1・考えるのは貴方の事ばかり/「貴方の虜 10のお題」
ふと気がつけば、あいつを思い出す自分がいた。
「親父さん、今日はどうします?」
「今日は特売の日だからちっとあのパン屋に並んでくる」
「てめぇ!! 親父!! オプテュスのリーダーのくせして…っ」
「バノッサ、後頼む」
「親父ーーーっ!!」
あとのことは息子に任せて、ふらり、と俺は裏街道を歩く。
どこかで聞きかじった歌を、鼻歌で奏でながら歩く。
サイジェントの裏町は、いつかの町並みに恐ろしく似ていた。
いや、こういう場所にしか俺は住めないから。
『あたしはあんたと暮らせるのならどこでもいいわよ』
足が止まる。
幻聴だとは判っていた。
いつだったか、俺の父親になってくれると言った召喚師がいて、高級住宅地に移り住めるかも、と言った時だったか。
『あんたと一緒なら、どこでもあたしには楽園なの』
そう言って、甘い口付けを交わした。
見えにくい方の瞼を指でかいた。
俺にとってのかつての楽園は……。
「お父さん! ボクも行きます!!」
ふいに呼びかけられて、はっとする。
振り向けばカノンがいた。
あいまいに頷くと、カノンが俺を先導するかのように歩き出した。
「くるみが入ったの、ありますよね。あれ、大好きなんです」
カノンの言葉に俺は笑った。
『くるみがはいったパン、大好きなの!』
それはあいつの言葉を思い出させたから。
おれのかつての楽園は失ってしまったけど。
お前を思い出させて、そして俺を暖かくしてくれる場所を俺は見つけたよ。
俺の魂は、ずっとお前を求めてる。
気がつけば、お前を思い出してる。
それは俺だけの秘密。
サモンナイト 終焉の獣 男主人公、奥さんを想う。
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