それは…何ですか?
「ちょっと待て、お前達」
「なぁに? おとさん」
お父さんの意味合いを込めて言われる愛称を、俺はいつものように聞き流しながら小動物たちの手元にある物体を見つめた。
ちなみに声をかけたのは『白ウサ』(寂しがり屋の甘えん坊なので)の小鷹那美と、『豆柴』(小柄で「犬属性」だから)の天野騎一の二人だ。
珍しく二人でエプロンをつけて、台所に立っていた。
いや、珍しいという言葉は正しくはない。
どちらかといえば授業以外で二人がこうして包丁を握っているであろう格好をしたのは初めてだ。
(豆芝の姿は家庭科の授業は別の班同士なので、遠目で見ただけで。白ウサは本当に初めて見た)
「…それは…何ですか?」
思わず『それ』を凝視しながら俺は問う。
思わず丁寧な口調になってしまっているのだが、二人は気にしなかった。
「え? 見て判らない?」
判らないから聞いてるんだ。
その………なんとも言えない消し炭の塊はなんだ?
側にあるゼリー状のスライムはなんだ? 新種の生命体のように動いているがどうなんだ?
ごぽごぽと泡立つ、鍋の中身はなんだ?
「ほら、いつもおとさんにご飯作ってもらってるから僕たち頑張ったんだ」
目をきらきら輝かせながら豆柴が言う。
……。
待て。今思い切り、恐ろしいことを口走らなかったか?
「今日、小父様たちいないし」
だからいつものように俺が作ろうとしたんだが。
「ちょっと、おとさんが作ってくれるご飯みたくなってないけど。きっと美味しいよ」
…きっと?
…。
…。
まさかそれは本当に…。
「今晩の、飯か?」
「「うん!!」」
俺はこの時、このきらきらと輝く瞳の少年少女に対して「それを捨てろ」という言葉を吐けず、とりあえず今晩の犠牲者であろう自分とリョーマとリクの冥福を密かに祈った。
……この二人にはみっちり基礎から料理を叩き込もうと心底思った日のこと。
「逆行生徒」小鷹・天野ペアVS男主人公
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