「違い・差がある2人 10のお題」
目線
陽だまりの中でうちの奥さんが洗濯物を干している背中を見ながら、俺は縁側でそれが終わるのを待っていた。
手伝いたいのは山々なんだが、量はもう多くないし、俺が側に行くとまだ奥さんが萎縮(緊張?)してしまうから、大人しく待っているのだ。
俺は周囲の自然に目をやった。
この今時珍しい都内でも自然あふれたこの場所が、呪術の力が施された場所だなんて誰も思うまい。
…この家も含めた山の敷地内にはそれとなく緩やかな結界が施され、山の中には妖怪(西洋風に言うなれば日本の悪魔)達が住み着き、外からの侵入者を防いでいる。
麓から寺、そしてこの家に行くための道を通る分には彼らは何もしない。
一歩、無理やりこの山に入ろうとしたら妖怪の餌食になるか。
それとも寺の人間に捕まるかのどちらかだ。
こんなこと、俺の奥さんには言えないし、教えられない。
俺の奥さんは、そういう意味ではまだ「一般人」だから。
……俺の、というか爺のせいで少しそのカテゴリーからこちらの世界に足を踏み込んでしまったけれど。
振り向いて、俺の存在に気が付いてびっくりしている奥さんを呼びながら、ひっそり思った。
できるだけ、この世界のことには詳しくなってほしくない。
……詳しくなっただけ、俺のことももっと判ってしまうから。
俺がどれだけその道で、この手を血で染め上げているか知られてしまえば…。
「飛鳥さん?」
呼ばれてふいに自分がらしくもなく考えに没頭していたことに気が付いた。
らしくない。
俺がここまで彼女に、というか人に接近されて気がつかなかった、なんて。
まあ、きっと「彼女」だからこそなんだろうが。
「あ」
目と目があってふいに彼女の目が丸くなった。
「…?」
小首を傾げると、「いや、どうでもいいことなんでしょうけど」とゆっくりと彼女は告げる。
「今、目線がだいたい一緒だな。と思って」
…あぁ、そうか。今俺が縁側に腰掛けてるせいもあるけれど。
俺の目線は、ちょっと彼女より下辺りになる。
「いつも高い場所から見下ろされてましたけど、今は同じですねぇ」
ほにゃり、という表現が似合うような笑みを向けられる。
「そりゃ、身長がかなり違いますからね」
俺は苦笑しながら彼女の手をとった。
俺は2m近くあって横も縦もある。
彼女は150cm弱だろうか?
「見下ろされるのが嫌なら嫌って言ってもらえれば、こうして座って一緒にできるし」
くいっと引っ張って、顔を寄せる。
ものすごく、彼女の顔が赤くなった。
最後までしてるんだが、こうした接近に彼女は弱い。
「抱きかかえてこうすれは、もっと近くなりますよ」
そう言ってから、俺は彼女にキス一つ。
護りたい。
一緒にいたい。
そんな風に思ったのはこの人だけ。
この後、俺たちのキスを見ていた同居人まがい(爺の弟子二人)の存在に気が付いて、半日彼女の側にいられなくなるのは別の話。
裏にある真女神転生TRPG風創作「悪魔と踊れ」旦那様(九十九飛鳥)と奥さん(女主人公)
序章、番外編以降。
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