「こんな夜中まで残業ですか?」

言葉についとげが混ざるのを自分でも抑えられない。
もう深夜もいいところだ。
電車だってあるかないかわからない時間で、しかもずぶぬれのその格好は、かなり危ない。

「あ、大丈夫ですって」

気軽な彼女の言葉に。

「大丈夫じゃないでしょう!」

少し強めに言うと、助手席に座っていた彼女は黙り込んだ。

「すみません、少し言い過ぎました」
「あ、いいえ…」

彼女の名前は 。あの、金田一一の遠縁に当たる女性だ。
とある事件で、本当に偶然に出会った彼女だが、いつのまにか彼の心の中に住まっている。
(きっと、あの言葉だな)
と、彼は思う。
「いったい、警視はどちらの味方なんですか!!」

血の気の多いノンキャリアの誰かにこう言われ、何かを言う前に彼女がさも当然とばかりにこう言った。

「え? 正義の味方じゃないんですか?」


それが自然に出た言葉で。
あまりにもタイミング的にも絶妙だったので覚えている。
それから。
それからだ。
彼女を目で追い出したのは。
自覚すれば自覚するほど、彼女にのめりこんでいく自分を知る。

(それなのに気がついてくれないのは、私の努力が足りないからかな?)

BMWを運転しながらふと思う。
鈍感なのにもほどがある。
それとも彼女には今まで使ってきたような言葉よりも、もっとストレートに言った方がいいのかもしれない。

「私の家の方が近いです。服を貸しますから来て下さい」

少し、まだ怒った声を出しながら、ミラーに写る自分をちらりと見て、彼女に言葉をかける。
眼鏡の奥は少し剣呑な光りを放っている。

「え? あ、その」
「いいですね」

きっぱりと言い切って、彼、明智健悟はハンドルを切った。







今日は本当についていない日だった。
ざあっとシャワーを浴びながらは振り返る。
上司から残業を頼まれ、その後、同僚の恋愛相談にのるはめになり。
傘も持っていないのに、雨が降ってくる。
しかもいきなりの土砂降りだった。
走って最寄り駅まで行けば人身事故のために復旧には時間がかかると言われ。
とほほな気分でいたら、たまたま明智から電話が入ったのだ。

『今、どちらにいらっしゃるんですか?』

まだ家に戻っていなかったから心配してくれたらしい。
電話に出ると、すぐにBMWに乗って迎えに来てくれた。

「…っ、その格好で今までいたんですか…?」

肯定すると、車に押し込められた。
自分の背広をすぐ脱いで、かけてくれもした。
どうやら、下着が透けて見えていたらしい。
それから、しばらく彼は怒っているように思えた。

(……だって、仕方ないじゃない?)

少し言い訳を自分にしてみる。
けれど、怒っている(なぜだかはよくわからないが)エリートキャリアには逆らえない雰囲気がある。

さん」
「あ、は、はい!」

急に話し掛けられ、はシャワー室でびくりと身体を動かす。

「着替えを置いておきます」
「はい、その、すみません」

謝りながら、はシャワーを止めた。
下着を身に付け、明智が出した着替えを身につける。
男物のYシャツは、少し大きい。

(明智さんの匂いがする)

そう考えただけで、頬が赤くなる。

(あたしのこと、なんだと思ってるんだろう)

一応、お互いもういい大人だ。
こういうことをされると期待してしまう。
それでなくても普段から明智は自分に優しい。

(知り合い、だからかな)



ゆっくりと、出ると明智が立っていた。

「あ、あの。これちゃんと洗って返しますね?」
「結構ですよ」

なんだか今夜は笑顔が怖い。

「あの、明智さん?」
「もう遅いから泊まってください」
(流石に、それはまずいのでは)
「あの、明智さん。やっぱり、あたし」
「ここまでやっても、やっぱり貴方は気がついてくれそうにもありませんね」

近寄られて、は思わず後ずさりする。

「明智さん?」

かすれるの声。
壁まで追い詰めると、上目遣いに見られて、それがなんとも誘っているように見える。

「私は、君を、もう帰したくないんです」

いや、正確に言うと、帰せない。

「明智、さん」
「健悟って呼んでも構いません。以前、そういいませんでしたか?」



初UPした時のコメント:初明智警視。 なんとなく、イメージ的に浮かんだものを本能のままに作成。
そしてそのままUP。
しかも出来立てほやほや。やばいですね、オイラ。
ヒロインの「正義の味方〜」は、某少女漫画より引用。
使ってみたかったんです、すみません(土下座)

2004/3/22 以前の作品

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