5・傍にいていいですか?/「貴方の虜 10のお題」




「手塚君、ここに書類おいとくね」

「あぁ…ありがとう」

そっとお礼を言うと「どういたしまして」と返ってきて、微笑まれた。

それが嬉しくて、自然と顔が笑ってしまうが彼女は俺のそんな表情を見たことはない。

なぜなら、彼女は俺をもう見ていないから。

生徒会の役員でもない彼女は、一組の副委員長という事でよく生徒会の用事に借り出された。

俺としては嬉しい事でも、彼女としてはつらいことだと思う。

なぜなら、俺が彼女をふってしまったから。

お互いに意識しあっていて、俺自身も彼女が好きで。

意を決して告白してくれた彼女を、ふってしまったから。

本当は、俺の方が彼女の存在に助けられて、癒されて、そして好きなのに。

全国大会の犠牲に勝手にしてしまった俺を、彼女は受入れ、そしてなんとか友達という状態にしてくれた。

以前のように、すぐ側にはいなくて。

以前のように、優しく笑いかけてくれるのではなくて。

どこかやはり一線引いているけれど。



それもこれも、俺の自業自得だ。

生徒会室を出ようとする彼女に何か言わなくては、と俺は声をかけると。

「なぁに? まだ何かすることあったかな?」

なんて振り向かれて。

その何気ない仕草にどきどきしてるなんて、きっと君は知らない。

「いや、もし良かったら何か礼をしたいんだが」

なんとか口にする。

「お礼? いいよ、いいよ。気にしないで」

「いや、それでも…」

以前はお礼に帰りに何かおごる、と口にできていたのに。

それができない。

彼女を拒絶してしまった分際で、彼女に拒絶されるのが、俺は怖いのだ。

だけど。

だけど。

もう、ほんの少し。

以前のように。







側にいていいですか?

君の心に。

君の側に。


いくらでも謝って、できうる事なら抱きしめたいから。



そう想うが、口にはできず、結局彼女に「じゃあ」と別れの挨拶をされて、一人佇むしかなかった己が無性に情けなかった。






テニスの王子様・片恋シリーズ 手塚部長とヒロイン。全国大会終了後。

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