それは言ってはいけない言葉
親父さんは時折酒を飲むと歌う。
それは季節がめぐる歌だったり、哲学的な言葉が並ぶ歌だったりしたけれど。
今夜の曲はちょっと違った。
その歌は俺達が聞いたことがない歌詞で、そして物悲しい曲のように思えた。
親父さんの、元いた世界の歌なんだということは判った。
そんな時、俺やガイ…バノッサさんやカノンも、そしてレシィもただ黙ってその曲を聴くしかなくて。
♪兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川
ただグラスを傾けながら静かに歌う目は澄んでいて、なにか懐かしそうだった。
♪夢は今もめぐりて
とくとくとくっとグラスに酒が注がれる。
♪忘れがたき故郷
バノッサさんがそっと親父さんから目をそらしたのを俺達は見逃さなかった。
忘れがたき、故郷。
生まれた世界。
親・兄弟がいる世界。
親父さんは、ガキの頃召喚事故でやってきた、いわゆるはぐれ召喚獣で。
召喚した奴がいないことにはどうしようもなくて。
「…親父さん」
「あぁ?」
グラスの中の酒を見つめながらそう返してくれるけど、二の次がいえなかった。
ガキの自分で元の世界から無理やり連れてこられて、それからどんなに苦労したのかなんて俺には想像できねぇ。
つらかったはずだ、苦しかったはずだ。
「なんだ、ザオン」
言葉を促すように言ってくれる親父さんに、俺は…。
何も言えなくなった。
いや。
言っちゃいけない。
バノッサさんや、カノンが、俺のことを心配そうに見ている。
ガイは静かに自分のグラスに酒を入れている。
レシィがつまみの皿をそっとテーブルに置いた。
判ってる。
皆、言いたいけれどけして口にしてはいけない言葉。
<…元の世界に戻りたいですか?>
それは言ってはいけない言葉。
なぜなら、絶対的に親父さんは帰れないから。
自分の世界に。
親の元に。
「それ、何番まであるんですか? さっきから同じ歌詞っすけど」
「…これしか覚えてねーんだよ」
親父さんはそう言って笑ってくれた。
故郷。
ここは親父さんの生まれた場所ではないけれど。
ここが俺達の故郷で。
親父さんの親父さんや、おふくろさんにはかなわないけれど。
だけど…いや、だから。
元の世界に戻りたいなんて、思わないで下さい。
ここが親父さんの、第二の故郷なんですから。
そう思いながら、酒をあおったのは、きっと俺だけじゃなくてこの場にいる全員。
名前変換創作/サモンナイト 終焉の獣/男主人公VSオプテュス幹部(オリキャラ視点)
ガイとザオンを勘違いしていたので多少なりとも多少加筆修正。
ブラウザバックでお戻りください。
素材by「因果な表現型」様
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