大雨が振り出したその場所に、僕を背負ったウソップとナミさんがメリー号の前に到着したら、大きなライオンと男の人がいた。
どうもメリーに火をつけようとしているらしくて、どうしようかと悩んでいる二人に僕は小首をかしげた。
メリー号に早く乗って出港準備をしなくちゃいけないんだそうだ。
荷物は店に預けていたそうで、今もっているけれど…。
僕は。
僕は、このままメリーに乗っていかなくちゃいけないんだろうか。
あの子達は僕の心が壊れたといっていた。
欠けてしまった理由は、もともとの僕の心が壊れたものだから気にしなくてもいいのに、皆ルフィと同じようなことを言うんだなぁ、とどこかで思う。
ストックの仲魔たちとは相変わらずリンクが切れている。
それを不安には思わないけれど、彼らは僕の決定したことに異は唱えるけれど最終的には任せてくれる連中だ。

「どうする…!」

僕はとにかく、二人は困っているから動かないと。
それにこの二人は僕がペルソナを出しても、なぜか怖がらなかった。
それが本当かどうか、もう一度くらい試してみたっていいだろう。
きぐるみ着た男の人をウソップが倒した。

「見、見ろ! やっつけたぞ!!」
「まだライオンがいるでしょ!!」

ナミさんの言葉に、僕が口を動かす。

ペ ル ソ ナ

どくんっと身体の中から、もう一人の僕が沸きあがる。
その異形に遠目から見てもおびえたライオンは、びくりと震えると一目散に逃げ出した。
僕とサタンは同じだから、同じよう動きながらそれを目で追っていく。

「逃げた!」
「でかした、!!」

…やっぱり、おかしいや。
なんでペルソナを怖がらないんだ、この人たち。

「今のうちに乗り込め!!」
、それ引っ込める!」

ナミさんに頭をぽすんとたたかれて、僕は瞬間的にサタンを引っ込めた。
…。
なんで怖がらないんだろう、この人たち。
僕はナミさんに手を引っ張られてメリーに乗り込んだ。

「すぐに船を出す準備をするわ。……、傷とか、大丈夫なの?」

サタンのスキルで内臓は治ってるし、見た目はあれだが動けないわけではないから僕が頷いてある間に。

「ルフィ!急げ急げ!! もうロープがもたねぇ!!」
「すげぇ雨だな」
「ナミさ〜ん、ちゃ〜ん、ただいま〜〜〜!!!」
「ぐず!!」

ナミさんの呟きがよく聞こえる。
僕はぬれるのもかまわずに一緒に外に出ていた。
…右手にある、ヒメのタカラモノはぬらさないように手の中に入れたまま。
ゴムゴムの〜という声と一緒に、ルフィが一番最初に船に戻ってくる。

「お、。なんだよ、お前来なかったじゃねーか、なにやってたんだ」

見下ろされるけれど、僕には今説明する術(ペンとメモ帳)がないから小首を傾げただけ。
そのうちにゾロとサンジも船に乗り込んで、ゾロはともかくサンジはなんとも言えない顔つきになる。

「ルフィ、後で説明するわ! 港から離れるわよ!!」

ナミさんの言葉と同時に、ウソップがロープを切った。
船が一気に港から離れていく。

「あの光を見て」

ナミさんの言葉にその光を目で追う。
島の灯台…導きの灯。
あの先に偉大なる航路…グランドラインの入り口がある。

「どうする?」
「しかしお前ら何もこんな嵐の中を…なぁ?!」
「よっしゃ、偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!」
「オイ!」

ウソップの話を誰も聞いてなくて、サンジが樽を用意する間にルフィが僕の前に背を向けた。

、お前もやろう。おんぶだ」

僕は。
僕は。
とん、と肩を押されたことと引っ張られたことでルフィの背中に乗ってしまう。
押したのはゾロ。
引っ張ったのはルフィ。

「さっさとしろ」
「な〜にやってんだ〜? 

雨にぬれたルフィの身体は、冷たくなかった。
なんでだろう?
アニメや漫画で知っていたはずの彼らの熱を感じるからか、それとも忘れていたからか。
それとも僕の中の僕『ペルソナ』を怖がらないウソップとナミさんのせいなのか。
僕がいることが当たり前だというようなゾロとサンジと、そしてルフィのせいなのか。
それとも。
僕の手の中にいる、ヒメのタカラモノのせいなのか。
僕はおとなしく、ルフィの背中におさまった。

「何持ってんだ?」

僕の握り締めた拳に気がついたルフィがそれに触ろうとするから、僕はとっさにその手を隠す。

「…?」
「ルフィ」
「おう!」

ゾロに呼ばれてルフィは僕を背負ったままそこに行く。

「俺はオールブルーを見つけるために」
「俺は海賊王!!!」
「俺ぁ大剣豪に」
「私は世界地図を描くため!」
「お、お、俺は勇敢なる海の戦士になるためだ!!」

かかとを樽に乗せていく皆。
僕はそんな信念はない。
僕はそんな夢はない。
ただ流されて、ナガサレ…。

「でもっては、その金色目玉をぴかぴかきらきらに戻すことに!!」

…っ!
ルフィ、勝手に何言ってるんだ。
僕は自分を背負っている未来の海賊王を見つめると、皆が笑った。
かかとが上がって。

コォン!! 「「「「「行くぞ!!! 偉大なる航路!!!!」」」」」




こうして僕はグランドラインに出ることになった。
こうなったら仕方がない。
もともと流されるままに生きてきたんだ。
こういうこともあるし、それに…。
…ヒメ。
君は、世界を見たいって言ってたからね。
僕は彼女のタカラモノ、僕がかつて作ってあげたペンダントを収めた拳を見る。
だから、世界を見に行こう。
彼らのことを仲間、とはまだ思えない。
僕の仲魔はストックの悪魔たち以外にはいなくて、君達は僕の守るべき人間だったのに。
僕は最終的に、君を守れなかったね。

最後にあったときの、泣きそうで怒りそうな彼女の顔が思い出された。

謝ったところでもう彼女には届かない。
それに今のこんな僕が謝ったところで許してはくれない。
孤児院の子供たちのあの場所には戻っていいとも思うけれど、今の僕の姿を見たらまた泣かしてしまうし、あの子供たちとウソップとナミさんとサンジは約束してしまったし。
身体の中のマガタマたちが、笑ったような気がした。

約束は誓約、誓約は契約。

悪魔にとって契約は絶対に破ってはならないこと、とストックの仲魔たちに教えてもらった。/そんなことは言い訳だ。
だから僕は、前のように(どんなようにだか忘れてしまったけれど)彼らと暮らしていた頃程度には感情を出さなくちゃいけないわけで。
あまり期待しないでほしいよ、ヒメ。/おまえ自身はどうなんだ
僕はもう、どうしようもない、から。/俺たちは期待している。




僕はきっと、そう、きっと。





もう麦わらの海賊王は誓約して、契約した。


己の船に。


あぁ、もうこうなったらお前はそのまま流されて、取り戻せ。
離れるなど、もうできやしないのだから。
感情を、大事な、何かを。



マガタマたちの言葉を、僕は聞かなかったことにして、ただルフィの背中で目を閉じた。


2007.04月頃UP

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