抱きつかれて、その柔らかさにどきまぎする。/抱きついて、その腕の中に入られることに安心する。

抱えて、逃げられないことに少し自信がつく。/優しく背中を叩かれて、涙がまた盛り上がる。

なぁ…。/ねぇ…。
「自惚れてもいいですか?」





「少しは落ち着いたみたいだな」

高橋啓介の言葉にはこくんと頷く。

「ごめんね、啓介くん」

「別にいいって…謝るなよ」
啓介としては実は嬉しかったりするのだ。
(好きな奴に頼られるって、結構、いいな)
だが、口にするのは少しぶっきらぼうな言葉で、は誤解する。

(怒ってる、よね?)
彼女としてみたら、いきなり深夜に呼びつけたのだ。
走らせて、急がせて。
その上、愛車で送ってもらっている。
(なんか、アッシーにしてるし)

しゅんと、うなだれている彼女の様子をちらりと盗み見て苦笑いする。

なんだか手にとるように考えがわかることにほっとして、そしてその姿を見てちりっと心が焼けた。
きちんと正装して入れる場所に行きましたという彼女の姿。
先ほど抱きつかれて、微かに香ったコロン。

一番に、自分が見ればまだこんな思いはしなかったかもしれないが。

「合コン、楽しかったかよ」

「え?」

(あ、やべ。だから、そんな泣きそうな面すんなよ)
言いたい言葉をもっと優しくなぜ言えないのか。
自分が少し情けない。

「ううん、別に…そんなに…楽しくは…」

「ふーーん」

「お酒少し飲んだ、だけだよ」
(なんか、あたし言い訳してるみたい)

泣いていたから、少し目元が赤らんでいる彼女。
可愛いし、誰にも渡したくない気持ちが膨らんでくる。
どこぞの輩に盗られてもいいのか?/いや、よくない。
嫌われてない自信も、ついさっきついたばかりだ。
これを逃す手はない。

(よし!)

決意して、ハンドルを切る。

「え? 啓介くん?」
「少し、俺に付き合ってくれ」
「う、うん」
彼女の言葉に、啓介はアクセルを強く踏んだ。




眼下には夜景が広がっている。
町並みとネオンが綺麗な、それには小さな歓声を上げる。
いつもはバトルに使ってない峠の上に二人は来ていた。

「綺麗だろ?」

車から出て、夜景に見とれてるに啓介は優しく言った。

「うん、すごい、素敵…」
これを見せたかったんだね、とは小さく呟く。
それを聞き、くすりと啓介は微笑んだ。

「俺さ」

「?」

タバコをつけ、一息つけてからの背中を凝視する。

「女を口説く時はここにしようって決めてたんだ」

ぴくり、と、の動きが止まる。

(それは、つまり……)
振り向くと、愛車のボンネットに寄りかかって、タバコを吹かしてる。

だけど夜目にもその頬は赤らんでいて。

「あ、あの、あたしで、それ、何人目?」
言いたいことはそれではないのにの口はそんなことを言ってしまう。
それを聞いて、拗ねたように啓介は吸っていたタバコを、携帯用の灰皿に押し付けて消した。

「ここ使うのは、後にも先にもだけだ」

その言葉に、かぁぁっとの頬が染まっていく。

啓介が近寄って来ても、硬直したように動かない

「…返事は?」
微かに震える啓介の声に、嬉しくて涙がこぼれそうになる。

「おい、泣くなよ」
「だって……ずっと、あたし、片思いだって思って……」

思わず抱きしめる。

「好きだ」
「あたしも…」

微笑みあって。
啓介の方から唇を寄せていく。
は、瞼をと閉じた。
その時。

「ほーら、やっぱり啓介さんだーー!」
「よせ、ばか! しらねえぞっ!」

かさっと音を立てまくってきたのは、同じチームの連中。

「啓介さん……ってあれ?」

「おーまーえーらーーーなーーー」
地べたをはいずるような啓介の言葉と、の姿に、チームの連中は慌てふためき。

「ああ、すみませんっお邪魔しました〜」
「だからやめとけっつったろ?」
「うるせえ! さっさと行っちまえ!」

は、思わず、くすりと笑った。




「たっく、邪魔しやがって」
チームの連中を追い払い、二人とも車に乗り込んで、啓介は運転席でそううめく。
「ま、まだ言ってるの? 啓介くん」
気にしてないよ、と微笑む彼女に。
「だってよ」
と、を見つめて、啓介は思わず人の悪い笑みを浮かべた。
「な、何?」
「今夜、お前を離したくないって俺が言ったら、お前、どうする?」
それの意味するものが判って、顔を赤くする彼女。
「お前が決めるまで、俺は何時間だって付き合うぜ?」

夜はまだ長いんだから。




彼と彼女がこの後どこに行ったかは判らないが、家に帰ったのは夜が明けてしまってからで。
その日早々、啓介は親にも兄貴にも従姉妹にも彼女との交際宣言(結婚前提)をしてしまうのだが。

まだは、そうなることを、知らない。



初UPした時のコメント:初UPした時のコメント:終わりました。高橋啓介ストーリー完結!
本当はギャグ落ちのまま落とそうかと思ったのですが、ヒロインが可哀想になってきて辞めました。

長い長い片思いが、あんなんで邪魔でおわらしちゃったらいかんよね、とか。

相変わらず短いのが申し訳ありません。しかし、もしかしてこれも裏一歩手前か?

2004/3/22 以前の作品

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