「甘いもので12のお題」

4.レモンソーダ






「あら、奇遇ね」

「本当に奇遇がどうか怪しいもんだな」

「一言多いのはこの口かしら?」

「今は勤務中じゃないのか?」

「あいにくと休みってものもあるのよ、警察官にもね」

そいつぁ、どうも。

そうおとさんが言うので、僕はそっと二人を伺いました。

とっても綺麗な人で、確か…えーっと、おとさんが「女王陛下」って呼んでる女の人です。

「…あんた、この人の前だとよく話すね」

リョーマ君がそう言ったら、おとさんは鼻で笑いました。

「いやみの一つでも言いたくなるからな、それでだろ」

「相変わらず可愛げがない男ね」

「薬師寺警視に可愛いと思われたら最後なんでな」

薬師寺警視。

初めて知ったこの人は、とってもえらい人なんだ…!

「あ、あの…初めまして…」

顔を真っ赤にして僕とリョーマ君の後ろから小鷹さんが顔を出して挨拶する。

「初めまして」

にっこりと微笑む薬師寺さんに、僕達は顔を紅くした。

だってとっても綺麗だから。

……でもおとさんは顔を紅くしてなくて、ただ薬師寺さんをにらむだけ。

「うちの小動物たちがあんたの下僕になったら困る」

「あら、あんたが言うならこの子たちは随分優秀なのかしら?」

答えるのも面倒くさいっていう仕草で背を向けるおとさんだけど。

「これも何かの縁だし、何か奢ったげるわ」

その言葉に、僕と小鷹さんとリョーマ君がおとさんを見上げて。

おとさんは僕達の目を見て、しばらくしてから。

「………しょうがねぇなぁ」

そういう理由で僕達はファミリーレストランに入ることになった。




僕達が頼んだものは軽めの食事に飲み物。

おとさんは携帯に電話が入ったらしくて、今この場にはいない。

小鷹さんが頼んだレモンソーダの氷がからん、と音を立てた。

「へぇ、あいつのこと。おとさんって呼んでるのね」

「…それがどうかした」

ぶっきらぼうにリョーマ君がそう聞くと、薬師寺さんは笑った。

び、美人な人が笑うとすごい迫力なんだなぁ。

なんだか恥ずかしくなって、僕と小鷹さんがうつむく。

「いえ…あの男が素直にあなたたちの世話をしてるのが、どうしてなのかよく判らなかったから」

「?」

「でも、今日君達と話していてよく判ったわ」

「どういう意味?」

ふっと薬師寺さんは笑うと珈琲を口につけた。

「教えて欲しいんだけど」

リョーマ君が再度言うと、薬師寺さんの瞳がリョーマ君のそれとかち合った。

「勝気な子ね」

「……俺、ごまかされんの嫌いなんだよね」

その言葉に、またこの人は笑う。


「そうね、その瞳に免じて教えてあげる」

その人は笑った。



「あの男はね、基本的には我侭で自分勝手な性格の持ち主なの」

「…っ!」

違う、といいかけたけれど、薬師寺さんの目がそれを邪魔した。

「そうじゃなくて? 自分が強くなるためにはなんでもかんでも利用するし、敵とにらんだ相手はきっちりかたをつけるわ。警察の手も借りないでね」



「……おとさんは、優しいです」

うつむいた小鷹さんの言葉に、あの人は笑う。

「そうね。貴方達はそう言って彼を自分達の保護者にしちゃったのよ。すごいわね」

「え?」

「貴方達はね、きっとあいつを『おとさん』と呼ぶことによって貴方達を自分が護らなくてはいけない者だと認識させたの」

だから、貴方達には優しいの。

そう薬師寺さんは微笑む。

「あいつの弟も居るよ。義理だけど」

今日は一緒じゃないけど、というリョーマ君の言葉に。

「ならなおさらね」

薬師寺さんはリョーマ君に言った。

「傍若無人で、自分勝手な正義を振りかざし自らの正義に反する敵を追い求める男を、貴方達は知らず知らずのうちに鎖に繋いでるのよ」

それってすごいことなのかな?

鎖に繋ぐ、という言葉がなんだかお腹にずしってきた。

「…それって、おとさんにとっては…いいことですか…」

僕の言葉に「知らないわ。あたしはあいつじゃないもの」と続けた。

「でも、あいつも楽しんで鎖にじゃれてる気がするの。だから大丈夫なんじゃない?」



そこで、おとさんが帰ってきた。

「どうした? リョーマ」

「……別に」

リョーマ君の返事におとさんは眉をひそめた。

「薬師寺警視。なんか子供の教育上よろしくないことでも言ったのか?」

「いいえ、別に」

微笑む薬師寺さんに、おとさんは眉をひそめたままだった。

小鷹さんのレモンソーダの氷がからん、とまた言った。




それから薬師寺さんと別れた僕達は、おとさんのシャツにしがみついて。

「おとさん、おとさんって呼ばれるのいや?」

「僕達、おとさんのお荷物?」

「別に俺たちにかまわなくてもいいよ」



そう言い合っておとさんを困らせてしまい。

「あの女になんか言われたかもしれんが、あんまり気にするな」

そういわれて頭を撫でられる僕達がそこにいた。







逆行生徒 なぜかシリアス

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