感情表現 10のお題
4・泣く
「日々真面目に生きてきたつもりなんだ」
口を言う気は元々なかったのだが聞き上手というか、出されたお茶にほっとしてからいつのまにやら私はそう告白していた。
同学年の弟たちは『印』というものを探しに行っているので遅いらしい。
「それなのに、ふと気が付けば上司は女王さま。当る事件は不思議な結末のものばかり」
はふぅ、とお茶からの湯気を溜息で揺らす。
「泣けるな」
そういいつつも彼の言葉と表情はうっすらと笑っている。
「君の方は?」
「別段に不満はない」
錬金術の結晶であるガーゴイル達が巻き起こす騒動も、弟が巻き込まれた闘神士同士の死闘もそべてひっくるめて彼は「不満はない」と言っているのだと思う。
「あぁ、一つだけ、ある、かな?」
おや、珍しい。
私の表情に、小首をかしげひどく年相応に見える仕草で彼は言った。
「この間、岸本警部補が来た」
え。
「それ以降、白ウサがアニメの主題歌を熱唱しだして豆柴が「フィギュアってなぁに?」って聞いてくる。リョーマとリクも気が付けば挿入歌を鼻歌歌ってて、慌てて止めてる始末だ」
………。
「聞いたら岸本警部補に「レオタード戦士ルンがいかにすばらしいものか」を力説され、CDも貰ったそうだ」
そう言ってから溜息をつかれた。
「白ウサに至ってはコスプレしてみない? とまで言われたらしい」
………。
「泣けるな」
いろいろと、と呟かれ、私は居た堪れなく感じてしまった。
逆行生徒/男主人公と警部補
5.喜ぶ
「シンジ君。今年のバレンタインはどうする?」
「僕はチョコじゃなくて何か小物を買おうかな、って思ってるよ。カヲル君」
「へ? シンジ達は貰う方じゃなくてあげるの?」
「…あぁ、僕らも貰う側だけど…家族には家族で準備してるんだ」
「特に姉さんにね。キヨは毎年貰っていたんだろう? やっぱりチョコかい?」
「そうだね! 女の子のハートも貰ったりしてたけど!」
「ハートというより、君の場合は『身体』じゃないかな?」(優しげな微笑)
「勿論、それも美味しく昨年は頂いたよ?」(にこやかな微笑み)
「え、えーっと!(赤面しながら) き、キヨはどうするの?!」
(しばし赤面したシンジを見つめるキヨとカヲル)
「…シンジをからかうと」
「そうだね。反応が面白い。…楽しいって事さ」
「ひ、ひどいよ! 二人とも!!」
「ま、シンジ君で遊ぶのは置いといて。僕も参加していい?」
「勿論」
「…(うぅっと赤面してから)…そ、その。僕は、シルバーアクセサリー作ろうかなって。あんまり高いもの買ったら姉さんは怒るから」
「でもシンジ君。あまり姉さんはそういったものを普段も、公的な場所でも身に着けないよ?」
「…そうなんだよね」(溜息)
「逆に男性っぽい服装してるから…。公の場所に出るのも男物スーツ着てたし。ネクタイとかは?」
「…キヨ。僕らは姉さんには姉さんらしくして欲しいけれど、女性らしいドレスも着て欲しいとも思ってるんだよ」
「スーツ、似合うんだ。似合うんだけど…」
「…まんま男に見られて女にもててるものな」
「「サスケ」」
「サスケ君。どこ行ってたの?」
「あぁ、ウスラトンカチ捕まえて今年のプレゼント候補の目録でも作ろうかと思ってたんだが」
「流石、優秀ネットナビ!」
「話は最後まで聞け、キヨスミ。先にサクラに捕まえててな」
「「「え?」」」
ばたばたばた…ばたん!!
「あんたたち〜〜〜〜〜!!!」
「アスカ」
「アスカちゃん」
「言っとくけど、下手なアクセ作って姉さんに渡すんじゃないわよ! アクセ作りは先にあたし達が考えてんだから!!」
「!」
「何言ってんだよ! 考えたのは僕だよ、ずるいよアスカ!」
「ずるいのはどっちよ、馬鹿シンジ!」
「あー…シンジ君とアスカちゃんの案、ブッキングしちゃったわけね」
「えぇ、そういうわけだから潔く引いて頂戴」
「レイ…」
「レイちゃん、あくまでも自分達が引こうとは思わないのね…」
この数分後、サクラとサスケと、そして引きずり込まれたナルトの「四人でそれぞれ違うタイプのハンドメイドのアクセサリーを作る」で弟妹達の口論は幕を閉じた。
全ては、たった一人の(アスカいわく「だってリツコはママでミサトは手のかかる妹みたいだもん」ミサト「ぬぅわんですって〜〜!」)姉の喜ぶ顔が見たいから。
「で、あんたは何あげるの? あたしは、通販でドレスにしたけど。ナルト」
「こないだ知りたがってた某国の内情、ハッキングしたってばよ」
「俺とかぶるな…。変えろ、ウスラトンカチ」
「「え」」
クロス×無限大!
EVA妹弟&ネットナビたちの姉へのバレンタインに向けての会話
6慌てる
バレンタインというものは、製菓会社の売り上げを伸ばすために作られたイベントだとは頭では理解していても、やはり女と言う生き物は心躍らせるのだなとどこかで彼はそう諦めに似た感情を浮かべていた。
街中が甘い匂いを漂わせているのではないかと思ったのはメインイベントである2/14にピークを迎えてようやく落ち着いたのだが、この一日のおかげでどれだけ日本経済は動いたのだろうかとどこか現実逃避も起こした。
まぁ、それは全て一年近く同居を続けた小動物と呼称する幼い(自分の義弟含む)子供達のせいだといえばそうなのだが。
お祭り好きというか、子供らしくイベントにはもれなく参加をする越前家に同居する子供達は、那美を中心にバレンタインのチョコレートつくりという工程に興味を覚えて台所に数日間居座ったのだ。
それは彼にとっては心温まる女の子の行事ごとから凄惨な台所破壊工作に思えた。
料理が壊滅的に手際も悪ければ、致命的なうっかりミスをする那美と騎一の二人がそろっているのだ。
穏便に済まされるようなことではなかった。
「…白ウサ、チョコをそのまま火にかけるな」
「豆柴、それはまさかラム酒か?…一瓶入れきってどうする」
「リョーマ、他人の振りをするな」
「リク、悪いが板チョコ買って来てやってくれ」
何度となく繰り返されるそんな会話。
しばらくすればリョーマは飽きてしまい、リクは傍観者になったのだが。
そうこうしているうちに那美たちは同級生の女の子達も一緒に台所を占拠し、こう言い放った。
「おとさん、チョコ作ってる間は入ってきちゃ駄目っ!!」
いわく、自分達だけでなんとか頑張りたいからと言う言葉に彼は義弟に台所の状態の行く末を頼みながら、席をはずした。
(まぁ、他に人間が居るのであれば大丈夫だろう)
どうせ自分が貰うのではないと彼はたかをくくっていた。
女の子の「誰にチョコをあげるか」の話題はとにかくテニス部の人間が多い。
義理チョコは市販のものを、本命は手作りを。
それが彼女達のバレンタインだ。
自分がもらえるとはまったく思っていなかったのだ。
だからこそ。
「これはなんだ」
「兄さん、見て判らないの? チョコレートケーキだよ」
微笑むリクの頬が、心なしか青ざめている。
「ボクも頑張ったんだよ!」
騎一はまさしく子犬のような笑顔と態度で彼を見上げる。
「…あぁ、うん。諦めなよ、俺達も腹をくくったから…」
リョーマがぼそりと言ったのを、彼の耳は聞き逃さなかった。
「リク?」
「…うん、ごめん。ちょっと目を離したらもう完成してて何が入ってるか判らないんだ…」
(ということは、作ったのはこの二人(騎一と那美)か…)
「あのね、隠し味入れたからきっと美味しいと思うの!」
隠し味。
それが問題だ、とはまさか彼も口にはできなかった。
「…そうか」
そう言ってテーブルに着く。
目の前にはブラック珈琲と見た目は美味しそうなチョコケーキ。
「元レギュラーの先輩にも配ったんだってさ」
「…ちゃんと味見したか? 二人とも」
「「うぅん、してないよ?」」
その返答に内心、慌てながら一瞬レギュラーたちの心配をしたが。
(いや、とりあえず他人よりもまず自分達)
そう考えながら、それでも彼は、そして彼らはフォークを持った。
そのケーキの味わいに関しては…………ご想像にお任せしよう。
逆行生徒のバレンタイン
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