「甘いもので12のお題」

7.ショコラ








珍しく、奥さんを怒らせた。

しかも本気で。





話しかけても、無表情で返してきて。

買い物に行くとしても俺に頼まなくて、どんなに遠くても自転車で行くし。

怒らせたのは、本当、俺が悪い。

それが判ることだから、余計にバツが悪い上に誰も助けてくれないと来た。

「今回ばかりは奥様にお味方します」

「…飛鳥様、俺は知りませんよ」

「自業自得じゃな、飛鳥」

「これを切欠に離縁するもよかろうぞ?」

おほほほと笑う白蛇に「誰がするか!」と言い切って。

さて困った。

いつもの喧嘩なら、お互い自分の非を認め合って、謝ったらすむことだったんだが。



俺が自分の命を悪魔との賭けに使った。

奥さんはそれを見ていて。

勝った事は勝った。そうじゃなきゃ生きていない。

だけど「飛鳥さん、自分の命、なんだと思ってるんです…?」と言ったその後拒絶された。

あの日以来、触れられない。

俺は頭をかきむしって、台所にたった。











信じられなかった。

血だらけになっても、笑ってる彼をどこかかっこいいと思ってる自分に自己嫌悪して。

落ち込んだけれども。

その後、彼は傷だらけになっていくのに、自分の命を賭けに使った。

ぎゅうっと胸が苦しくなった。

どうして簡単に自分の命を…っ。

確かに飛鳥さんは強い。

強いから、自分のことはどうでもいいのかな。

残されるあたしたちのことをどう思ってるんだろう?

愕然とする。

『残されたあたしたち』

この言葉に、震える。

いつか必ず彼に捨てられると思ってる癖して?

いや、あたしは…。

そう考えたら、どう接していいか判らなくなって、気がついたら彼とはあまり話さないようにしている。

ちょっと溜息をついた。

これじゃいけない、と思う。

思うが、しかし…。

「はぁ」と大きく溜息をついたら、ノックされた。

「はい」

そう返すと、そこにいたのは飛鳥さんだった。









台所に連れてくると、彼女の目の前に出来上がりたてのそれを出した。

「ガトーショコラ…?」

「ほら、前美味しそうだって言ってたから」

「え…と」

頂いていいんですか? という目で見られたので、俺は笑う。

…ようやく、笑えた。

「どうぞ」

そう言うと、ちょっと俺から目をそらして、そして「いただきます」と小さく言った。

スポンジにしみこんだ珈琲とブランデー。

ラム酒とチョコレートをまぜた生クリームが、彼女の怒りを解きますように。





「そ、その…別に、怒ってないですよ…」

「怒ってましたよ」

「そ、そのなんとなく顔を合わせずらくて…」

「???」

その後、少し言い合って。

なんとなく肩の力が抜けた俺たちは、二人でショコラをつつきあって。

お互いに食べさせあったりなんかして。

「これからはもう少し、自分の命は大事にしときます」

俺がそう言うと、ぎこちなく彼女は笑ってくれた。



とりあえず、これからも彼女を怒らせたらこの手を使ってみよう。



「あ〜ん」

「あ、あ〜ん」

彼女のフォークから食べさせてもらいながら、そう思った。<






「悪魔と踊れ」結局ばかっぷる。

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