英霊達と世界を歩けば

002 諦めてたまるか






「『小さき『子供』よ。人の子よ。汝は我等に捧げられた命ではあるが、すでに魂そのものが生まれた時より テウタテスムーン□ル・□ート□ンに捧げられていた。
その血肉を奪うことはたとえ同族である我等でさえも許されない。これは(テウタテス)聖誓ゲッシュである』」

(結局、ぼくを殺さないよって意味かな?)
「だいじょぶ。もっちぃ、まもる」

朝食…地霊や妖精たちが作った野菜とパンで作った、人間も普通に食べられる食事だ。…を分けてもらってから、ぼくが連れてこられたのは大きなホールだった。
この場所を支配している地霊や妖精たちは『ダヌー神族』と呼ばれている悪魔神様達だ。
真・女神転生系ゲームを知らない人間に説明すると、いわゆる西洋ファンタジーの住人達を想像してもらえばいい。
そんな彼らに今、ぼくは周囲を囲まれてホールの中央に立たされている。
目の前には少しおなかが目立つ悪魔神様が座って、ぼくに話しかけている。
彼が話す言語に、精神感応2テレパシーでわかる日本語の意味合いが被さって頭の中を流れる。
…っていうか、どうも二種類の言語を使ってるみたいで覚えようとしても訳が分からなくなってくるから、早々に精神感応2テレパシーを使わせてもらった。
テウタテスっていう神様の言葉にかぶさるように聞こえてくる言葉は、きっとムーンセル・オートマンていう名前なんだけど……ってムーンセルってこの世界の神様として存在してるのか。
わたしを転生させて ぼくに最終的にしてくれたのが、ムーンセル。
この世、全ての欲(尼僧はぼくの中から使える対価を選別し、ムーンセルに打ち込んだ存在のはずだけど…。
あぁ、けどこの世界に名前は違うけれどムーンセルは悪魔神様として存在してるってことで。
じゃあ、 この世全ての欲尼僧も存在してるのかな? それとも同一の存在だと思われてるのかな?
そんなことを考えながら、ぼくの反応を見ている悪魔神様に視線を向けた。

うん、ごめんね。
反応見ようとしても、ぼく、無表情だもんね。

自分でも今日自覚したんだが、ぼくの表情筋肉は仕事をしないのだ。
もっちぃが相手だとそうでもないけど、ほかの相手は無理。
もっちぃが何か言ったのか、それとももっちぃとぼくの様子に察したのかお世話をしてくれている地霊たちは何も言わない。
精神感応2テレパシーで相手に感情を伝えているときもあるかもしれないけれど、表情は一切動かないから判断付かない時があるだろう。
ぼくのそんな感情を受け取ったのか、その悪魔神様は大げさな仕草で肩をすくめて見せた。

「『しかし楽しき都(マグ・メルに入れる人間は勇者のみ。子供よ。汝は我らに勇者であることを示さねばならぬ』」
「『まだ子供であるのに、剣を握らせるか』」

そう発言したのはお世話をしてくれる地霊ドワーフ達の親分みたいな悪魔神様だ。
地霊ドワーフみたいな姿はしてないけれど。

「『そうだ。影の国にいる勇者コンラは7歳で父親と対峙したという』」
「『神の血を引きし勇者と人の子を同列に比較はできない!』」
『テウタテスムーン□ルに捧げられた魂を持つのだぞ? それに鋼の担い手としても彼はその槌を振れることを示さねばならぬであろう? エスス』」

要約すると、そんな会話が続けられていた。
エススと呼ばれた悪魔神様は鼻息を荒くしてぼくをかばってくれる。
彼はぼく達を最初に見つけてくれて、ぼくが金属を使ってしまったことに驚いてからいろいろと便宜を図ってくれている恩人の悪魔神様だ。
どうもぼくが作ってしまったその武器の存在自体が、彼にとっては「面白い」と言える逸品になってしまった模様。
あと、ぼくも勘違いをしていた。
「暴走して儀式を台無しにして、その結果に異界に来ちゃった」のではなくて「もともと儀式の術式が間違っていたから暴走」でさらに「ぼくの暴走」が追加された結果なんだと、悪魔神様達は言っている。
ついでに言えば失敗してここの悪魔神様は「ラッキー」と思ってもいる。
で、金属を勝手に使ったことは確かに面白くないことだったんだけど、エスス神がそれ見て「面白い」と感じてくれたそうだ。
あと、何よりもただの人の子のぼくが。暴走したとはいえその特殊な金属を作って武器を作れたことに「将来性がある」とも考えてくれた。
そんなようなことを仰々しい言葉で教えてくれる。

「『かの≪槍≫をここに!』」
小さく悪態のような言葉を吐いてから、エスス神がそう告げると地霊たちが透明のケースに入れて、ぼくが作ってしまった≪槍≫を持ってきた。
長くて今のぼくは持てないようなそんな長さのそれ。
真っ黒で重そう。

「『≪槍≫には悪魔意志が宿っている。それはお前も知っていよう』」

うん。とぼくが頷くとエスス神がそれに手を伸ばす。
わたしの知識から ぼく技能スキルは把握できる。
ぼくの持ってる技能スキル:魔晶合体は、専用の金属や武器と悪魔カードの魂を合体させる。
その悪魔の持っている技能スキルや能力で武器は変化して力を持つ…はずだ。
対価コストを支払えば、誰でも使える武器・防具。

ばちぃん!

派手な音を立ててエスス神の手がはじかれる。
あれ?
ぼくは瞬きを繰り返して≪槍≫を見つめた。
そんな機能がつくの?
ぼく、知らないんだけど。
相手が神様だから?

「『≪槍≫は担い手を自身で選ぶようだ。子供よ、その手を伸ばせ』」

ぼくは言われたとおりに、手を伸ばした。
その瞬間。

ぱちん

!」

もっちぃがぼくの代わりに驚いてくれた。
エスス神のときとは違って、やんわりとだけどやっぱりはじかれた。
あれ? でもこの≪槍≫ぼくが作ったよね?
製作者は無条件にその武器を使えるんじゃないの?
ぼくが わたしの知識の中から何か情報を引き出そうとしているのに、当たり前だけれど気が付かずに「ふむ、ふむ、ふむ」と大きな悪魔神様は少しだけ考えてからこう言い出した。

「『子供よ。おぬしはこの≪槍≫に触れられる力量レベルを持っていることを示さねばならぬ』」

え。
思考が停止した。

「『我らから、そして≪槍≫からの試練と思うがよい』」

そう言うとその大きな悪魔神様は、言葉を切ってこちらの出方を見るように見下ろしてくる。

「『子供よ。幼いお前はこれから自身の存在と強さを世界に示していかなくてはいけない。それは、人の身でありながら異界に訪れてしまった者の宿命である。
幼さだけで許されることは少なく、無知では赦されず、無力だけでいられるほど人間という種にとって優しい世界ではない。
ここは、我々の世界。かつて神であるとされた悪魔たちの生きる世界なのだ』」
「『…子供よ。お前はこの≪槍≫を作るという資格を見せた。ゆえに我は汝に生きる時間と機会を与えたいと思う。
幸いにして汝は言葉を話せずとも意思を伝える術を持っている』」

もっちぃが抗議する様にうにょんうにょん飛び跳ねる。

「『近年、我らのこの世界に異様なマグネタイト生体磁気が流入してきている。おかげで強者になる者もいるが、逆に異界に不要な負をもたらす存在も出て来た。
子供よ。お前はそれらを討伐し、力を我らとこの異界に示すのだ』」

つまりはその存在を、殺せってことだよね?

そんな感情の波を、なんとか自分の中だけに押しとどめた。
ここでいやだいやだと泣き叫んでも、この存在達は許してくれない。
それはすぐに予想できる。
ぼくは子供で、人間で、きっと彼らよりも弱い。
もっちぃが助けてくれても、歯向かってもいいことは一つもないのが目に見えている。
…人の形とか、してなければなんとなくいけるかもしれない。
そう、思い込むことにしよう。
あと、マグネタイト。
マグネタイトっていうのは、 わたしの知識でよく知ってる。
もっちぃの言葉にもよく出てくるし。
解りやすく考えれば『気』とか、生命エネルギーの総称のことだけど、人間の感情や存在からそれはたくさん作られるんだそうだ。
悪魔神様によっては好むマグネタイト生体磁気が違ってて、彼らはマグネタイト生体磁気に惹かれて人間社会に行く。
自力でためて人間社会に出てしまうのもいれば、人間に集めさせて貢がせて得るっていうのもしてる。それが悪魔召喚の儀式なんだと思う。
…正直なところ わたしの知識とぼくの感覚で結論を出すとマグネタイト生体磁気悪魔神様たちの肉体を構成して出現させることのできるエネルギー。
だから、彼らを倒したらそのエネルギーは倒した存在に吸収されて、より強い存在となることができる=『経験値』なんじゃないかな?
異様な、とか言ってるけれど増えたら増えたで悪魔神様達には嬉しいことなんじゃないの?
ぼくの疑問の感情はそのまま彼らに伝えたのだけれど、 受け止めている悪魔神様達はそれには答えない。
後でわかるってことなのかな?
ぼくは足元で抗議の為にぷにょんぷにょん飛び跳ねてるもっちぃを見た。
もっちぃはぼくの視線に気が付いて、飛ぶのをやめてぐるんとその場で一回転する。
目の部分も顔の部分もわからない、透明でぼくの家族な悪魔神様)はちゃんとぼくの言葉を待っていてくれる。
前世のときからかつて夢見て思い描いた 現世の人生もまだきちんと歩んでさえもいないのに、何もかも諦めてたまるか

(もっちぃ、一緒に頑張ってくれる?)
「もっちぃはいつだってのみかた」

即答に、気分が素直に少しだけ上昇した。
何かの命を奪うっていうのは嫌だけど、それでも一人じゃない。

(具体的にどうすればいいのかわからないので、ちゃんと教えてくれますか?)

戦い方を、闘い方を、何かを壊す方法を、何かを倒す方法を…できれば命を奪う方法ではなくて。

精神感応2言葉に感情の波を乗せると、彼らはひどく嬉しそうに笑った。
…そんなに嬉しそうなのは、なんでかな。
こんな子供が戦ったどころで、早々異界の「負のマグネタイト」が一掃できるわけでもないのに何を期待してるんだろうか。

「『子供よ。幼子よ。まだ戦の作法も知らぬお前の手助けとなる者を用意してある。 それに、お前には我ら悪魔神様にもない力があるだろう。それを磨いて武器とせよ』」

何事か文句を言いながら―あいにくと、こちらの言葉は解らない。―現れたのは青い服を着て黒メガネをかけたおじいさんだった。
どこかで見かけたような風体のおじいさんだ。 すぐに わたしの知識が「邪教の館の主」っていう言葉を吐き出してくる。
わたしが知っているゲームの知識の中では、非常に役に立ったノンプレイヤーキャラ。
…ぼくからしてみたら、キャラクターではなくて人物なのだけれど…知識通りの人なんだろうか?
ぼくが小さく首をかしげると、おほん、とわざとらしい咳払いをしてこう言った。

「儂は…そうじゃの。カスバド、と名乗ろうか」

日本語!
もっちぃ以外の日本語を、この異界で聞くのは初めてだったのでぼくはまじまじと見つめてしまう。

。このニンゲンはいいニンゲン」
(もっちぃ、知ってる人?)
「ここであったニンゲン。もっちぃ、ここでしったヒト」

カスバドさんはぼくらの言葉の会話…耳にしているのはもっちぃの声だけだと思うけれど…に面白そうに眼鏡を少しだけずらしてぼくらを見つめてから、それからわざとらしく眼鏡をかけなおした。

「モチマル殿とは何度か話をさせてもらっているよ。なかなか興味深いお方だからの」

そうなんだ。
もっちぃがいい人っていうなら、本当にいい人なのかも。
もっちぃに技能スキルをかけていいか聞いてもらって了承してもらってから 精神感応2テレパシーの対象にして意思を疎通できるようにした。

(はじめまして。ぼく、といいます)
「おぉ、はじめまして。さっそくじゃが、くん。モチマル殿と一緒に儂のところに来てくれるかの? いろいろと打ち合わせをしておきたい」
(すぐに?)
「そうさの。すぐになるかの」
(…お世話になったドワーフさんたちに挨拶してきてもいいですか?)

カスバドさんは大きく頷いてくれた。
エスス神に頭を下げると、頭をなでてくれる。

「『奴のところに腕のいい魔匠鍛冶師もいる。そこで≪槍≫の管理もさせよう。よく学び、強くなれ。子供よ。≪槍≫に認められよ』」
(…はい)

ぼくの返事に気を良くして、エスス神が腕を振り上げる。
おぉおおおーっと地霊ドワーフさん達が声を上げてくれた。
あぁ、彼らもこのホールに来てたんだ。
ぼくは(お世話になりました)という感謝を込めながら頭を下げると雰囲気で好意のあるとわかる声援が返ってきた。
数日間…一週間も満たないけど!…お世話になっていたから、ほんの少し寂しい。

「『今生の別れでもない』」
(はい)

エスス神の言葉にまた頷いて、ぼくともっちぃはカスバドさんを見上げた。

「では、移動しようかの」

カスバドさんのしわくちゃの手がぼくの頭に乗った。
もっちぃがその柔らかい身体でぼくの身体に優しく巻きついてきたので抱き止めると、周囲の光景が一変する。
洞窟内の空気じゃない、からりとした空気だ。
ごうん、ごうんと何か動いている音が聞こえてくる。
操舵室、というのだろうか?
わたしのときでも見たことがない場所にぼくともっちぃは立っていた。
瞬間移動?
ぼくがカスバドさんを見上げると、ふふんとなぜか得意げに彼は笑って見せる。
「研究一辺倒の儂も、この手の魔術は使えるのじゃよ」と得意げな様子だ。

「適当な場所にお坐りなさい。戦う力を自覚する前に、君たちには知識が必要だ」
(はい)

反射的に返事をして、言われるままに適当に座る。
もっちぃはすぐに身体から離れると、ぼくの足元にぴたりとついて話を聞く体制を整える。
ぼく達の様子に笑みを一度深くしてから、カスバドさんは口を開いた。

「ようこそ、邪教の館へ。ここは人類と悪魔が生み出してしまった禁断の智慧が生きる場所。悪魔の世界…異界、魔界上において唯一人間の理が支配している場所。
もっちぃ殿、くんが生きたこの異界・楽しき都(マグ・メルはもともとどんな異界で、そして現状どうなっているかを教えたいと思う」

カスバドさんの言葉にあの大きな悪魔神様の言葉がかぶって思い出された。

幼さだけで許されることは少なく、無知では赦されず、無力だけでいられるほど人間という種にとって優しい世界ではない。

学んでいこう。
わからないことはわからないと叫ぼう。
わたしのときにはそれすら考えにも及ばなかったけれど、今は違う。



ぼくはこうして、異界で人生の一歩をきちんと自分で歩みだした。

 


※ステータスが公開されました。
※常時更新しています。
※一部技能スキルに関する装備を選択していません。選択後、ステータスに反映されます。
※仲魔(仲間)のステータスは「アナライズ」もしくは自己申告しないと公開されません。



) 6歳 Lv5 (EXP125/NEXT216)
職 種クラス多重能力者デュアルスキル魔匠スミス職種様式クラス・スタイル:魔法(霊能)→魔晶
HP:56 MP:56 命運:8 所持金:250マッカ
○力 :11   魔:23   体:9   速:11  運:21
○判定:60%  :120%   :50%    :60%  :110%
○威力:格闘/16+1d10 魔法/28+1d10 射撃/11+1d10  イニシアチィブ 8+1d10
○回避:21% 会話:62% 
背景:サバイバル               :不在
コネ  :トレジャーハンター(個人)Lv1(15)  ムーンセル・オートマンLv1(15)
追加 :トレジャーハンター(団体)Lv1(15)  叔父(父方)Lv1(15),モチマルLv1(10),英語Lv0(2),生存技術Lv0(3)
NEW!:異界・楽しき都マグ・メル地霊(ドワーフ Lv2(20),エスス神Lv2(20),ケルト(アイルランド)語Lv1(10),古代ガリア語Lv1(10),
     :邪教の館の主Lv0(8)
関係:モチマル(もっちぃ) 家族(固定。変化することはありません)
○装備:通常の衣類しか身に着けていません。

技能スキル
物理攻撃:愛用の武器(選択されていません),
魔法攻撃: サイコキネシスメタルベンディング発火能力アギ・乱舞
魔法防御:小治癒セルフ・ヒーリング
支援攻撃:縮地ショート・テレポート幸運ラック,カバー
支援魔法:呪縛の祈りマインド・ブラスト
情報収集:精神感応2テレパシー蛇の道は蛇サイコメトリー
他:インプラント,魔晶合体,封印カード・ハント飛天符レビテーション 飛行セルフ・レビテート

状態:失声症



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