4・繋ぎ止めて・・・/「貴方の虜 10のお題」
「お前もそうだろう? 何よりも、人を壊すのが面白いだろう?!」
それはどう見ても常軌を逸した男の瞳をしていた。
その男はからからと笑った。
何人殺害したか、というのを自慢げに話すその男は【天流】という【闘神士】のグループにかつて属していたのだと言った。
【天流】。
この他に【地流】というグループがあり、世界を守りつつ勢力争いをしているのだそうだ。
(この辺りは上司から話は聞いている)
「所詮、お前も俺と同じ、『こちら側』の人間だ!」
そう言われたのは、中学生になったばかり(例えそう見えなくても)の少年だった。
恵まれた、というよりも本人が鍛えぬいたその身体が、音もなく構えるのを見て男は笑みを消した。
私は携帯していた拳銃に手を伸ばそうとしたが、警視に止められる。
「薬師寺警視…っ」
「だめ。これは、あの子の領分よ」
奇声が男の口から放たれ、彼に飛び掛った。
静かに。
そう、まるでアクション映画のスローモーションのように彼の動きがコマ送りのように見えた。
「18になったらJACESに就職しなさい」
「断る」
覆面パトカーの中での上司の言葉に彼はそう返した。
一刀両断に切って捨てるかのような即答に私は、思わず拍手を送りたかったのだが運転している手前そうも行かない。
あの男の身柄は所轄の警察に暴行の現行犯としてすでに送り届けてある。
「闘神士としての記憶、持ってたわね。あいつ」
「…闘神機を破壊された程度では記憶は喪失されないらしいな」
まるで何事もなかったかのように彼と女王陛下は話し始める。
「…で、あんな【天流】闘神士はあと何人なのかしら?」
「あんなのはもういない。それでなくても【天】は少ないんだそうだ。いるとしたら【地】の連中だな」
「…で、今夜のようにあんたはわざわざ出向いてやるわけ?」
そう。
そうなのだ。
あの男は闘神士として式神と呼ばれる存在と契約していたのだが、先の戦いでそれを喪失して封印され、その封印をこじ開けて出てきたらしい。
そして、【天流宗家】の義理とはいえ兄である彼に目をつけ、周辺の住民を巻き込んでの破壊活動をされたくなかったら、と威してきたのが、そもそもの始まり。
まるで少年漫画のような、そんな存在を私が知ったのもつい先日の事で。
薬師寺警視だけは、彼と前からコンタクトをとっていたようなのだが。
「あぁ」
「…一人で?」
「俺は正義の味方じゃない」
彼は薬師寺警視を見たらしい。
「売られた喧嘩を買いに行った。ただそれだけのことだ…。それに、自分の力量は弁えてる」
彼の言葉に、私はなんとも言えずにいた。
彼の言葉は、態度は、そしてその力量は子供のレベルじゃない。
そして彼の、この存在感と放たれる威圧感も。
彼を住まい近くの道で降ろすと、私の上司が口を開いた。
「泉田君。あの子、どう思う?」
「子供にしては危険な思想です」
本当は思想だけではないけれど。
「あれはあれで、好戦的と見えるわよね」
そして敵は一切合財たたきつぶせる力量を持っている。
「…あの子の『力』は一般人には向けられる事はなくても、それ相応の人間が相対した場合は…」
「…あの子の流派はね、鬼と戦うためにあの寺のずっと前の住職たちが生み出した技らしくて…あの子いわく、ちゃんと殺せる業なんですって」
殺せる? 何を?
「人を? それとも…」
「それでなくてもご近所には三つも人間凶器がいらっしゃるんだもの。あの子もその手の性格になってても不思議じゃないわ」
「薬師寺警視」
私の声音に注意するような響きがあったのに気が付いたのか、彼女はふと微笑んだ。
「まだあの子を『こちら側』につなぎとめておける鎖があるから」
「?」
私は、彼女が何を指して言っているのか判らなかったのだが…。
後日。
私は久々の非番の日に彼と彼を見ることができた。
「おとさーん」
そう言って小柄の少年が抱きついてきて、同じくらいの年齢の少女が話しかける。
弟らしい少年が抱きついた方と話せば、その前を帽子を被った男の子が何ごとか言いながらすたすたと歩いていった。
その時の彼の風貌が。
あの夜、あのときに垣間見た彼とは全く違う、暖かなものだったことに私は安堵したのだ。
願わくば、彼らという名の鎖が切れないことを。
私は密かにそう思いながら、視線をそらした。
逆行生徒。某女王陛下の参謀長官から見た男主人公。
また本当のお題にそってない(笑)
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