「甘いもので12のお題」
3. お砂糖
「あら、珍しいところで会うわね。九十九さん」
「…レイか」
クズノハの巫女、歴戦のデビルサマナーのパートナーであるレイ・レイホウは、最強とも言えるデビルバスターの様子がおかしい事に気が付いてピンと来た。
新米のクズノハメンバーの指南役のような立場を取る彼は、当初鼻につく行動が多い人物でもあったが、ここ数ヶ月の間で彼の態度が柔らかくなってくるのを彼女は知っていた。
「おっさん、結婚しててよ。ど素人の女だったぜ」は、クズノハに協力してくれている剣術使いの少年の言葉だった。
「ぽっちゃりとした、態度の柔らかい方でした」は、新米サマナーの言葉だった。
なので興味はあったのだが、此処のところの仕事で忙しく彼に話す機会がなかったのだ。
「そういえば、お前も女の端くれだったな」
「失礼な」
と、言いつつもレイは小さく笑う。
「なら、どんなものを貰ったら嬉しい?」
きょとん、と目を丸くして思わず。
「新しいトンファーかしら」
「寝言は寝てほざけ」
即、綺麗に返されて彼女はぱちぱちと瞬きを繰り返して彼を凝視する。
こんなにぽんぽんと言葉が飛び交うような男ではなかったのだ。
この九十九飛鳥という男は。
「どういう経緯で買うの?」と聞くと、またも即答された。
「結婚三ヶ月目突入記念とでもおもっとけ」
(三ヶ月記念って…)
つっこもうと思ったがあえて彼女はそれを飲み込む。
「で…?」
「いや、で? と言われても…。オーソドックスに貴金属とか装飾品は?」
「なくしたら困るから、あんまり高いものは欲しくないんだそうだ」
(あら、珍しい)
「服とかは?」
「…あいにく新作とかは御神と一緒に買い物に行った直後だったらしくてな…」
苦虫を噛み潰したような彼の表情に、ふっとレイは笑う。
「なんだよ」
彼は気が付いていない。
クズノハの中でも彼は異質で、冷たく尊大な存在と見られている。
こんな表情豊かな彼を、新米たちは見ているのかと思うと、それだけで羨ましくも思えた。
「…じゃあ、手っ取り早く彼女に聞けば? 何が欲しいのか答えてくれるんじゃない?」
「……それは、聞いた」
あら? という表情でレイは彼を見上げる。
「なんて聞いて、なんていわれたの?」
「…『服とかそういったものが駄目なら、今一番欲しいものはなんですか? 買えれるもので』て聞いた」
飛鳥の言葉にレイは含み笑いをする。
この男が丁寧な言葉使いをするなんて、今まで聞いた事がなかったのだ。
「で?」
「…しばらく考えてから、『じゃあ、今一番欲しいものお願いできますか?』って言われて」
それで彼は少し期待したようだと、思った。
「ふぅん、そしたら?」
「ちょっと笑って」
「うん」
「『お砂糖買ってきてください』」
「………」
「『今、ちょうど切れて困ってるんです』」
一瞬、間を置いてレイ・レイホウが噴出した。
「悪魔と踊れ」 デビルサマナーと旦那の会話
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