現世・魔神本丸剣風帖

何度だって言おう。どうしてこうなった。



「どうしてこうなった」

出萌 いずも はそう言いながら、目の前に出現する立体仮想3Dディスプレイを眺めた。
本当なら今頃火星に移住して新第二日本・第二東京で学業に励んでいるはずだった。
スクールカーストの方もあまり気にせず、浅く広い交友関係を構築してそれこそ適当な人生を歩んでいくつもりだったのにこの有様。
浮き上がった【 てこな 】の名前と見知った陣形の文章が並んでいる。
敵側の陣形に対応する、こちら側が有利になる陣形を指示すると勝手に戦闘が進んでいく。
一度来た時代であるのならば以前通ったルートや巻き込まれた事件も、全て記録にとるように指示してある。
同じ時代にずっと送り込むと第三勢力の【検非違使】が出現してしまうことを知っている彼女は、送り出す時代の頻度や刀剣男士同士の練度も確認できるように何度かデータを画面上で確認できるように重ねて指示してこのディスプレイを眺めている。
それら全てを統括しているのは、電脳管狐 こんのすけ だ。
昔の 時代に送りこんだ刀剣男士達にも連絡要員として端末である電脳管狐 こんのすけ が数体ついている。
時の政府の術者とエンジニアが構築した新しい命令及び進軍システム。
戦場の知識はなくとも、最低限の霊力が有れば刀剣男士を動かせるように出来上がった最新のシステムは一部の軍人―審神者になるには不十分、あるいは審神者として続けられないと判断された人間―には福音のようなシステムだがそんなこと彼女には関係ない。
これは軍人の気構えも何もない一般人にも戦場に立たせる可能性を秘めたシステムでもあるが、それも彼女には関係ない。
戦闘は終了し、歴史修正主義者たちが引き起こした事件を収拾させて、彼女が簡易的にでも戦闘指揮した刀剣男士たちが戻ってくる。
データによれば怪我はないようだが、念の為に手入れ部屋、風呂、休むための部屋の準備の指示も画面上から出した。

(この辺りは、刀剣乱舞 前世のゲーム にはなかった。アニメの活劇とか花丸にはあったんだろうか…?)

あいにくとゲームがメインでしか覚えていないけれど、と内心付け加える。
そう、には前世の記憶があった。
何をしてどんな人生だったか、なんていうところまでは覚えていない。
遊びぬいて金をかけていたゲームやアニメという二次元しか覚えていない。
だが、それで良かったと思っている。
なまじ、かつての世界の家族、親友、仲間、恋人の記憶があったとしたら目が当てられない。
惚れたらとことん長くほれ惚れ込む気質は前世からだ。
そうでなかったら課金しまくったゲームの大半をWikiのように覚えてなどいるものか。
初期刀や初鍛刀、初ドロップに各種類で初めて入手したモノなどすらっと言える。
二次元でもこうなのだ。
これが血の通った人間の記憶ならば、どうなっていただろうか。

(悲劇のヒロインぶるんじゃなかろうか)

どこまでも自分に冷たく、彼女はそう判断する。
前世の記憶からしてみれば、二次元そのままが現実化した未来社会で彼女は生きている。
一般人。モブ。ただ流されるままに生きている人間。
それで良かった。否、それ「が」良かった。
なんの力もない人間であれば、被害者面をしていられるからだ。

だが、そうはならなかった。

「どうしてこうなった」

もう一度、口にしてみる。

平凡な人生を生きるつもりだった。
何度も言うが、モブが良かった。
――――――一回、確実に死んで霊具で蘇生しかけたことによって、女神さまに目を付けられた。
      一方的な加護を与えられて現在に至る。正直、こうなったらモブとは言えない。――――――――  

一般人のまま、火星で生活するつもりだった。
―――――― 呪術刻印保持の守護者 ガーディアン の一人として、時の政府に出国すら止められた。
      地球の東京、現世本丸とされるここで生きている。――――――――

超能力とか、魔術か知らん。二次元ならあこがれるが現実じゃ使い方なんて、わかるわけないだろう。
――――――女神さまが、いっそ残酷に親切設定を施してくれた。
      現実がゲーム化したかのように、あるていど大まかだが自分で自分の能力を把握できる。
      あれだ、前世で読んで嵌ってた「なろう小説」のキャラクターみたい。
      ただし、俺TUEEEEEなんじゃないけれど。ほかにいるけど!――――――

審神者になるつもりはなかった。
ゲームとはいえ、前世で集めた刀剣男士こそが私の最初で最後の刀剣男士のつもりだ。
――――――自分が発言したシステムが構築されたので責任を持ってテスト運用しろとか言われたのだ。
      言ったつもりもなかったので突っぱねようとしたら断りにくい人と、
      縁があって話したことのある刀剣男士からもお願いされた。
      それでも断ろうとしたたんだが、【妥協案】を出されて断れなくなった。――――――

小さく息を吐き出す。
今自分が生きている道筋は、自分が決めて判断した結果だ。
それに不満は…ない、はずだ。
だがしかし。
なんだろうか、腑に落ちないというか納得できない自分がいる。
自分が行うこと、決めたことが後々の自分の行動というか人生をうまいように転がされているような気がする。
誰に、とはあえて口にはしない。
その顔を思い出すと、複雑な心境になるからだ。
クラスメートで仲は良い方だったが、結構な上流階級のお子さん。
けど、まぁ友人関係ならば別にそんなの関係なかった。
たしかに彼女たちは男女であるから、そうそう仲良いままではいられないのは理解していたのもあった。
どのみち自分は火星に行くから、それで付き合いは無くなるか電波越しになるんだと勝手に思っていた。
だが、そうはならなかった。
距離感がおかしくなったのは、自分が一度彼の目の前で死んだからだ。

「どうしてこうなった…」

もう一度だけ、は呟いた。
平凡な人生は歩めない。
ここから逃げようなんて言う、下手な努力は疲れるだけだからしない。
自分が決めたことの結果として、ここで生きているのでどこにも文句が言えない。
 心底からこの立場が嫌かと言ったらそうでもない。

家族も傍にいる。
それどころか、同じシステムを使用して全員がなんだかんだと審神者の道を歩んでいる。
全く似ていないが双子の兄弟なんかは、正直チートだ。
別の戦場ではあるが、二次元でしか知らない戦闘系審神者の道を確実に歩んでいる。
良い相談相手だ。
好きなこともしている。
友人もいるし、増えた。
親友も審神者(仮)の道を歩んでいる。
嫌いな人も勿論いるが、それは普通に生活していてもいるものだ。
超常現象能力を側で見れる。
自分も借り物、添え物ではあるが少し使える。
政府の肝いりで作られた「現世本丸・真神」の中で、彼女はこうなってしまった出来事を思い出して、息を吐いた。
それは、この本丸がまだ本丸空間ではなかったところから、始まる。
Page Top
SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu