修正前

あぁ、これが走馬灯かとふと我に返ったように思った。


(あぁ、これが走馬灯か)とふと我に返ったように思った。
何度も死んで何度も転生したはずなのだが〔生死の境目の空間での記憶〕という経験は、これで二度目。
だがその上で自分の人生を自分で振り返ることなど初めてだ。
強制的に思い出されて憎悪と嫌悪を噴き上げた一度目とは違い、なんとも不思議な感覚だ。
ゆらゆらと落ちていく感覚そのままに、自分の周囲には今まで見てきた光景や人物たちの映像が周囲を舞う。
星空の空間をゆっくりと落ちながら、わたしは他人事のようにそれを見つめていた。
映像の一つが、わたしの指先に触れた。音もなしに指が空間に溶けていく。
その代わりに映像が…記憶がその場で蘇った。

わたしを悪魔の住処である〔異界〕に放り込んだのはほんの少し年上の親戚筋の子供達だ。
金髪碧眼。
日本人にはまず見ない色彩であり、そのせいで生まれた頃に問題を起こした珍しい『わたし』という存在を持て 余す大人たちを見てきた子供たちにとって、わたしは「何をしても許される存在」までになってしまったらしい。
親族の大半が人外を倒す側の立場であるので、この〔異界〕のことは子供でも知っていた。
濃厚な空気とその風景に懐かしさ半分、今の自分の 力量 レベル(Lv) とこの〔異界〕のボスのそれとの差を感じて吐き気がしている。
一気に吸い込んだ人外達の懐かしい気配のおかげで〔前世〕を思い出したが、それでも勝てる気がしない。
なんせ子供の割に身体が大きくても、所詮は小学生の体力と腕力なのだ。
素手ではどうしようもない、と思っていた時に無造作に転がっていた〔それ〕と出会った。

ボロボロの日本刀。
打刀に分類される〔それ〕。

わたしは今生で初めて、自分の〔異能〕を発現させた。

すまないが、使われてくれ 特殊:物霊修復

言の葉に乗せながらのその〔 異能 ちから 〕を使う。
この〔異能〕は前世で人外に開発されてしまった〔超能力〕だ。
 霊力とも言うべき「魂の力 命運 」を物質と同化させ、その物質を問答無用に修復する。
わたしの〔異能〕にはこの手のモノを霊子分解させて体内か、あるいは精神内に収納することもできるのもあるのだ。
…強制的に目覚めさせられた能力だが、便利と言えば便利だろう。
〔魂の履歴〕を思い出したおかげで、自分が〔霊力無尽蔵〕だったことも刀剣類の類ならなんとか使えることも思い出した。
日本刀だから、これは使えないか?

名前を教えてくれ 特殊:物霊解析

名刀の名前と、その後に続く分類の「日本刀/刀剣」と書かれた情報に、瞬きを繰り返した。
立派な名前に驚きもしたが、何よりこの日本刀を武器として扱えることの幸運の方が大きかった。
わたしは内心の安堵に大きく息を吐き出して、人外の巣穴奥に足を進めることにした。
どのみち、ここから出るにはここを支配している者に許可を得なければならないのだ。




海外に出るようになったのは、後見人の影響もあるが日本で事件に巻き込まれた外国人を助けたことが切欠だ。
長い休みや救援要請があったら日本を飛び出している。
中学時代になにも言われなかったのは、わたしの学業の成績が常にトップクラスだったから。
高校に入学してからは成績以外も進学(わたしは大学受験するつもりだ)に影響があるだろうと控えていたが、それでも外国に行くことはやめなかった。

「このまんまじゃ両方とも 屍鬼 ゾンビ 切に改名しなくちゃならなくなる」

斬り伏せた悪魔を見下ろし、思わず呟いた時に居たのも日本ではなかった。
最終的に堕天使を斬り伏せて、内心安堵していたのは仲間には内緒だ。
他にもいろいろな場所に行った。
日本以外の仲間はその戦いの中で作っていった。
そうして今、嫌な事件に巻き込まれたのだ。
トレジャーハントに悪魔の影がちらつくのは、この業界では当たり前のようだ。
だが魔王の復活なんてのはなかった。
対峙したことがあるのは今のわたしになる以前だったし、正直封印を確認したら即逃走することを約束させたのに。

なのに。

その場所には描かれた魔法陣が起動している。
吹き出す生体マグネタイトを喰らいながら、その存在が姿を形成しかけている。

(詰んだ)

冷静にわたしの思考はそう判断していた。
なのに口は封印する手立てがかろうじて残っているから、それを使って再封印しろと告げている。
もはや愛刀、何度も悪魔を斬り伏せた二振りを出現させる。
異界と現実世界で交流を持った剣豪たちに身につけさせられたおかげで、二刀流だ。
空間がゆがみ、余波のマグネタイトで眷属たちが出現しかかっているのを見て気合を入れ直す。
振るえているのは誤魔化せたはずだと、そう己に言い聞かせた。
仲間に封印作業をしてもらうためには、あの魔王をこの場にとどめて、ついでに封印の向こう側に押し込める存在がいなくてはならない。
今まで相手にしていた天使や堕天使なんか目じゃない。

今世で初めて入った異界の時よりも、 力量 レベル 差がありすぎて、涙も出ない。

これまでの経験と、人外達や人間たちとの再会で得た異能の中には高位悪魔になった知己を呼べる「大いなる 守護神 ガーディアン 」という異能がある。
正直、誰が来るか解らないが、呼べばなんとか生き残れるかもしれない。
数柱、考えられるが、この場の支配権上で魔王に軍配が上がるだろう。
代償として俺だけ魔界に逃れ、この場が魔界になって人間社会終了のお知らせになる。
一番やばいが、一番悪魔的にも負けはしないのもいるが、その場合、本末転倒でそいつが魔界化させてしまうだろう。

結論、どっちにしても無理。
現状打破は己の力でするしかない。
しかも逃走できない。
ここで止めないと一気にこの区域が魔界化してハルマゲドン待ったなし状態だ。
冗談ではない。
0.1%でも止められるのであれば止めないと。

(〔 軽 功 けいこう 〕、〔 硬気功 こうきこう 〕)

気が付けば覚えた…異界の住人身をもって叩き込まれた技術も言う…気功法で自分自身の能力を底上げしていた。
それでも勝てる気は正直しない。

出現してくる魔王と目が合った。
嗤ってる。
もう一度、思う。

(詰んだ)

そう思ったのに、わたしは仲間に檄を飛ばしていた。

Move 動け !」

刀で襲い掛かってくる魔王の手眷属を切り払いながら、心で全く違うことを叫んでいた。

すまん、わたしの 愛用の武器 刀剣たち
わたしと一緒に 死んで 折れて くれ。




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