「オホホホ!! 無駄な抵抗はおよしなさいっ!!」
「そんなに守りたけきゃ守ってみろ!! この鯨は我々の町の食料にするのだ!!!」
自分から弾に当たっていったクロッカスとなのったおじいさんの姿をそう二人は笑ったから。
僕はさらに砲撃をしようとする二人の前に立つ。
勢いをつけて、船の手すりの上に立って、二人を見下ろした。
王冠をかぶった男と、ポニーテールの女の人(こっちはどこかで見覚えがある)は、そんな僕に戸惑った。
「どきたまえ!! 我々の捕鯨の邪魔をするな!!」
僕はただ彼らを見下ろして、少し手を広げてみせた。
「ちぃっ! 邪魔するなら…」
あまりの展開についていけないクルーを尻目に、この船の船長は動いていた。
すなわち。
ガン!!
「なんとなく、殴っといた!!」
…ルフィって女の人も平気で殴るよね。
鯨に食べられたと思った僕たちを襲ったのは、描かれた空と鳥。
そしてなぜか小島と家だ。
幻だとか夢だとか皆が言っている間に、同じく鯨に飲まれていたのか大王イカが襲い掛かってきた。
それをやっつけてくれたのが、花のような髪型をしたクロッカスさん。
レッドラインに頭をぶつけ始めた鯨び、彼は胃酸の海に飛び込んで行き、代わりになぜかルフィとさっきの男女が飛び込んできた。
「ルフィ?」
「…」
「よう! 皆、無事だったのか。………とりあえず、助けてくれ!」
三人を助けたのはいいけれど、そのうち二人が持っていた武器で鯨の内部を攻撃した。
そして冒頭になるわけで。
僕たちはその男女をとりあえず捕まえておいてクロッカスさんの話を聞いた。
この鯨の名前はラブーン。
西の海(ウエスト・ブルー)にのみ生息する世界一大きな鯨。
気のいい海賊たちと一緒に降りてきた小さな鯨のラブーンの仲間は、その海賊たちで。
「必ず世界一周しここに戻る」という言葉を信じて、この場所で待っていた鯨は、50年という歳月を経て、今ではリヴァースマウンテンに向かってほえ続け、そして頭をぶつけている巨大な鯨になっていた。
医者のクロッカスさんが作った水路を経て外に出たのはいいけれど。
「ん? どうしたの。…あぁ、そいつらね」
「こいつらどうしよう?」
「捨てておけ、その辺に」
そういわれて、すぐさま捨てるルフィ。
「で? お前ら何だったんだ?」
「うっさいわよ! あんたには関係ないわ!」
…ん?
なにやら口論してるようだけれど、僕はそれには興味がないので何も聞かず、足元に転がったそれを拾い上げる。
これは確か、ログポース。
「お、なんだそりゃ? 」
ルフィは船長だ。
だから船の上にあったものは、一応彼に渡すべき、と僕がそれを持たせると「落し物か?」というのでこくりと頷く。
「んじゃ預かっとくか」
こくり、とまた頷く。
「お前、封印といて声出せよ」
僕は首を横に振ると、岬の灯台がある場所に船をつけようとするウソップの手伝いに歩いていく。
封印といた僕の存在は、人間にとっては害でしかならないって教えたほうがいいかな?
悪魔化した僕は、マガツヒを周りから摂取する。
人間や生きてるものの感情や気力っていうのを食事にする行為は、正直僕自身が受け付けない。
かつて僕が人修羅として戦っていたあのボルテクス界じゃ自動的にそれらをわずかに摂取していたようで、食事の心配とかしなくてもよかったけれど、さすがに、ねぇ?
食べる側が、食べられる側の心配か?
嘲るようなマガタマの言葉は聴かなかったことにする。
こちらの世界に来てびっくりなのは、マガタマたちに意思があったことに気がついたことだ。
まるで漫才の突っ込みが身体の中にいるみたいとか思ったのはずいぶん前、なんてそううっすら考えると、マガタマたちは少し笑いながら僕の身体の中で動く。
岬に船を横付けすると、クロッカスさんはお茶を出してくれた。
話は続く。
僕は伸ばされた腕につかまり、ルフィのすぐ脇で話を聞くことになった。
にしても、ルフィ…漫画とかではわからなかったけれど、スキンシップ旺盛なのか?
まるで僕を逃がさないように、腕を回して話を聞くルフィに僕はかまわずクロッカスさんの話に耳を傾けた。
ラブーンの仲間の海賊たちは彼を置いてグランドラインから逃げ出した。
その事実をラブーンは聞かない。
理解はしてるんだろう。
仲間たちは自分のところには戻ってこない。/約束を破るのはいつも人間。
「…それ以来だ。ラブーンが、リヴァースマウンテンに向かって吠え出したのもレッドラインに自分の身体をぶつけ始めたのも」
「…」
ルフィ?
「まるで今にも彼らは壁の向こうから帰って来るんだと主張するかのように…!!」
その後何度も説得したが、事実を受け入れようとはしなかった鯨は、今もほえている。
「なんて鯨だよ…。裏切られてなお待つか」
「待つ意味もねぇのに…!」
「そうだ…!意味をなくすから、私の言葉を拒む。待つ意味を失うことが何よりも怖いのだ」
ルフィはしばらく聞いていたが、やがて僕の腰から手を離すと、静かに立ち上がって黙ったまま僕の頭に自分のタカラモノをかぶせた。
なにかする気だな。
そう思って、見た僕の目の前で…。
いや、うん…。
思わず僕は額を押さえる。
いいのか、それで…船長。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「は?」
「何やってんだあの馬鹿はまた」
「ちょっと目を離した隙に…」
いや、ナミさん、サンジ、ゾロ。
気がつこうよ、今の時点で。
「ゴムゴムのォォォォォォ生け花!!!!!!」
…あー…。
「ありゃ、マストじゃねぇか…?」
「俺たちの船の…」
「そうメインマストだ……って船壊してんじゃねぇよ!!!!」
そう、ルフィは僕の目の前でメインマストをたたき折ったのだ。
まあ、その音はラブーンの声で聞こえなかったようだけれど。
次の瞬間、ルフィとラブーンの戦いが始まった。
見ていた皆は何がやりたいのかわからなくて声を張り上げる。
そのうちに、「引き分けだ!」とルフィが鯨をとめた。
「俺とお前の勝負はまだついていないから、俺たちはまた戦わなきゃならないんだ!! お前の仲間は死んだけど、俺はずっとお前のライバルだ!」
僕は鯨に目を向ける。
戦ってできた傷の痛みじゃなくて、新しくできた待つことの理由ができて、彼は泣いている。
「俺たちがグランドラインを一周したら、またお前に会いに来る」
ぼろり、と鯨が涙を落とした。
「そしたらまた喧嘩しよう!!!」
返事をするかのように鯨が吼えた。
ラブーンに理由を与えるということはいいことなのだとは思うけれど。
「よーし、んじゃ約束の記しでも描くかな〜。おっさん! ペンキねぇか?」
「ペンキ?」
「黄色と白と、まぁ、とにかくいっぱいだ!」
クロッカスさんに話しかけながら、喧嘩の余波で傷から抜かれたメインマストを持ったルフィに僕は近づく。
「お、! も手伝えよ」
手伝いぐらいはいつでもする。
僕はルフィのタカラモノを頭からとると、じっと彼の目を見た。
「?」
けど、その前にすることあるんじゃないのか。
「なにを?」
なにを? 今しがたルフィは自分の仲間を傷つけたじゃないか。
僕はそう思いながらルフィのタカラモノを手渡す。
ルフィはそれを自分で自分の頭にのせた。
「仲間?」
まさか一番大事な船は仲間じゃないのか? 君の。
「うぉおお、そうだった!」
ルフィはウソップに怒られながら船のほうに行って、メインマストをなんとか元あった場所に突き刺すようにおく。
それもまた微妙な傾き具合だが、ゾロとウソップが支えた。
ウソップがかなり怒っている声が聞こえるけれど、それを無視してぺこり、と頭を下げて大きな声で。
「ごめん! メリー!!」
明るい謝り方だ。
そう思いながら、僕はクロッカスさんが持ってきたペンキの蓋をかぱりとあけた。
「にしししし」
笑いながら麦藁帽子をかぶったルフィが僕の隣に来る。
「花のおっさん、でけぇ筆みてーのもあんだろ? 貸してくれ」
「何をするつもりだ?」
「んー、約束の印を描くんだ!」
「ちょっとまっとれ。その前にラブーンの治療を行う」
でかい絆創膏を持ってクロッカスさんが歩いて鯨のほうに行ってしまう。
「仲間って、言ったよな」
?
「メリーは俺の仲間って、お前、言ったろ?」
僕はじっと彼の目を見つめる。
以前にもあった、まるでストックの仲魔たちとの会話のような心の対話。
それがあたかもできているような、ルフィとの、この視線だけの対話。
「お前も、メリーを家にする仲間だ」
違う。
僕は…。
「あぁ? まーだ、なんかぐだぐだ言ってんのか? お前は仲間だ。俺がそう決めた俺の仲間だ。メリーの、ウソップの、サンジの、ナミの、ゾロの仲間だ。進水式にだって参加したじゃねーか」
ルフィの手が僕の頭をなで、そのまま僕の頬に指をするっと這わせたかと思うとつまむ。
「俺のこと叱ってくれてありがとな! メリーに謝るの忘れるとこだった!!」
にっ! と笑う笑顔は、たとえでいうと太陽のような笑みで。
僕はただしばらくその太陽を見て、そしてうつむく代わりにこくりと頷いた。
仲間じゃないけれど、そのお礼は受け取るよ。
「あ、またお前なんか否定したな」
ぐに。
「お前はまた何をを苛めとるか〜〜!!」
「苛めてねーって!!」
ナミさんがそう止めてくれるまでしばらくそれは続き、ようやくそれが終わったその後は、僕とルフィでラブーンの額を中心とした約束の印作成に時間がとられた。
約束の印はなんだって?
大きな大きな、ゆがんではいるが麦わらをかぶったどくろマークだよ。
「んん!!! よいよ!!! これが俺とお前の『戦いの約束』だ!!!」
…かなりゆがんでるけれど、本人同士が納得してるみたいだから、いいか。
僕はルフィの隣で、彼と似たようにペンキだらけになった服を着たまま、鯨を見上げ、後でしっかりナミさんに叱られながらシャワーを浴びることになる。
2007.04月頃UP