僕の『封印』。
人修羅としての技能、まあなんていうか使える魔法や戦闘スキルだけど、それらとマガツヒ(あの世界で悪魔たちがマネカタから摂取していた感情というか生気というかそういう類)を自然に身体に取り込まないようにするための、多重封印。
体の中をうごめいて僕の力の源になっているマガタマ25個たちと仲魔がそれらを抑えてくれていて、僕はこの封印は極力解かないようにと心がけていた。
勿論、それは僕自身が死んでしまうことがあってもだ。
そのことをさらりと説明すると、ナミさんの拳骨とみんなのあきれた顔だった。
「なぁ、お前。無表情なのも封印のせいか?」
ウソップの言葉に僕は『半分』とだけ書くと、ルフィが「よし! 判った」と胸を張る。
「お前、封印といちまえ」
『いやです』
それから僕はサンジの横でみんなの食べた食器を洗うのを手伝ったり、船の掃除をしはじめた。
『助けてもらいましたし、美味しいご飯を頂いていますから』とメモに書くと「そんなの気にしないでいいよぉ〜、ちゃん」とサンジが笑いながら頭を撫でてくれた。
彼は僕の身体を見てしまった手前、罪悪感っていうのもあるだろうし、何よりも半分とはいえ肉体が女なので優しいようだ。
ゾロはゾロで「強い」というピクシーの言葉を確認するかのように時々僕に殺気を飛ばしてくるから無視している。
ナミさんがそんなゾロを叱り飛ばしてくれる。
悪魔らしくない、なんていわれたけれど「恩には恩を、仇には仇を返すのが悪魔なので」とメモ帳に書くと微妙な顔つきをした。
ウソップは面白い嘘を教えてくれるので、実は僕のお気に入りだ。
話を聞いても無表情な僕の反応を心配してるけれど、僕が手を叩いたり、メモに感想を書いて手渡すとにっこり笑顔を見せてくれて話を続けてくれる。
そしてルフィは。
「なー、お前、封印といちまえよー。俺別にかまわねぇからよ」
僕は構うんですが。
僕はデッキブラシをもって首を横に振る。
相変わらずの僕の無表情に、ぷくーーっとルフィは頬を膨らませた。
「お前、一回も笑わないじゃねーかよ。そんなの楽しくねーぞ。俺が」
お前がかよ。
…って突っ込んじゃった。思わず。
「仲間なのによぉ」
僕は首を横に振って否定しながら掃除した。
いや、本当しつこい。
…僕がなんの制約もなく、悪魔でもなく、彼らの漫画やアニメの一ファンとして…そう、本当に一番最初の『あたし』でありであったのなら僕は彼らにほいほいついていっただろう。
だけど今の僕は異質だ。
悪魔の実の能力者たちよりも、もっと強大な存在に変わり果てた。
人間にとってはその強さは害にしかならないと僕は思ってる。
人の心に深入りしないよう、ただ恩は返さなくてはいけないからこうして掃除とか手伝っているけれど。
けれど、僕には人の仲間は必要ない、と思う。
ストックの仲魔たちだけでいい。
そうひそかに思う。
ちゃんとした境界線を、ルフィには見せたほうがいいんじゃないだろうか?
僕と君達とは違う生き物なのだと。
そうすれば、彼もきっと何も言わなくなるだろう。
チャンスはあった。
一応、麦わら海賊団は弱小といえども海賊で、襲われることもしばしばなのだそうで。
ゴーイングメリー号より多少大きな船だ。
大砲を撃ってきたのをルフィがゴムゴムの風船で跳ね返す。
「しっしっし! が悪魔なら俺ぁゴム人間だ」
僕はそれを見ながら、敵船を見つめた。
「ちゃんはナミさんと一緒に船室に行ってな」
サンジの声。
「さっさとしねぇと、降りてくんぞ」
ゾロの声。
「よぉしっ、お前ら、頑張って…」
ウソップの声。
「お前はこっちだろうがウソップ!」
「しっしっし、うんじゃ、やるぞーーー!!」
「ほら、」
そう手をとられて中に入ったけれど、しぶとい海賊が中にいて。
「ひゃああっ!!」
ナミさんの悲鳴に反射的に僕は立てかけておいたデッキブラシを掴んで、それを一閃。
脳天を強打して失神させると、そいつの身体をなんとか引きずって部屋から出す。
「!」
こくり、と頷くと部屋に入ろうとした海賊達数人の前に出る。
「なんだぁ、このガキ!」
「こいつ、目の色金色だぜ。売ればかなりの額になるんじゃねぇか!?」
「てめぇらっ!!」
目を血走らせて怒ってくれたウソップよりも先に。
「こんのっ」
数人蹴り倒して、こっちに向かおうとしてくれるサンジよりも先に。
「ちっ」
刀て何人かを抑えてるけれど、目だけでこっちの状況を知って動こうとしてくれるゾロよりも先に。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
ゴムゴムの、がつく必殺技を放とうとするルフィよりも先に。
僕の両手はデッキブラシを槍に見立てて、本来使われない用途に役立てていた。
伊達にソウルハッカーズで最終的な武器は槍にしてはいないし、ペルソナ3ではよく天田君の動きを見て把握していたわけじゃないのだ。
人間の子供レベルの体力しかないから、そうこう真正面で受け止めるってことは出来ないけれど、受け流して、交わして要点だけつけば。
どさり、という音を立てて男達が倒れていく。
「すっげ〜〜〜〜!」
ルフィの歓声で我に返った。
しまった! デッキブラシじゃなくてペルソナ使えばよかったんじゃないか?!
使えるかどうか、あの道具(召喚銃)がないからいまいちわからないけれど。
「、無事?」
部屋から飛び出してきたナミさんにこくりと頷きながら、僕は無表情だけれどそーっと他の男の人たちを伺う。
皆受け入れたっていうか「やるじゃねーか」みたいな笑顔でばたばたと他の海賊をやっつけてしまい、倒れた連中は落としたりなんだりして。
しまった。
本当に、しまった。
いい機会だったのに。
それから僕はそれを数回繰り返し、結局ペルソナを出すまでもなく相手を倒してしまい、ストックの仲魔たちに呆れられるやら笑われるやら。
ナミさんたちには戦闘要員と半ば認められ。
そして。
「なぁな、もっかいお前ブラシでくるくる回してみろよ」
ルフィには毎日捕まってしまっている。
僕、いつになったらこの船から下りられるんだろうか…。
2007.03月頃UP