修正前

やれ、口惜しや。と女の声が耳に届く。


やれ、口惜しや。と女の声が耳に届く。

その言葉に瞼を押し上げる。
かろうじて人の姿をした男女が、わたしを挟んで対峙しているのを感じ取った。
もっとも今のわたしにはどうしようもない。
もう首から下がない上に、右眼辺りも完全に溶けきってしまっている。

「ようやっと…………で…………の……ができたというのに」
「そなたが、なに…思うて、この……を………だした…のか」

全く会話が理解できないが、雰囲気的に男女の 神様 悪魔 だと解る彼らは、言い争いまでは行かないが対峙しているその雰囲気はあまりいい物ではないのが伝わってくる。

「あぁ、もはやこれまでであろうか」
「あぁ、もはやこれまでであろうよ」

打って響くその声の主たちは、わたしの顔を覗き込んでいる。
空気というか雰囲気が柔らかくなり、暖かくなったような気がした。
なのにその表情が解らない。
魂の消滅間際になって出現した、この 二柱 ふたり の存在をわたしは今まで感じたことはなかった。
なんというか、ここまで人外たちと付き合っていたというのにまだわからなこともあるのだ。
…そういえば、わたしが拾ったあの六振りの刀剣達に関しても同じことを言えるだろう。
調べれば調べるほど不思議な名刀たち。

結局のところ、あの六振りはなんだったのか。

悪魔であったのかモノであったのか、自己意識は育っていたのか。
その一切は解らない。
でも、もういいか。
だんだんどうでもよくなってきた。
瞼を閉じる。

「……っ!」

最終的にあの魔王は仲間たちの尽力と、刀剣のおかげで封印の中に押し込めることができた。
槍で押し込めるときに、最後のあがきで攻撃されたがそれらを精神内に収納しきってた他の刀たちが勝手に出てきて刀身で受け流してくれたのはありがたかった。

「あ…じ…っ!」

わたしはかろうじて再封印の場に立ち会えたが、その直後に人間に襲撃された。
槍からも手を離れ、床に転がっているはずの刀たちにも手を伸ばせることもなかった。
もう右眼辺りは完璧に溶けた。
残っているのは頭部。
その左半分の顔に、女の方が手を添えてくる。

「…と…に、もどるか?」

はっきりと聞き取れないが、何か言われた気がするのでまた瞼を押し開けた。
濁った視界の中に女が映る。

「もどればよい。そうしてまた…」

もどるか?
    何に? どこに? という疑問は吸い込まれる。
もどるか。
    そうだな、と女の温度に納得する。
戻ろうか。

首元まで消えたわたしは唇を動かしてそう呟こうとしたその時だった。

「あるじ!」

男女の声ではない、全くの第三者の声。
残った左眼を向けると、上から降りてくる人影が見えた。
それは一つではなかった。
左耳は六人分の声を拾ってる。
「戻る」寸前になって、なんでまたこんな声を聞くのか。
わたしは上を見上げた。
遠く離れているのに、その表情は良く見えた。
全員が蒼褪めながら、わたしに手を伸ばそうとしている。
無理だ、来ないほうがいい。
不思議なことに彼らを見てそう思った。
黒い空間に溶け込むわたしと違って、彼らは光に満ちている。
その姿をした人間を、わたしは見たことはなかった。
軍服じみた印象を受ける半ズボンの子供が二人。
襤褸布を肩にひっかけた金髪碧眼の男に、やけに身長の高い茶髪の男。
カソックに似た服を着こなしている男と顔に大きな傷を持つ、金目の男。
合計六人の姿がぶれて一つの影をつくり、わたしに手を伸ばしている。
どれもこれも必死な形相だが、あいにくと見たことはない。
記憶にないその姿に、何かしらひっかかりを感じてわたしは彼らを見つめた。

「主さま!!」
「大将…っ諦めないでくれよ!」
「このっ、あと少しなんだ…!」
「逝くな、逝くなよ…!」
「主、貴方はまだ生きておられるのです!」
「ふざけんじゃねぇぞ! こんな最後は認めねぇからな!!」

落下速度が止まった気がした。
空間に溶けていたわたしの身体がまるで巻き戻されていくかのように戻ってくる。

「これまでではないようだ」
「しかし、もうこの魂はわたくしだけのものでもなくなった」
「そうだが、わたしのものでもなくなった」
「それはよいことなのか」
「それはよいことでも、あしきことでもあろうよ」

男女の声をBGMに肉体の再生は加速する。
わたしは女を見つめた。

「今からでも良い。戻るか?」
「戻れないだろう」

わたしの返答に男女とも小さく笑ったようだった。

「そなたの根源はわたくしであるのに」
「今のそなた自身の魂のひとつはわたしであるのだが」
「「だが、すでに戻れぬところまで行きついた」」

男女の指が、手が、存在が、わたしの身体に触れていく。

「わたくしを内包し、また別の何かに行きつくというのであれば、わたくしはお前の傍にわたくしを送ろう。
 お前を二度と失わぬように」
「わたしを内包し、また別の何かに行きつくというのであれば、わたしはお前を見届ける為にわたしを送ろう。
 その業が我が子らに牙をむかぬように」

そうしてするりと気配が消えていくが、正直な所まともにわたしはそれらを聞いていなかった。
わたしの意識はすでにわたしに手を伸ばそうとする六人に集中していたからだ。

「主…!」

喜色を浮かべたその声の主は六人のうちの誰かだろうか。
上から星の光とも記憶の映像の光とも違う何かが降り注がれる。
身体が浮上する。
元の身体のまま、とは言えない。
わたしの視界は半分だ。右目が消えたままなのだがどうでもいい。

問題はこいつらがもっている刀剣だ。
なんでこいつら、全員わたしの刀剣を持っている?

わたしは気が付けば彼らの傍まで浮上していた。
気にせず、一人の胸倉をつかみ上げる。



それはわたしのだ。なんでお前らが持ってる!


わたしは口を大きく開けてそう怒鳴っていたはずだ。
声はわたしの耳に入らない。
だが、その彼らには伝わったらしい。
瞬きを繰り返した彼らは、怒りの形相のわたしに対して笑みを見せた。


お前ら、誰だ!?

次の瞬間、わたしは光に全身を包まれ、上に引っ張られるのを感じ取る。
態勢を崩したわたしが手を離すと、逆に抱きしめられて上に上がる。

「主君」
「大将」
「主」


六人の声を聴きながら、わたしはその空間から光り輝く何かを通り抜けた。


これから始まる物語は、刀剣たちとわたしたちが二つの世界を行き来しながら悪魔達や人間達と踊る物語。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



――――ステータス更新を開始します。―――

〇高位分霊・魔王□□□□□□を再封印しました。
〇メキシコ周辺の魔界化を阻止しました。
〇覚醒条件「特殊な儀式」を獲得しました。
〇覚醒条件「臨死体験」を獲得しました。
〇魂の根源である神族「天津神」と接触しました。
以上により、覚醒段階Ⅲ「神族覚醒」に移行します。


ステータスの更新を開始し……警告!…干渉されています! 干渉されています!…。


〇混■王の干渉を受けました。
〇■速聖■の干渉を受けました。
〇霊■不■の干渉を受けました。

以上により「神族覚醒」「転生覚醒」が影響されます。
…。
…。
…。
…情報を更新します。



〇覚醒段階Ⅲ「神族覚醒」:「国津神」が選択されました!
〇新しい系統として「カルトマジック:修験道」が選択されました!
〇「神族覚醒」の影響でステータスが一部上昇、及び属性固定があります。
〇「国津神」により「カルトマジック:修験道」でボーナス補正が付きます。
 「カルトマジック:修験道」技能Lv+2まで使用可となります。


ステータスを更新しています。

〇「神族覚醒」により「神の転生体」としての道が開きました。覚醒前条件は満たされています。
〇「覚醒」により内包している刀□□□の存在に影響が及んでいます。


警告!
すでに以下の状態になっています。
覚醒しましたが、この状態の解除は不可能です。

〇魔王□□□□□□からの呪詛により、今後特定神族の悪魔に遭遇した場合、行動が制限されます。
〇魔王□□□□□□からの呪詛により、肉体の一部を損傷しました。今後、いかなる回復行為でもこの損傷は修復されません。


―――――――ステータスを更新しました。これより 運命 あした を開始します。―――
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