「甘いもので12のお題」

11. クリームブリュレ



先輩たちや、同級生の子達はおとさんのこと、怖いって思ってるかもしれないけれど。

おとさんは、優しい。

おとさんは、あったかい。

おとさん、って呼んでも怒らないし、わたし達が困ってたら助けてくれるし、守ってくれるもん。

騎一くんもリョーマくんも、それからおとさんの弟のリクくんも、そのこと判ってるのに、どうして皆判らないんだろう?








お家に帰ると、誰も居なくて。

わたしはバックを部屋に持っていくと、台所に下りてきた。

「白ウサ」

おとさんは、わたしのことをそう呼ぶ。

「おとさん」

皆は? って聞くと騎一君は海堂先輩と乾先輩とトレーニングの為のデータ収集、リョーマ君は桃ちゃん先輩とコートで打ち合ってる。リク君は印集め、って流れるように答えてくれた。

「白ウサは?」

さっきの試合を思い出して、きゅっと唇を噛んだ。

「…試合、してきたの」

わたしの言葉を聞いて、おとさんは頭を撫でてくれてから言った。

「…白ウサ、テーブルにつけ。味見役しろ」

おとさんはそう言って、いつものテーブルにわたしを座らせた。

結果も何もいわなかったんだけど、判っちゃったんだと思う。

わたし、負けちゃったのを。

おとさんがごそごそしてるのを感じながら、わたしは俯いてた。

なんだか恥ずかしかった。

自分の弱いところ、教えちゃうようで恥ずかしかったし、自分が情けなかったから。

しばらくしたら、いい匂いがしてきて、わたしが顔を上げると「できたぞ」と目の前に出してくれたのは。

「…クリームブリュレ」

切ったイチゴとミントも添えられたそれを見つめてから、おとさんを見上げたら、おとさんはもうこっちに背を向けて、洗物をしてた。



いつだったか、皆でテレビを見ていたときにわたしが言ったのを覚えてくれてたんだ。

「これ美味しいんだよぉ?」

「そうか」

その時のおとさんとの会話はたったそれだけ。

でも、たぶんわたしが「美味しい」って言ったから。



「早く食べろよ」

その言葉に促されてわたしはスプーンでそれを口に運んだ。

甘くて、本当に美味しい。

一口、一口。

味わっていたら、なんだか嬉しくて、それでいて、慰められて。

「っ…っえっく…」

そう思ったら、涙がこぼれて止まらなくなった。

「白ウサ」

「まけ、ちゃったの」

試合に負けた。

「すごく、悔しいよぅ」


甘いそれをこくんと飲み込んでから、そういうとおとさんは濡れタオルを用意してくれて。

「そうか」

「頑張れ」とも「次がある」とも口に出して言わないのが、おとさん。

ただ、おっきな手の平がわたしの頭を撫でてくれた。

泣いてる間、ずっと側に居てくれた。

濡れタオルをくれた。

「おとさん…っ」

タオルで目元を冷やしながら言うと、おとさんは「ん?」と聞き返す。

「…また、作ってくれる? クリームブリュレ」



皆に、内緒でわたしだけ。

おとさんは、また頭を撫でてくれる。

「次はイチゴの作ってやるから」

だから、次は泣く羽目にはなるな。

そんな声が聞こえてきたみたいで、わたしはこくんと頷いた。



甘い、甘いクリームブリュレ。



おとさんの、おっきくて優しい、味がした。





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