「俺ハ魔獣・ケルベロス。…今後トモヨロシク…ト、言ッテイイノカ?」

ドォン! という音と閃光と一緒に来てくれたケルベロスはそういいながら、僕の後ろで待っていたサンジとルフィたちを見つめていた。

「ナァ? 人修羅」

…いいんじゃ、ないかな…とりあえず。
僕の返事にケルベロスは「はふう」と大きくため息をついてから、ルフィたちに歩み寄った。

「人修羅ノ願イダ。途中マデノセテヤロウ」
「お前はのマガツヒってやつ、とらないよな!?」
「ハァ?」
「いや、こいつさ…」

…つくづく思うけれど、麦わら海賊団の人ってのきなみ順応性が高くないか?
一応、ケルベロスは地獄の番犬なんだけど。







あれから僕はずっとルフィの背中におんぶされて移動していた。
別にマガツヒを摂取するのにキスする必要はなかったけれど、前の『マニアクス』時代からのくせで女の悪魔たちは僕に対して性的な接触というか、そういう類をしかけてきたからその名残だろう。
今の僕の身体は人間の子供で、しかも男の子だからあのピクシーの行為もそうそう子供が見てはいけないシーンではなくて…なんだろう? 微笑ましいというかそういうシーンじゃないのかな?
なのにルフィは怒ったままだ。
僕が降りようとしてもずーーっと「そこにいろ!」と言いながら歩いて、村まで入ってしまった。
何を怒ることがあるんだろうか?
ピクシーにとられたマガツヒ分はルフィの背中で回復できた。
雪道を歩かないですんだから、体力も精神力も使わないですんだからだ。
船番としてカルーとゾロ、それから念のためにピクシーから借りた風の精霊・エアロスがメリーを守ってくれる。
エアロスには「襲われたら反撃しろ」としか言っていないけれど…確か、そんなに激しい戦闘は船ではないはず…だよな。
しばらくおとなしくルフィに背負われていたら、ナミさんをドルトンという人の家にサンジが運んでいくのがわかって、僕達は外に出たままだった。

「よぉーし! 見てろよ〜!!」

あ、機嫌が直った。
ルフィは僕をおろしてくれると見る見るうちに大きな雪だるまを作り上げる。
ジャアクフロストよりも大きいんじゃないかな…。

「ハイパー雪だるさんだ!!!」
「雪の怪物、シロラーだ!!!」
てめぇら、ぶっ飛ばすぞ!!!

あ、部屋の外からサンジの文句が聞こえる。
僕は雪の彫像たちの上で遊んでいるウソップとルフィを見上げた。
また怒られるよ、降りたほうがいいんじゃない?

「ん? あ、おい、ルフィ」
「おぉ」

ウソップが僕を指差して、ルフィが僕を見つめた。

「また怒られるから降りろってよ」

なんでそう僕の考えを読めるのか、不思議でしょうがないよ…ルフィ。
僕はそう思いながら先にドルトンさんの家の中に入った。
家の中で僕らはこの国には魔女と呼ばれる医者しかいないことを聞いた。
Drくれは。
あぁ、そういえば、あのトナカイの船医の師匠がそんな名前だったのを思い出した。
話を聞きながら、ふと船長の方を向くとナミさんをたたいて起こしている。

「あのな。山登んねぇと医者いねぇんだ。山、登るぞ」
「無茶言うな! お前、ナミさんに何さす気だぁ!!」
「いいよ。おぶって行くから」

行くのは決定してる。
それは僕が漫画やアニメで先を知っているから、という理由だけじゃない。
今までじかに触れ合っていたナミさんなら行くに決まっている。
そう思う僕がいて、彼女のためにできることは、すべてやろうと思う僕がここにいる。
…ストックの、空飛ぶ連中に声をかけてみるけれどなしのつぶて。
本当に皆は何やってんだろう。
とりあえず、呼びかけにこたえてくれた、少なくとも僕よりも移動速度が速い彼を出さないと。

「あれ? ?」


外に出ると僕はナミさんの行く用意をして、ナミさんをおぶったルフィの前で仲魔を呼んだ。
その仲魔こそが。

「俺ハ魔獣・ケルベロス。…今後トモヨロシク…ト、言ッテイイノカ?」

冒頭になるわけで。

「こ、これは…?!」

悪いけれど説明してる暇もない。

「オイ、人間。ソノママ俺ノ背ニノレ」
「え? 俺か?」

ケルベロスがかがんでくれて、ルフィがナミさんを背負ったまままたがる。

「イイカ? 俺ハタダ、オ前達ヲ運ブダケダ。途中ナニガアッテモ手ハ出サン」
「…」
「不満ナノカ、人修羅」

ファイアブレスぐらいはしてくれるよね?

「俺ガ動ケバ女ノ身体二響ク。戦ウノナラバオ前達ガスルンダナ。アト、人修羅、オマエモ来イ」
「なに言ってんだ、ちゃんは…」

うん、判った。
僕も行くよ。
僕は大きく頷いてサンジの言葉をとめた。
にししし、とルフィがナミさんを抱えたまま笑う。

「こちらからのコースには【ラバーン】がいる。肉食の凶暴なウサギだ。集団に出くわしたら命はないぞ!?」

ドルトンさんの言葉にルフィとサンジは顔を見合わせる。

「ダトサ、ドウスル人間」
「ウサギ? でも急いでるんだ…平気だろ。なぁ?」
「あぁ、蹴る!!!」

ペ ル ソ ナ

どくんっと身体の中から、もう一人の僕が沸きあがった。
その姿を見て息を呑む音が聞こえる。

我以上に凶暴な生き物はいまい?
「自分のこと卑下すんな」

ウソップが僕の頭を小突いた。
一瞬だけ僕とサタンの動きが止まる。

「無理すんなよ」

うん、と頷くとサタンが僕の身体を持ち上げる。
精神体のはずのペルソナだけれど、船の帆をたたんだりできるからまさか、と思ってたんだけれど上手くいった。
僕のペルソナは、一部分がちゃんと物質化できるんだ。
戦闘以外には。

「よし、行くぞ!! ナミが死ぬ前に!!!」
「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ!! この野郎!!!」
「行クゾ、人修羅」
「…」

僕達は走り出した。
向かうのはドラムロッキー。
Drくれはがいる、王がいなくなった城。

走る。
走る。
ひた走る。

途中でルフィとサンジがポリシーとかどうのとか言っているけれど、僕はただ視線も彼らに向けずにサタンを動かしていた。
ケルベロスは時折呼びかけてくるルフィを鼻で笑ったりしながらも、それでも黙ってしたがってくれている。

「なぁ、犬」
「ケルベロス、ダ。人間」
「なんでお前らはのこと名前でよばねぇんだ?」
「あぁ、そういやピクシーもちゃんのこと人修羅としか呼ばなかった、よな!」

そういいながらラバーンの一体を蹴り飛ばすのはサンジだ。

「悪魔ニトッテ名前トイウノハ特別ダ。本当ノ名前を自分以外ノ存在ニ知ラレタ場合、弱イ悪魔ナラバ従ワナケレバナラナクナル」
「いっ!」
「じゃ、じゃあちゃんが俺達の言うこと聞いてくれたり…」

え、いや大丈夫だよ、そのあたりは。
僕はふるふると首を横に振る。

「人修羅ハ、コウ見エテモ大悪魔ダ。貴様ラゴトキデハ人修羅ヲ縛ル事ハ無理ダナ」

ソレニ、とケルベロスは要らないことまで言った。

トイウ名前ハ人修羅ニトッテハ表向キノ名前デアッテ本来ノ魂ノ名前デハナイ」

…そうなの?
ということは、僕としては「」が本来の名前になるのかな?
そう目線をやると精神的につながりのあるケルベロスが肯定の意味合いでぐるる、と鳴いた。
まぁ、ここまではよかった。

「何?! って名前は偽モノなのか?! おい!、本当の名前教えろ!!」

…ルフィの前というのがまずかった…。
ケルベロス…この落とし前というか、責任はどうとってくれるのかな?
僕の考えにケルベロスは鼻で笑った。

「御遊ビハココマデダ、人間。人修羅」

ん?
僕達の目の前に大型の凶暴なウサギ、ラバーンの団体様が来ていた。
僕の存在とペルソナ、それからケルベロスの存在が普通じゃないってうすうす気がついているのだろうけれど、何か強い感情でそれらに対する恐怖を押し流してる。

「なんだ、こいつら…!」
「いいか、犬! ルフィ! お前らは戦うなよ!? そのままナミさんに響いちまうからな!」
「俺ハ、ケルベロス、ダ!!」

それが合図のように、白い巨体が宙に舞った。



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