現世・魔神本丸剣風帖

彼と彼女の現状把握(2)



二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズ】。
かつて「 出萌 いずも」となる前の「魂」が覚えている二次元から、酷似した存在の情報をあえて文字化して、自分の視界にのみ流す能力。
その情報量に小さく息を吐いた。

(あまり、ショックも受けてないな。)

顔を拭くものを用意してくれている同級生の男子―新城直衛の情報―をまた流し読みした。
と、言っても彼本人ではなく彼女の中の二次元情報内にある【皇国の守護者という作品内の新城直衛】の情報ではあるが、彼の家族構成や、噂の話を考えるとやはり大差はない様に思える。

前世の小説&漫画の【彼】あちらが大人で、新城君は高校生だけど)

瞼を閉じた。

(でも、逆に、なんだ。安心してる自分がいる)

二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズで出てくる彼の好みとまったく自分は重ならない。
【女】として見られないということは、幾分か彼女の気を楽にさせていた。
口移しの水だって、服をはぎとられていることも全てなんの下心もない医療行為だ。
それ以上の意味合いは全くない。
クラスメイト達の言葉を借りるなら、10代後半の男子は全員性欲の権化とか言っていたが、怪我もして体力を落ち切って好みと正反対な存在に手を出すような馬鹿なことはするまい。
ちゃんと節度ある態度を取っていれば。
そこまで考えて、ふいに脳裏に浮かぶ、父の顔。

(そうだ。先輩たちに促されるように逃げ込んだシェルター…と思ったら地下洞窟だった。…とうさん、どうしただろうか)

父親と親友たちと、一緒にあの霊場にいたのだ。
流れ作業のように、ついでに武器をもって嬉々として動き回った生徒会長とそのお友達の姿を思い出して。
はっとする。

二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズ→【真神学園旧校舎地下】フリーダンジョン。
【同作品 登場人物 酷似情報】主人公、及び味方ユニット→該当/蓬莱寺ほうらいじ 京一きょういち

剣道部主将もあってるが名前が微妙に違うはず。
前世の記録をさらっと見る限り、ドラマはあったけれど今から思うと「う、うーん。どうよ、君の性格…」としか思えないキャラだったように思える。
それは生徒会長も、そのクラスメートも一緒だった。
一人、白虎に変じるキャラが居ないがおおむね同じだ。
その現実に、鉄錆味のなんかを吐きそうになって、それをやり過ごす為につらつらとは思考する。
前世やりこんだシミュレーションゲームそのものの設定も被って、二次元が現実に追加された。
これがスポーツ漫画とか、恋愛乙女ゲームの世界だったら万歳三唱で鑑賞にいくだろうが残念だが伝奇もの。

(どれもこれも戦争が主軸の話)

【皇国】【刀剣乱舞】【一血卍傑】…どれも戦争だ。
【東京魔人】も日常の狭間に入り込んだ非日常が牙を向き、運命という名の何かで主人公を含めた高校生に命をかけさせていた。
そして同様に、今の彼女の世界も、彼女があえてつっこんで知ろうともしなかったが本来は。
妖魔。
情報。
記憶。
魔人。
様々な情報の文字列が再び再起動して脳内展開していくのを、ただ眺めるだけに意図的にした。
昨夜のように意識を落とすということは、もうしない。
自分を殺害した先輩―蓬莱寺ほうらいじ 京一きょういちにそっくりな 先輩の―きちんと名前を覚えるほど、彼女は親しくなかった。―の存在を、昨夜気を失ったきっかけをくれた存在を思い出すことで意識から一時的にも消した。
指を動かすのも一苦労だ。実際に今呼吸している【ここ】が二次元-VRMMOなら痛覚設定をいじれて、今現在きっと自分はこの鈍い痛みはなくなるだろう。
しかし、実際問題そうはならない。
掌の中に戻った呪術刻印装置―八尺瓊曲玉やさかにのまがたま―のおかげで一般人から超常現象能力を発現させることができる魔 人ディアボロスになってしまったのは、問答無用で理解させられる。
魔人―それは一般人とは線引きされる、ファンタジー世界の住人達の名称だ。
何度も繰り返されたAI達の反乱をどうにかこうにか鎮圧したのは彼らであり、そして新たな問題を世界規模で引き起こしているのも彼らだった。
勝手な話だが、彼らが自衛隊や警察官といった民間人を守るための組織に入ったことで、ようやく安心できる。
身近ではあるが、遠い存在であったはずの、そんな【魔人】に自分がなるとは。

(と、言っても私自身が何かしらすごいことができるのかと言われたら、そうじゃないしなぁ。)

視界の中に ■二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズ 待機■ という3D画面が相変わらず待機している。
今の自分が使える異能はこれがメインなのだろう。
ただ、こんな画面、ちょっと都会に行ったらその辺に転がっている技術に酷似している。まぁ、物珍しくはない。

(異界…かぁ。)

そう考えると、少し自分のきしむような身体の痛みを多少忘れさせてくれる。
人間に友好な妖魔がこの異界の主ならば、まだいい。
素直な心で、しかし言動に注意して言質げんちをとられるようなことを言わなければいい。
そう授業で習って…まさか、実践する羽目にあろうとは。

(いや、友好的では、ないかも?)

こちらを【餌】の認識しかしない妖魔もいる。
それはれっきとした現実だ。
精神的にも肉体的にも、妖魔にとって人間は【餌】であり【栄養】であり【繁殖の元】でもある。

(かと、言ってただで食べられるのは癪だなぁ。)

その授業風景で一番最近に話題になった言葉は【審神者】だったか。
【審神者】。
その言葉だけでも文字情報がぺろんと展開した。

二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズ→【刀剣乱舞】■

(と、いうか私の前世は結構な課金もしたユーザーだったんじゃなかろうか、【刀剣乱舞】の)

脳内ですっかり、前世でちらりとでもしたことのあるブラウザゲームの存在その人(こっちは【一血卍傑】だ)になった女神が微笑んでいる。
魂の履歴というか、記憶というか。そういう類のものが手に持つ聖痕によって文字情報化して、登録されつつかの女神に行っているのがわかる。
今まで近くて遠い世界だと思い込んでいた、オカルトとファンタジーがコンゴトモヨロシクな世界にどっぷりと肩まで入ったんだなぁ、と はどこかで感じ取った。
文字情報で展開されるかつての情報に授業やニュースが思い出された。
【審神者】は最近になって一般に公開された、自衛隊に組み込まれた神職…特別に霊力の高い魔人を揃えて戦っているとニュースでアナウンサーが言っていたはず。
エリート揃いなんで、大丈夫ですよ。みたいな感じだったことをは思い出す。

(ちゃんとした、部隊名とか、なんか言っていた気がするけれど。)

二次元の方では時の政府に認知されて「主」とされた存在で、刀剣に宿る人格に肉体を与えて自分で戦えるようにするとかなんとかだったはず。
文字情報と自分の記憶をすり合わせる。

(このゲーム仕様は、もしかしたら慈悲?)

霊力だとかそういうのを使う感覚をど素人でもわかりやすいようにしてくれたのだろうか? と はひそかに思った。

(それが、まぁ、娯楽だとしてもわかりやすい、というのはありがたい、かな。)

「出萌さん」
「…ごめん、ありが、と」

かすれてしまう声で、なんとか礼を言って、拭こうともしてくれる同級生をやんわりと手で制して根性で手拭を動かす。
まるで油を差していない、建設用のロボットアームのような動きだと自覚はしているが自分でできることはしないとならない。
そうでないといつまでたっても異性の同級生に介護させてしまうことになる。

(それは、本当、お互い、気まずいなんてもんじゃないだろう。)

多少の痛みを感じているが、それを表情に出さないようにしながら、顔を拭いた。
本当だったらお風呂にも入りたいが、そうも言っていられない身体であるというのは理解している。
顔を拭き終わり、そうして手拭を持ったままは口を開いた。
なんとなく理解しているが、一応聞いてみる。

「しんじょうくん、ほかの、人は…?」
「…ここにいるヒトは君と僕だけだ。」

にはそれは、ことさら優しい声音に聞こえた。
今のところ、と付け加えられたのは優しさだろう。
二人、ということは救助を頼むこともできない。
高校生二人、そのうち自分は身動きができない、足手まといに他ならない。

顔を上げて、新城を見上げた。
ぼやけた景色が歪むが、涙はこぼさない。

「そっかぁ…、しん、じょーくん、だけ、しんどい…ね」
「僕の方は気にしなくていい。君をすぐに医者に診て貰えないのだけ…すまない」

でも、と口を動かそうとしては気が付く。

ヒトは新城と自分だけ。ヒトは。
「ひと、いがい、いた」
「はい」

素直に新城は頷いた。
の脳裏に浮かんだのは時間遡行軍と、大きな龍だ。
アジア系の大きな龍が出てくる作品は前世はたくさんあった。
逆に今世の二次元は廃れている。オカルトもファンタジーも、呼べば出現する可能性がありえるからだ。

「骨の、妖魔?」
「それらが住み着いている。と、言ってもこの異界の主ではなさそうだ。」
「…じゃあ、探して、帰して、もらわないと?」
「そうだね。」

新城の声音はひたすら優しかった。
その様子に、んん、とは思考を回転し始める。

(この感じだと、少なくともこの家の中にはいなかったんだなぁ)

異界を構築する妖魔はその住まう異界を自分の好みの気候、自然環境に換えることができる。
家屋があるとしたら、通常はそこを住まいとして存在するのだが。
身体が動けば自分の探しに行けるのだがそれもできない。
友好であれば、身体を治す手伝いをして欲しいしそうでなくとも少なくともこの異界から、人が居る場所に出してもらうように交渉しなくてはならない。

(いや這うことはできるな。)

「あの龍、は?」
「あぁ、あれは大丈夫だ。」
「ん?」
「あれは僕のだ。後で紹介する。今もここを守らせていてね。」

存外、便利な拾い物だ。と呟かれて、瞬きをひとつはしてみる。

あの龍が?
脳裏に浮かぶ姿は顔だけだ。それだけでもかなりの巨体。
「あの地下の変な妖魔たちの様に、食料を落とせばいいのに骨の連中を倒すと落とすのは刀ばかりだ。」
「かたな。」

二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズ→【刀剣乱舞】■

(早い、早い)
イラストを詳細に見ていなかったらしい前世は、この鞘を白と黒のドットなのだと思っていた。
でも違う。

「使える、の?」
「武器としても、一応は。まぁ包丁代わりにも使うかな、と。」
(うぅ、国の宝やぞ、新城くん。)
二次元情報視覚解析化サブカル・アナライズ→【刀剣乱舞】【短刀】【白い鞘】該当短刀
■五虎退
「ごこ、たい」

自分の脳裏の文章が出現するかしないか、その瞬間に声は漏れていた。

(【初鍛刀】。大事な一振り目。初期刀と一緒にずっと、ずっと頑張ってくれた可愛い刀。)
前世の記憶(二次元)の、当時の情報と共に付随する感情が彼女の方に逆流する。

(なにがライトユーザー。前世の私、かなり感情移入してるじゃないか!)

「ごこたい?」
「ふふ、しん、じょうくんは刀の、なまえ、知らないの?」
「対実物に関して覚えてるか? と言われたら困るね。」
「上杉家に愛された一振り。」

脳裏に女性化した上杉謙信が通り過ぎて、反応が送れた。
そっと触れている彼女の指に、新城のそれが触れる。

「へぇ、愛された、刀、ね。」

不穏な音ではなかった。
ただ顔をゆっくりあげて、視線が新城に向かう前に。
桜吹雪が舞った。

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