「甘いもので12のお題」
6.マフィン
(少し怒らせちゃったかな)
お砂糖を買ってきてくれた彼女の夫は、なんだか小さく溜息をついていたから。
(でも、本当にいろいろ買ってもらうと失くしちゃうと困るし)
それに彼から買ってもらわなくても指輪や、衣の類は仲良くなった妖怪達がそそっと貢いでくれるから必要はない…と思う。
(悪い、とは思ったんだけど…)
結婚三ヶ月目だから何か贈りたいとか、そうなにかしら言っていたが、彼が彼女に対して結婚指輪以外の何も特別なものを買っていないのを気にしている事は気が付いていた。
(別れること前提に考えているから…)
それは彼に対しては誠実ではないか、と少しばかり考えて彼女はおろそかになりがちな手を動かした。
その数十分後、ネットで見つけた簡単レシピを使って作ったお菓子を皿に盛る。
他の三人(日照たち)と友人(白姫様)の分も避けておいたが、飛鳥の分はちょっと違う。
自分の好みで作った、ドライベリーのマフィンを持って部屋に行く。
今日は自分の部屋で編集作業が、彼の仕事だ。
軽くノックして、返事が返ってきたので彼女はそっとドアを開けた。
「今大丈夫ですか?」
「…えぇ、まぁ大丈夫ですけど…いい匂いしてますね」
「マフィンと珈琲、持って来ました。一息付けられたら、と思って」
「ありがとう」と小さく言う彼はそのお盆を手に取る。
「それで、ですね」
「?」
きょとんと見られて、彼女はちょっと口ごもった。
「こ、この間の欲しいもの、なんですが」
「…塩、しょうゆ、みりん、他こまごまとしたもの以外で」
切実な表情でそういわれ、彼女の方が目を丸くし、そして笑う。
「はい」
その笑みに、飛鳥も微笑み返してくれたのが、彼女に少しだけ勇気をくれた。
「パンミキサーが欲しいんですが」
「パンミキサー?」
えぇ、と頷いてから彼女は言う。
「買ってもらえたら、嬉しいです」
そしてまた笑った。
「こういうマフィンとか作るのに、便利なんですよ」
買ってもらえたら、ハート型のマフィンに挑戦しますから。
ハート型。
その言葉に嬉しくなって、彼女を抱き寄せて、額にキスする旦那さんがそこにいた。
「俺が一番にそれ食べますから、他の誰にもやっちゃいけませんよ」
子供のようなそんな言葉に彼女は小さく微笑んだ。
が。
その一番最初に作られた「ハート型のマフィン」は、遊びに来た高校生ズの内の一人、剣術使いに奪われることになるのはまた別の話になる。
「悪魔と踊れ」奥さんのフォロー。何気に「お砂糖」の続編。
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