英霊達と世界を歩けば

001 苦情は受け付けません。





あなたの欲望を叶えましょう。
あなたの願望を叶えましょう。
あなたからの呪詛祝福を必ず相手に与えましょう。
あなたがこれから生きる世界は、かつての世界よりもある意味過酷で残忍でもあるでしょうが、その世界の海を己の意志で航海する力を得ています。
ムーンセルに示されたあなたの意志力欲 望と条件を満たしたことで、あなたはこの世界での希少生命体と変貌しました。
ただ、その力はまだ原石です。力は鍛えなければ、それで終わり。
かつての世界のように踏みにじられるか、利用されるか、蹂躙されたままでいられるかはあなた次第。
あぁ、苦情は受け付けません。あなたがその世界で得た力はすべてあなたの心の奥底から拾い出した、あなたが望む力も含まれているのですから。
その力と、あなたの意志力で頑張って生きてください。
それこそがあなたが示した欲望の全ての原点。
この世全ての欲わたくしはいつでもムーンセルで見守っていますよ。

技能クラスを取得する条件を複数所持を確認。
技能クラス同時取得及び育成を可能処理。
技能クラスによって転生後の年齢の引き上げと記憶保護を開始。
記憶の混乱と成長過程の記録の為、転生直後の年齢を低年齢に設定。
習得特技スキルの改変を受理。
情報ログ公開,個人情報をコマンド出現に設定。
かつてと呼ばれた魂を「世界」に誕生させます。


誕生日、おめでとうハッピー・バースデー



――ストーン・サークルと血走った眼をした男
――満月と振り上げられるナイフの銀に目を奪われた。
――痛みと悲鳴と血。
――炎。
――光り輝く…。


【ここ】どこ?
暗闇の中で目を覚ましたぼくわたしは、その中で瞬きを繰り返した。
記憶が相当混乱しているのを自覚する。
深呼吸して落ち着いてから、もう一度ゆっくりと瞬きをした。
あぁ、そうだ。もう『 わたし』の身体はない。
もう『 ぼく』となってしまったから。
でも わたしの全てが消えてしまったわけじゃない。
ちゃんと ぼくの中に憎悪、憤怒・欠片として愛情と、そして ぼくが生きる世界の大半の情報や記憶が残っている。
わたしとしての状態はこれでいいけれど、今の ぼくはどうしてこうなってる?
ゆっくり身体を起こした。
…あぁ、そうだ。【ここ】には電気はいっさいないんだった。
そこまですぐに思い出すけれど、どうも記憶が混乱している。
原因は わたしの記憶が ぼくの中で開花してしまったから。
あるいは覚醒? いやそれは違うだろう。 
そこまで考えて起き上がる。
濃厚な自然の気配。
洞窟特有の湿気も肌寒さもない。
もう一度だけ深呼吸をすると、頭の中と目の前にゲームのコマンド画面のようなものが出現する。
これは ぼくにしか見えないモノだということは見た瞬間に理解する。



) 6歳 Lv5
HP:56 MP:56 命運:9
職 種クラス多重能力者デュアルスキル魔匠スミス
技能スキルサイコキネシスメタルベンディング発火能力アギ・乱舞精神感応2テレパシー飛行セルフ・レビテート蛇の道は蛇サイコメトリー小治癒セルフ・ヒーリング飛天符レビテーション), 縮地ショート・テレポート幸運ラック呪縛の祈りマインド・ブラスト,愛用の武器(-),カバー,
インプラント,魔晶合体,封印カード・ハント
状態:失声症



ずらずらと出てくる自分の情報とともに【ここ】にいる経緯も含めた過去が流れ込んでくる。
正確には「きちんと思い出した」ってことだ。
ぼくの名前に苗字がないのは、両親二人ともが「 ぼくは要らない」と宣言したのが切欠だ。
そしてその後、外国の遠縁に養子縁組をしようかというときに【騒動】に巻き込まれてしまい、きちんと法的な措置を取らなくて。
本当は便宜上、苗字はあるのだけれど【ここ】に来てしまった時のことが衝撃的で、同じ親戚に対する拒絶と絶望に自分で否定してしまったので苗字が自分の中から消滅した。
…まぁ子供の ぼくの感情や経験だけならここまでちゃんと把握はできない。
わたしの感覚や記憶で事実を把握したらそうなった。
ぼくとしては理不尽なのだけれど、口さがない第三者から聞いた話を総合すると父親が ぼくの身体的特徴を上げて「自分の子供ではない」と言い出し、その流れで両親がぶつかったそうだ。
DNA検査して親子と認められたけれど、意地になった父親は態度を硬化。
もともとは父親の血筋からなる特徴なのに、父親自身が否定したってことで母親側がブチ切れ。
そうして成長していったぼくは男の子だから、父親に似るのではないか。というのと、大本の原因であるので、まだ若い母は拒絶したってこと。


小さく息を吐き出す。


両親に「要らない」宣言された ぼくは親戚の叔父(父の弟)に連れられて外国で生活していた。
トレジャーハンターをやってる叔父は、仕事の合間に ぼくに構ってくれるだけで、あとは金を支払ってナニーを雇ったり、あるいはハンター仲間に ぼくを預けたりして面倒を見てくれていたと思う。
子供好きとは言えなさそうな外国人の男たちが、気を使っていろいろと子供にできることを教えてくれたのは素直に嬉しかった。
片言の英語だったけれど、彼らは気にしなかったから。
本当なら落ち着いて保育園か幼稚園に入れられるところだったのだけれど、 ぼくの養育の件で祖父母(両親の親)や親戚の間で諍いが起き始めたのでそれは必要な措置だったんじゃないのかな、とは思う。
ぼくのことを考えるなら、とっととそれなりの施設に入れてしまって養子に出せばいいのだが、父方の家がそれなりに古い一族だったらしいのでそれは却下され、一族内での養子縁組先を探すのに手間がかかった模様。
で、ようやく見つけた養子先の養父母の親類―その人物と ぼくはなんの血のつながりもない―がカルト宗教にはまっていて、その儀式の生贄に ぼくが選ばれてしまった。
こうしてゆっくりと考えてみれば、もしかしたら叔父はその人物のことをよく知らなかったのかもしれない。
けれど知っていたのかもしれない。
そのあたりの事情は知らない。
わたしとしての知識や感情からはもわからないし、子供の意識だけだった ぼくなんて、何がなにやらさっぱりわからない。
だって子供の ぼくに選択権は与えられかったし。
ぼくとしての現実を受け止めるしかなかったし。
叔父の姿を覚えているのは、笑顔で ぼくを受け渡したこと。そうして、振り返りもせずに去って行ったこと。
そしてその次の日の夜には儀式が決行されたこと。
ぼくとしては半ば殺されかけた時に、(たぶん、元から持っていた)超能力を覚醒させて暴発。
儀式に触発されて出現してしまった【何か】を、傍にあった金属に入れて同化させてしまった。
暴走はそれだけにおさまらなくて、 ぼくは自分が生きていた世界とは違う世界に入り込んでしまった。
その儀式自体が結構大規模で、使われていたエネルギーが半端じゃなかったから、こうしたことが起きたんだっていうのは【ここ】で教えてもらった。

ついでに言えば、そのことが引き起こした例外はこれだけに収まらないんだけど…うん…この世界、 わたしが現実・現代社会でさんざんやりこんだゲーム世界に酷似してる。
思い返したり、自分の前にあるコマンド画面の文字を見て、今ようやく思い出した。
【ここ】の情報はあいにくとそのゲームの中にはなかったけれど、住人の大半はそこに出てたし…。
あぁ閑話休題それはさておき

はじきだされた【ここ】でも ぼくは今のところ軟禁状態。
傍にあった金属っていうのが、儀式の要に捧げられた ぼくと同じ贄の役割を持っていて、 それを ぼくが勝手に使ってしまったということに、【ここ】のかなりおえらいさんが怒っているらしい。その武器自体は取り上げられて、今は手元にない。
なので ぼくは【ここ】の人たちが ぼくをどうするのか、判断待ち状態。
…こうして客観的に ぼくの境遇を考えると、持っている技能スキルの中に幸運ラック があるが「そんなの関係ねぇ!」とばかりの不幸の連続か。
わたしに負けず劣らずな不幸っぷり。
まぁ幸運ラック自体が、かならずも人生における幸運を示しているわけじゃないけど。
コマンド画面に描かれている「失声症」の方は、叔父や大人たちに裏切られて殺されかけた精神的なものなんだろうなと自分で推測する。
もう少し境遇的にどうにかならなかったのかな、と わたしを転生させた存在に一言言いたい気もけれど、言葉が出なくても意思疎通の手段を持っているから我慢できる。




よし、記憶の統合も覚悟も完了。
わたし ぼくも、『ぼく』として生きていける。



くわぁ、と大きく欠伸をすると目の前のコマンド画面がぶれて消えた。
それでも脳内にコマンド画面は常に展開されている。
ごしごしと瞼をこすった。
今何時かどうかも【ここ】には時計がないから解らない。
けれど、そんなにも遅くもないはずだ。
ぼくは、かぶっていたキルトを畳んで足元の方に置いておいた。
ぷにん、と不思議な感覚がぼくの足に触る。

「おはよ、

無色透明なそのぷにぷにが、ぼくの腰から下にじゃれついてくる。
ぼくは技能スキルを反射的に選択していた。

技能スキル発動:精神感応2テレパシー

(おはよう、もっちぃ)

ぷにぷにした身体をしているし、正直どこか目でどこが顔かわからない彼…たぶん、だ。その性別がちゃんとどうなのかは知らない…はぼくの精神感応2テレパシーを受け止めるとぷるん、と揺らした。
精神感応2テレパシーはぼくの伝えたいことを相手に送ったり、相手の思考を読み取ったりする技能スキルだ。
一回使うと、その日数時間は対象相手と頭の中で会話できる。
声を失っているぼくとっては、ものすごくありがたい。
感情や思考をダイレクトに伝えるから、言語の壁もない。少なくとも ぼくはその手の事で困ったことはなかった。
彼は大きなゼリー状の球体で、動物でも人間でもない。
【悪魔】
そう呼称される生命体。

名前はモチマル。
愛称もっちぃ。

ぼくがつけた。
お餅みたいにやわらかい身体をしているのと、たいてい丸っこくなってるから「モチマル」だ。
安易な名前だったけれど、本人が「それ、いい」と言ってくれたのでそうなった。
勿論、この「いい」が「要らない」という意味合いじゃないことはちゃんと確認してある。
もっちぃは最初は赤ん坊の ぼくに憑りついた悪霊だったそうだ。
ぼくが悪い、というわけではなくて両親のどちらかを恨む人間の感情の行き先にぼくがいた。
ぼくの不幸ってそういうところからきてるの? と思ったのは内緒。
それに引かれる形で憑りついてたんだけど、ぼくが持ってるエネルギーがあんまり良かったので悪さをして体調でも崩してエネルギーの質が悪くなっても嫌だから、陰ながら ぼくを守るようになったそうだ。
そう片言の日本語で教えてくれたのは、つい昨日の事。
それって悪霊じゃなくて守護霊なんじゃないの? と今では思う。
初めて彼を見たとき、 ぼくの感情は凍り付いて、驚きも泣きもしなかった。
ただ彼の片言の言葉を聞いて、その固まった感情が一気に砕けたのは覚えてる。
親にも家族と思っていた叔父にも見捨てられた(と、思ってる) ぼくを、ずっと見捨てず一緒にいてくれる存在がいたんだと感動して彼に名前を付けていた。
最初はもっと小さかったのだけれど、 ぼくが暴走した儀式の余波を食らって死にかけた時に、同じように余波を食らって先に死んでしまった悪魔の魂の欠片を吸収してこの姿になったらしい。
もっとも大きさ自体はいろいろ変えられるみたいだ。
もっちぃはひとしきり、ぼくの身体にじゃれついてから数回飛び跳ねた。
ぷにゃん、ぷにゃんっていう音が聞こえてきそうだ。

「きがえたら、あさごはん」
(うん)

着の身着のままでずっと軟禁されてるわけじゃない。
ぼくは寝間着代わりに着ていたぶかぶかのTシャツのような服を脱いで枕元に置くと、用意しておいた自分の服に着替える。
Tシャツはちゃんと畳んだ。
もっちぃはぼくがちゃんと着替えられたか確認すると、先導する様動き出したのでぼくもそれに続く。
ぼくは使わせてもらっている場所は、一番小さな穴だ。
そこから出るとすぐに大きな空間が待っていて、熱気が漂っている。
ここは24時間、ずっと地霊たちがハンマーをふるって何かしらの武器を延々と作り続けている。
そんな場所だ。

「Dia duit ar maidin.」おはよう
(じあ ぐち ある まぁじん)おはようございます


咄嗟にまた技能スキル)を発動させて挨拶をかわすと、相手は片手を上げてくれる。
子供のぼくと同じぐらいか、ほんの少し身長が高いだけなんだけれど子供ではもちろんない。
横幅は広く、腕なんか筋肉の塊だ。
赤銅色の肌と長いひげが特徴のドワーフと呼ばれる地霊たちが、笑いかけてくれる。
言葉の意味合いは技能スキル)をでわかって来たので、あえて【ここ】の言葉で返すと、それを真似て周りの地霊たちが挨拶してくれた。

【ここ】は魔界と人間世界の間にある、異界。
異界としての名称は常若の国で、一つの大きな島国そのものぐらいの広さがあっていくつかの妖精の丘が存在する場所。
住んでいる人間は非常に少なくて、いるのはかつて神様だった妖精、地霊たち。
妖精とか地霊っていうのは【悪魔】の種族名みたいなもの。
天使も神様でさえも、いっしょくたに【悪魔】って呼んでいるのが基本。
…ゲームでさんざんお世話になった存在が、ぼくの目の前で息遣いをしているのがすごい、というか感動するんだけど…これって現実だからきっと慣れていくんだろうなぁ。

今、ぼくが生きているのは【真・女神転生】の世界。
【悪魔】と呼ばれる存在と人間が入り混じったオカルトやファンタジーが、裏社会にも浸透してい世界だ。


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