる木の葉の里の離れにつれてこられた、薬師の娘だ。
その血筋の能力は封魔。
忍者でもない一般人である『あたし』がいわゆる『魔』を封じ、あるいは彼らと意思を通わすことができると理解したこの里の上層部はそのことを『あたし』に悟られないように穏便な案でこの里に招くという形で懐に入れた。
なにせ、『あたし』の身内は全員生きていない。
養い親の薬師もも先日、忍者同士の戦闘に巻き込まれて死んでしまったのだ。
この里の人間にとっては棚から牡丹餅だっただろう。
周囲は敵だらけ、なのかな? そう思った時だった。
『あたし』の心の泉からの呼びかけがあったのは。
『あたし』は理解した。
『あたし』はこの世界でのデビルサマナーであり、ペルソナ使いになったのだと自覚した。
おそらくは今までの経験から来る悪魔全書が…そこに登録してある悪魔たちが皆声をあげでその存在を教えてくれた。
…こう、ぐっと胸に来るものがある。
今までずっと一人で世界から世界へと強制移動させられていたが、本当はそうではなくて彼らもちゃんと自分についてきてくれていたのだ。
一人じゃない、というのがこれほど嬉しいことはなかった。
もしもまたどこか違う世界に連れて行かれたとしても、きっと彼らは付き合ってくれるだろうと思う。
それまでは、この世界で生きていこう。
思えば、異世界に強制移動させられて初めての、エンディングがわからない、そしていつ終わるのかもしれない世界だ。
ここは、ゲームの世界じゃない。
とある漫画の世界。
海外に間違った忍者イメージをさらに強めてしまったかもしれないが、もう一つの海賊漫画と同時に某雑誌の二大看板になった少年漫画。
『NARUTO』の世界なのだから。
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