「甘いもので12のお題」

1. スフレ




あたしがお菓子作りをし始めたきっかけは月天さんとの会話だった。

中学生ぐらいまではこまめにケーキを延々と作っていたと言ったら目を輝かせ、「また作りません?」と言ってきたのだ。

面倒くさがりなので長続きしない可能性がありますが、と言った後、お菓子の作り方をネットで調べて道具と材料を用意し、作ったのがスフレ。

試食にはちゃっかり日照さんもいつのまにか来ていた。

飛鳥さん…結婚当初は「あの」とか呼びかけるだけで名前すら呼ばなかった彼は、最初は台所を一瞥しただけで通り過ぎた。

一応、住職様(天翔様)と彼の分はちゃんと残しておいて、お茶請けにしてくださいと言ったが気がつけばゴミ箱に捨てられていたっけ。

それを見たときは、少し哀しくてそれでも「あぁ、無理はないか」と思ったものだ。

それからたびたびこの「お菓子作り」は行った。

「次は和菓子を」

日照さんが親指をぐっと突き出してスフレをしっかり確保しながら言ってくれたから。

だからあたしとしては驚くほど根気よく続いている。

それから、飛鳥さんの態度がじょじょに変わってきたのが判った。

毎回捨てられるのが判っていて、彼の分を取っておくのも迷惑だろうと思って彼の分は考えないように作り、たまに多めになったら渡す事にした。

意地悪でするのではなくて、甘いものは嫌いなのだとその時は解釈していたから。

そうしたら、ある日「手伝おうか?」といわれたのだ。

その言葉に咄嗟に「いいですよ、無理しないでください」と返したら、彼が珍しく口ごもって、幾分か肩を落としたのを覚えてる。

それからは、作るときにあたしの側に来て「俺の分も作ってくれる?」と聞くようになって。

そして、今。

「今日は、スフレ?」

飛鳥さんがあたしが睨んでるレシピを覗き込む。

「えぇ。月天さんが美味しいって言ってくれたの、思い出しまして」

「ふぅん」

なんだかちょっと不穏な空気を流しながら、飛鳥さんがあたしを後から抱きしめてくる。

「あ…あの…」

なんだか恥ずかしくて俯くと。

「俺の分も作って」

いつものように聞いてくるので。

「…嫌いじゃないかったんですか?」と思わず聞いた。

飛鳥さんはちょっと黙ってから。

抱きしめる力がほんのり強まる。

「好きだよ」

君も、君が作るものも。

そんな囁きが聞こえた気がして。

「そ、そうですか…。じゃあ、多めにつくっときますね。スフレ」

耳を紅くして、あたしは聞こえなかったふりをする。




ほんのりビターな「悪魔と踊れ」

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