約束どおり、パンミキサーを購入した彼女はハートの形をしたマフィンを作ってくれた。
レシピどおりになんとか作ってくれたそれは、たまたまその日に俺に挑戦とか抜かしてやってきていた榊の腹の中に納まってしまい。
「飛鳥さん、そ、そんなに怒らないで。また作りますから」
という彼女の言葉にしぶしぶ、そのときは殴るのを止めた。
そのときは。
その後、庭先で「勝負!」とか言ってくる奴をぼこぼこにしたが。
…奥さんに見られているとそうはできないので片付けとかお願いして来ないようにした上で。
「榊君は練習代になってくれたと思ったら腹も立たないでしょう?」
と、彼女に言われたが、腹は立つってーの。
彼女の『一番』最初に作ったものを俺じゃない奴が口にするなんて。
そう言うと、小首を傾げられた。
それから数日後。
「また挑戦します」と言ってくれて、作ってくれたのだ。
「なんだか二回目だから、前よりも上手くできたかも?」
そう独り言を言いつつ、用意してくれてるのを俺は待っている。
誰かに、何かを作ってもらえるのがこんなに嬉しいものとは知らなかった。
「飛鳥さん、できましたよ」
彼女がそういって差し出してくれた。
あ…折角だし。
ハートの形を切ってしまうのは、ちょっともったいなく思いながら、少しナイフで切ると彼女に頼む。
「あーん、ってして?」
かぁああっと彼女の耳が赤くなって。
「えぇ?!」
断られるかな? と思ったんだが。
それでも恥ずかしそうに。
「え、えっと…あ、あーん」
としてくれたので、俺は「あ〜ん」とか返しながらそれを口の中に入れた。
味わうように一口一口食べて、またしてもらう為に、催促するように口を開く。
「え?ま、またですか?」
うん、と頷くと恥ずかしそうにまたやってくれたので、またもぐもぐ口を動かす。
「飛鳥様、いったいおいくつですか」(日照)
「いい歳こいてなにやってんですか、飛鳥様」(月天)
なんていいやがる、いいタイミングで帰ってきた同居人の言葉はシカトする方向で。
俺はもう一度口を開いた。