個性:ASO

(彼女の)都合





中学入学前の時期に覚醒した私の“個性”・アナザーリンク サーガ・オンライン(ASO)に入った時。
VRMMOなんてやったことがないし、いろいろと自分自身で記憶の改竄と前世の記録の覚醒やらを引き起こしたのがごっちゃに混ざってしまって混乱の極みだったのが今では良く分かる。
(父方の)叔母さんと(母方の)伯母さんに両親の生命保険をそれぞれ奪われたと勘違いしていたし。
眠ったと思ってたけれど、実際はショックで気を失っていたこと。
三日ぐらい現実世界で眠っていて、ASO内に24日間生活していたこと。
やっててゲームからログアウトできないデスゲームかと思ってSAN値減らしてたなぁ。
…目が覚めて、頭が冴えていた私は超速攻・母方の叔母さん経由で弁護士雇ってなんとかなったけれど。
それは兎も角。
入った直前は当たり前のように全てがLv1.
選択肢があったのか、いまいち微妙だけれどあの小説の主人公のように「サモナー」を選択して、歩き出した。
魔法の数は「召喚魔法」と「風魔法」の二つだけ。
訳も分からずゲームのプレイヤーのように動いて、でも混乱しながら最高の選択をして。
中学三年生の春先の現在、種族Lv60 サモナーはランクアップした大召喚魔法師(アークサモナー)Lv27 。
魔法の数は基本と派生を現状、全部制覇に称号で追加したのを合わせて15。
あの小説じゃあこのレベルになるまでに二年もかけていないと思うけれど、自分のペースで攻略をしながら進んでこの数値。
途中、この“個性”のことを相談した幼馴染の姉妹二人と、引っ越しして入学した中学にいた、“個性”に詳しい無“個性”の男の子に相談してこの“個性”に巻き込んでしまったけれど…三人とも楽しく身体を鍛えるのに使ってくれて何よりだと思う。
種族Lvが上がると知り合いを〔フレンド〕として参加させられるようになるので、私はあんまり増やしていないが、幼馴染は色々考えて(本人曰く)ちゃんとセーフティネットを作った上でフレンド…ゲーム的に言えばプレイヤー人口をネズミ算的に増加させている。
話してみると、大半が私のように前世の記録(記憶、までいかない)持ちが多かったりしたのは笑った。
いや、無“個性”の子たちは違う様だったけれど。
外国人の人達もいて、外国語の勉強にもなるので良いのだがどんどん人間性が濃い人が多くなってきたような気がする…。
私としてみればこの“個性”の秘密を探るのに手を貸してくれるのであるのと、弱“個性”の人達や無“個性”の人たちが生きる糧をここで見つけて現実世界に活用してくれれば別にいい。
ただし、他人に迷惑をかけなければ。
正直、ヒーローになろうがヴィジランテ(非公式ヒーロー=犯罪者)になろうが、良いのだ。
ヴィランになっていた場合は無理だが。
それが判った瞬間、全員で全力全開でぼっこぼこにして追放というのを最初に全員に通達している。
もう二度とASOを使えないようにしたあと、スキルも何もかも封印だ。


さて、私の独白で気が付いただろうか?

生きる糧を見つけて、現実世界に活用してくれれば別にいいと私は語ったが。
そう、私の“個性”・ASO内で得たジョブにスキル―それが魔法だろうが戦闘だろうが生産だろうが補助だろうが―は条件をクリアさえすれば、現実世界で使うことができる。
事実、表向き私が持っているとされている「サイコキネシス」だってASO内で得た時空魔法のグラビティ・バレットだ。
加えて現実世界でも“個性”の世界でも同じようにスキルのLv上げが可能。
色々考えて召喚魔法は使わないが、他の魔法や武器スキル以外のものは現実世界でも使っている。
…最初、掴みかかった親戚を魔法で吹っ飛ばしたときは最高にスカッとした。
相手に怪我させるのではなく、自分の身を守るために咄嗟に呪文を口が唱えていた。
今やったら、どんなものでも口走ったらおそらく相手を殺すことになるのでやらないが。


それ「も」兎も角。

「そろそろ拠点を作ろうかと思います」の私の言葉にキース師匠は「引っ越し祝いだ」と見知らぬ食材アイテムをくれた。
…食材というよりも消費アイテムか。
投げてぶつければHPを完全回復する桃なんて初めて見た。
けど桃を見ていたらジュースを作りたくなる。
素直にそう口にして作ったら、くふくふ笑われた。
HP完全回復よりも美味いものだろう。
醸造スキルを持ってるモンスターに作ってもらったのをお裾分けして、残りを後で相棒と二人で飲むかなぁとか思ってたら連絡が有って、私はそれを持っていたアイテムボックスの中に放り込んだ。


「急いで話したいんだけど、今どこにいるの? さん!」 
「ここではシロさんやで、ミドくん」

久し振りに彼の大きな声を聞いた気がする。
【ミド】くんこと緑谷出久。
ミドマイトの名前でASOの中では、いつの間にやら私の相棒の立ち位置にいてくれる同級生―いや、三年でクラスが分かれてしまったけれど―の男の子だ。今現在はそれぞれ師匠にクエストを出されて離れてしまっているけれど、基本一緒に行動している仲間。
私を相手にしてる時に慌てるとASOでの名前よりも、先に苗字が出るのがくせでおかげでプレイヤーで知人の知人には私の苗字がばれている。まぁ芋づる式にフルネームばれしてるようだが気にしてない。
穏やかで身体を鍛えるのと、技術を身に着けるのが目的な彼は礼節も師匠に叩き込まれていたので挨拶なしでこう有無をも言わさない勢いは珍しい。
…私が死に戻りした時とか、そういうのでしか見たことないな。


、さん!」
「あ、こんばんは。ミドくん」

マイペースに巻き込まないと、この人落ちつかないだろう。
私が「やあ」とばかりに声をかける。
ASO内じゃ朝っぽいけれど、現実世界では夜なので出会うときの挨拶はたいてい「こんばんは」だ。
…拠点作りとかミドくんにも言わないとな。
私の今日の予定は次のミド君の言葉で吹き飛んだ。


「ぼ、ぼく」
「うん?」
「僕、“個性”が出たんだ!」

息を飲んで、瞬きをして、それから意味を加味して思わず万歳と手を上げて言った。
「おめでとう? おめでとう?! おめでとう! でえぇんやんな?」
「うん、うん、うん! ありがとう! さん!」
ばんざーい、ばんざーい! やったやん! 良かったやん! と、ありがとう!をお互い連呼する。
無“個性”って苛められていた相棒は、もうこれで苛められる要素を完全に無くした。
今までだって無“個性”だが、その身体能力は下手な強化系の“個性”持ちにも負けなかった彼。
無“個性”でもヒーローになれるように努力していたが、なくて困っていた物だ。
それが有るようなれば、ヒーローにもっと近づくことになるだろう。
自分の顔が笑顔になるのがわかる。

「どんな“個性”が聞いてもいい?」
「おー…んっううんっ、きょ、強化系なんだ」

おー とはいったい。
でもきっと突っ込み入れたらダメなんだろうなぁ。

「そ、それでね!」
「うん」
ミドくんは彼なりに決心した顔で言った。

「会って、欲しい人がいるんだ。その人は“個性”にも詳しい人で、僕の、“個性”が出た時に居合わせた人で。
 それで、お、オールマイトの事務所のヒトだったんだ」

凄い偶然やな。
私はその言葉を飲み込んで、彼の言葉を待った。

「だから、きっと僕よりも“個性”に詳しいんだ。
 さんの、この“個性”の秘密に関して解るかもしれない。
 同じ“個性”の人がいたことがあるかもしれない。僕たちが知らないだけで、きっと!
 その人に聞けば、もしもその人が知らなくても、オールマイトの伝手で調べてもらうことだってできるかもしれない!」

「かもしれない」ばかりを繰り返す自分がいやなのか、ぎゅうっとミドくんは眉を寄せて、それからもう一度振り絞るよう言った。
「その人、ものすごくひどい怪我をしてる。胃を全適してて、身体だってものすごく細くて…」 脳内にがりがりの人のシルエットとHAHAHAと笑うオールマイトの姿が浮かんだ。
がりがりの人、良くオールマイトと働いていけるな。
忘れかけていた強“個性”の従兄の顔と無“個性”だった自分の姿が一瞬ダブって消えていく。
カット、カット。忘れろ。
昔の自分と会ったことのない人を重ねてしまうなんて、失礼な。

「ようは、あれかな?
 その人の怪我を治してその見返りに“個性”に関しての情報を交渉して取れるようになるってことかな」
「……純粋に、その人の怪我を治せるのなら治してほしいって気持ちが、本当にあるんだ。
 僕が、ちゃんと魔法を覚えて使えてたらと今更ながらに後悔してる…」

ミドくんが言うなら、それほどか。
身体を鍛えて技術を磨くことを優先して全く魔法スキル覚えてないからなぁ、君。

「だから言うたやん、前衛でも【時空魔法】は覚えといたほうがえぇって」
「【時空魔法】ってリンク魔法だよね…」
「【光】と【闇魔法】覚えて、リアルでもできるようにせなあかんけど【連携】のLvは高いからすぐ覚える思うわ」

光と闇は本当に使えているか一見すると解らない魔法だが使えれば便利だし、派生する時空魔法は本当にありがたい魔法だ。

「まぁ、受験やから今から新しいことに挑戦して身につける暇があるかどうかわからんけどなぁ…」
「うぅ…」

“個性”が目覚めたと喜んでいた頼もしい相棒が少し呻く。
しかし、怪我かぁ。
自分のステータスの魔法Lvを確認し、ついでにアイテムを確認する。
所持金と人脈を頭の中で整頓していく。
そして先程二人分持っていたシェイクの鑑定結果。
うん。
ぎりぎり、いや。
少し実験も必要。

私は素直にそうミドくんに伝えて、そうして数日後にオールマイトの事務所の人―私命名・ヴォルデ〇ート卿、ミドくん曰くトレーナーさん―の怪我を治したのだ。



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