(5.5)


くそっ、あのオカマ野郎。
肋骨の何本かは確実にいった身体をなんとか動かしていた。

「ライドウ!? あのライドウちゃんの相手があの可愛い子ちゃんなの?! あんた達、バカじゃないのよーぅ!!?」

戦っている最中に、Mr2がはいたあの言葉が頭の中をめぐる。

瞬殺よ! ライドウちゃんったら凄腕なんですもの!!
かわいそうに、あの子はライドウちゃんに殺されてるわよぉう!!
「うっせぇよ!!」

頭の中で響くその台詞に悪態をついちまう。
殺されてる?
そんなわけねぇ。
あの子は「帰ってくる」って、そうマリモに伝言残してくれたんだ!!
俺は一番近場で、そして渡さなきゃいけないものがある野郎を探す。

「おい、ウソップ」
「さ、サンジ〜!!!!」
「無事だったのか、サンジ!!」

ほらよ、とゴーグルを手渡すと「壊した」とかぎゃーぎゃー言いやがるのを尻目に周囲を見渡す。
戦争が始まっちまってた。
くそっ、ビビちゃんが泣くだろうがっ!!



そう思ったとたん、俺は目を覚ました。
かすかな寝息と豪快な鼾の中で、俺達は道端ではなくちゃんとした部屋の中に移されていたことに気がつく。
優しい雨の音。

「ぐっ」

傷が痛むが、まぁうめく程度。
これぐらいたいしたことはないだろうと、身体を起こす。
チョッパー、ナミさん、ルフィ、ウソップにくそ剣士。
ちゃんは?!
並べられたベットの上にちゃんがいなくて、俺は部屋を見渡す。

「…いた」

っ!
良かった、マジで良かった。
備え付けのベットではなくて、急遽用意したベットは入口の近くにあった。
なんとか立ち上がると、そのベットに近づく。

「オウ、待チナ。人間」

俺達でもない、聞いたことのない声に俺の足が止まる。

「大将ハ今眠ッテル。近ヅクンジャネェ」
「誰だ? てめぇ」
「ハっ」

鼻で笑いながらそいつが姿を現した。
ちゃんの側に現れたそいつは。

「変な面」
失敬ナ人間ダナァ、オイ

ぺらぺらとした紙のような印象を受ける白い身体と丸い瞳を持った、そいつは俺を見ているらしい。

「テメェノ眉毛モ変ダケドヨ」
喧嘩売ってんのか、てめぇ
「ウルセェ。大将ガ起キルダロウガ」

大将。
ちゃんのことをそういうとしたら、ルフィがよく「虫人間」という妖精と、「犬」というケルベロスと一緒で。

「お前も、悪魔か?」
「オウヨ。大将ノ仲魔・マカミ。今後トモヨロシク…?」

くっくっく、と笑うと、マカミと名乗ったそいつは長い身体をまたちゃんに寄り添うように横たわらせた。

「お前さん、ちゃんにずっとついててくれたのか?」

「イイヤ。ツイテタノハ違ウ人間ダ。アノ変ナ髪形ノ人間ヲ守レトイウ命令ダッタカラナ」

変な髪形?
俺は首をかしげながらそっと覗き込もうとした。

「ダカラ、近寄ルンジャネェ。人間」
「おいおい、マカミさんよ。俺はちゃんの仲間だぜ」
ソレ、本気デ言ッテンノカ? 人間

ひやり、と空気が冷たくなった気がする。

「人間ガ、人修羅ノ、俺達ノ主ノ仲間ニ。マシテヤ『でびるさまなー』デモナイタダノ連中ガ」

あざけるようなその言葉に俺は自分の眉間に皺がよるのを感じ取る。

「ソレニ、オ前達、大将ニ仲魔ト思ワレテンノカ?」

俺は一瞬だけ、その言葉に硬直してしまった。
仲間じゃないと拒否するちゃんを思い出してしまったからだ。
いや、そんなことねぇ、とすぐにそれを否定する。
ウソップやルフィや、それに俺自身だって見てきたんじゃねぇか。
俺はマカミをにらみつけた。

「仲間だ」
「…マァ、イイ」

どうでもいい、というような口調でその悪魔は丸っこい瞳を伏せる。

ちゃんの具合は」
「最悪ダナ。デモ生キテル」

その声が届いたのか、金色の瞳がゆっくりと開いた。

ちゃん」
「大将」

半開きのその瞳が揺らめいて、マカミに向かう。

「オウ。アノ人間・いがらむッテ奴ハ、チャント生キテル」

あぁ、そうだ。
びっくりしたよな。

ゾロとルフィとビビちゃんの話じゃ死んでてもおかしくなかったはずだ。

「アァ、約束通リ、全テハ『ノープロブレム(問題ない)』ダ」

約束通り?
俺が小首を傾げたが、構わずマカミっていう奴は額をちゃんの頬に摺り寄せてから、綺麗な光を放つ。
って、このマカミって奴にイガラムを守らせてたのか?! ちゃん!!
そう言おうとした矢先、何か小さく聞こえてきたかと思うと、多少身体から痛みが消えた、ように感じた。
…もしかして、ピクシーと似たような技、というか魔法というかそういうのが使えるのかもしれない。
くつくつとまた笑うのはマカミだ。

「ジャア、俺ハ戻ルゼ、大将」

俺には一瞥もくれずに、マカミは姿を消して行く。

ちゃん」

ゆっくりと金色の瞳が俺に向かう。

「良かった。でも、ひでぇ怪我だな」

目が「お互い様」だと言っているような気がして、笑みを作った。
俺の笑みを見て、ゆっくりと瞼を閉じる ちゃん。
うん、あの悪魔に対して聞きたいことはあったけれど、でも今はいい。
そう思いつつ、額に手をやる。
少し、熱が出てきたか。

「…ん? あれ、あ、サンジ…。起きてて、平気か? それに、はいないのか?」

チョッパーの声。

「おう、チョッパー。少し静かにな。 ちゃんなら此処にいる」
「そっか! 良かった」
「あぁ、でも熱が出てきたみたいなんだ。後で診てやれるか?」
「おう、俺は医者だ」

チョッパーの言葉に俺は小さく笑った。

「そうだな。頼むぜ、船医」

チョッパーが医者なら、俺はコックだ。
ぱたん、と小さなドアが開く音。

「サンジさん…」

声を上げようとしたビビちゃんに「しー」と静かにするように、と動作。

「静かにしてくれ。今ちゃんが一度起きたんだ」

寝息がかすかに聞こえるから、もう寝入ってしまったのかもしれないが。
ビビちゃんが泣きそうな顔でちゃんの顔を見た。

くん、すごい怪我をしていたのに…ペルを、爆弾を抱えてとんだあの人を抱えて王宮に…」

…!

「気がついて、本当に良かった…っ」
「ビビ、俺みんなの治療したいんだ。薬と包帯があったら用意しときたい」

チョッパーはそういいながらベットから降りてくる。

「判ったわ」
「よし、なら俺も料理の仕込みをさせてもらいますかね」
「サンジさん、もう少し休んでいれば?」
「いいや、ビビちゃん」

俺はちゃんと、ナミさん、そしてその他連中を見た。

「ナミさんとちゃんには俺が作ったものを最初に食べさせたいんだ」

勿論、ビビちゃんも食べてね? なんて言うと彼女は微笑んだ。

「えぇ…!」

俺とチョッパーは最後にちゃんの寝顔を見た。
額に手をやり、熱を確認するとチョッパーはぶつぶつと薬草の名前を口にし始める。
チョッパーの診断結果を聞いてから、ちゃんのは作らなくちゃな。
そう考えながら、ゆっくりと扉を閉めて外に出る。
ゆっくり休んでくれ、ナミさん、俺達のリトルプリンセス。
そしてとりあえずは休め、野郎ども。
起きたら俺のくそ美味いもん食わしてやる。

再UP

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