「で」

にこやかに、というよりもすごく爽やかに友達が笑う。

「その《明智さん》にごやっかいになってるの?」
「んなわけないでしょ!」

バンバンッ! と、テーブルをたたくと向こうは「ふう」とわざとらしく汗をかく仕草をした。

「そうよね、の好みってば変わってるから」
「失礼な」
「だって顔がいい男、嫌いでしょう」

ちっちっち。

あたしは舌を鳴らした。

「顔が良くて頭が良すぎて口の回る男が嫌いなのよ」





なんてそんなことを友達に言い切ったあたしは、自己嫌悪に陥ってたりするのよ。
現在進行形で。

「あいにく、車の中なのでアルコールはありませんが」
「…紅茶で充分です」

くすくす笑う気配に、顔が思いっきりぶさいくになって行くのがわかる。
あれからすぐに電話があって、なんだかんだと言いくるめられて車に乗せられてしまったあたしに、乗せた張本人の彼が暖かい紅茶の缶を手渡してくれる。
彼の名前は明智健吾。
あたしの初恋の人で、失恋の思い出のある人。

だけだったのに。

今となっては……『大人な関係』の相手、かな?

「何を考えてるんです?」

耳に心地いい声も癪に障るのよね。

「なんでこうも明智さんの口車に乗っちゃうかな、あたし。みたいな」
「そうですね」

コーヒーを口に運んでから明智さんは言い切った。

「それは貴女が僕のことを好きだからですよ」
「……っ!!」

思わず口に含んだ紅茶を出すところだった。
慌てて飲み込んで、息を整えてから。

「なんですと?」
「だってそうじゃないと、おかしいでしょう? 本当に嫌なら拒絶すればいいことですし」
「その耳は飾りですか? 明智さん…」

あれほど、あれほど丁重にお断りしたのにっ!
なんて言うと、明智さんは爽やかに笑った。

「貴女の場合は『嫌よ嫌よも好きなうち』ですよ、悪いですが」

本気で嫌がってますって。
そう言おうとしたら、明智さんは真剣なあの鋭い視線であたしを見る。

「あの夜も、嫌でしたか?」

彼がどの夜のことを言っているのかが判って、あたしは顔を赤くする。
けれどなぜか負けっぱなしは嫌なのよ、あたしは。

だから。

「…いや、だ…」

嫌だったわ。
そう言おうとするのに、口は動かない。
いや、動けない。
明智さんの指が、手が、呼吸が、あたしにかかる。

「嫌だった?」
「いや……んんっ…」

唇がふさがれて何も言えない。


顔が良くて頭が良すぎて口の回る男が嫌いなのよ」


これにもう一つ、つけよう。

「手が早い男も嫌い」

そう言おうとしたら、明智さんはまた笑った。

「…僕は貴女にとっては例外なんです」

頬にかかる吐息に、ぞくぞくする。

「君は僕のことが好きなんです」

あたしに言い聞かせるように、明智さんはそう言うともう一回唇をふさいだ。



この後のことは……ご想像にお任せするわ…。



初UPした時のコメント:久々に金田一〜の明智さんが復活しました。
ってこれもまた裏行きですか?(未成年者考慮のため)
すみません、修行に行ってきます。

2004/3/22 以前の作品

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