♪どうして 夕暮れ時 寂しくなるの 理由もないのに





あいつの歌声が聞こえてきた。
俺は運転しながら、バックミラー越しにちらっと見る。
孫悟空(むちゃくちゃ強いガキ)と、いつも一緒にいる女。
黒目、黒い髪の普通の女。
目が離せないのはぱふぱふできる胸のでかさと、その綺麗な歌声だ。
歌う歌は皆どこかおとなしい、優しい曲だ。
異世界から来たんだと聞いたときは「けっ、何を寝ぼけたこと抜かしやがる」と思ってた。
けど、それを否定する材料がねぇしよ。
まぁ、雰囲気がブルマと違うのは判るけど。

「なぁ…オラその歌、…『好き』だ」

悟空がそう言ってんのが聞こえる。
きっと尻尾揺らしてんだろうなぁ、とか想像できるぜ。
あいつ単純だもん。

「そう?」
「あぁ、オラ……の、こと、も…」

眠そうな悟空の声に「おやすみ」とあいつが声をかけるのが聞こえた。



あいつは、俺たち以上に悟空に対して線(ライン)を引いてる。



見てれば判るぜ。
悟空が精一杯、あいつに言ってるのが。
自分の言葉で言っている以上に、身体でいっぱい表現してる。

母親のように。
家族のように。
いや、違う。

悟空は、きっと『男』として。

「こっち向いて。」

けど、あいつはまともに向いてやらない。



違う世界の住人だからか?
一度聞いたら、俺としたことが女を泣かせちまった。

「あたしは、自分の世界に帰らなきゃいけない人間ですから。いつまでも悟空とは…。
ううん、ブルマさんとも、ウーロンとも一緒にはいられないんです」

帰りたいのかよ、と言ったら。

「帰りたいのか、帰りたくないのか自分の気持ちがわからない。けれど、帰るべきなんです」

そういって、あいつは泣いた。



俺は帽子をかぶりなおした。

「らしくねぇよなぁ、俺が」

そう言いながら、ハンドルを切る。



悟空。
お前の「こっち向いて。」のその心の声は、あいつの心に届いてはいるけれど。
けれどそれは同時にあいつを泣かせてるぞ。
俺はそれだけそっと心の中で呟いて、溜息だけついた。

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