冒険だ!
「いいか、。この俺様と一緒に居れば怖いものなしだぞ!」
そう言ったのは長い鼻の狙撃手のキャプテン・ウソップです。
くんは大きくこくりと頷きました。
島についてすぐに「冒険だ〜!!」と叫んだ船長と狙撃手の二人にひきづられるように船に降りたくん。
航海士のナミさんに御願いされて、食料を探す冒険の始まりです。
「よぉし! 行くぞ!!」
船長さんと剣士の二人は前に歩いて行っています。
「わ〜〜〜!! お前ら先に行くんじゃねぇ! 方向音痴だろ!」
ウソップの声が響きました。
目の前に広がる大きな森に、ぎゃあぎゃあという獣の声。
ごくっと生唾を飲み込んだウソップは、震える声でそれでも言いました。
「よ、よ、よし! 行くぞ! !! 俺についてこい!!」
こくり、とまた大きく頷くくんは、差し出されたウソップの手を握りました。
「迷子になるんじゃないわよ!」
ナミさんの声を背中に受けて、四人は森の中に入りました。
森の中ではいろんな動物やいろんな植物が目の中に飛び込んできます。
歓声を上げるウソップやルフィ。
すぐに離れようとするゾロ。
ウソップの手から奪われて、ルフィが背負ったりされてしまうくん。
たくさん遊んで、たくさん食料らしいものを手に入れて。
そして少しばかり怖い目にあったりしながらも、最期にはゆっくりとした足取りで船に戻ります。
「あー、楽しかった〜!!」
「あんた達、いつまで時間かけてんの!」
びしりと叱られても船長は笑います。
「いやー、お前らにも見せたかったぜ! 俺達を襲うジャイアントタランチュラを…」
ウソップは、そんなことを言うと最後にくんに笑いかけます。
「すごい冒険してきたんだよな! なぁ、?」
手を繋いでいたくんは、ウソップの言葉に大きくまた頷きました。
「じゃ、その話を聞きながらの食事にしましょうか」
その様子にナミさんが微笑みます。
「はい、ナミさ〜ん。食料吟味して今からお食事つくりま〜す」
「サンジ〜!! めし〜〜!!」
「今から作るって言ってんだろ!!」
お昼の時間、ウソップの嘘とルフィの大きな声とゾロの相槌と、そして君の頷きが料理に花を添えたのは言うまでもありません。
それがこの船のいたって当たり前の風景なのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
むかしむかし
ゴーイングメリー号の女性用の部屋にはたくさんの本があります。
夕方、コックが作る晩御飯前のこの時間は、まったりと過ごすのがいつのまにかくんの日課になっていました。
いつも一緒にいたがる船長さんも、この時間帯だけは邪魔をしません。
「じゃあ、今日はイーストブルーの童話にしましょうか」
アラバスタという国の王女様はそう言って本を取り出しました。
悪魔であるということを理解し、人間の今の姿でも異能の力を持っているくんを最初は恐れていた王女様は数日たった今ではそんな感情を見せません。
こくり、とくんは頷くと「くえぇ」と自分を呼ぶ超カルガモのカルーの傍に座りました。
カルーの羽に背中を預けて、大きな金色の瞳を向けます。
「むかし、むかし」
そのフレーズから始まるビビの柔らかなで優しい声と、ページをめくる音と一緒に小さく波の音が部屋のBGMです。
時折、ビビの話に驚いたりくんが撫でたりする手があまりにも気持ちよいのか声を出してしまうカルーの声もそれに混じりました。
ビビは小さく口元に笑みを作ります。
くんは感情を表に出しませんが、少しだけ、ほんの少しだけ目を細めました。
それが機嫌がとてもとても良いというときにクルーだけに見せる、くんの意思表示。
それに気がついたカルガモはまた嬉しそうに小さくなります。
その優しい空間は、ビビが「めでたし、めでたし」と言うまでか、サンジの「メシが出来たぞー」という声が聞こえてくるまで、その場を包み込むのです。
「くん、今日はここまでね」
「くわ!」
こくりと頷くと、自然に出された手と羽にくんは自分のそれを伸ばしました。
二人と一羽は仲良く手をつないでキッチンに向かいます。
砂漠の国の王女様は、それが嬉しいというように笑いました。
これが、この船の夕暮れに見れる一風景です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おやすみなさい
ナミさんとビビと一緒にお風呂に入ったくんは、いつもの寝間着にナイトキャップをかぶったままキッチンにやってきました。
本当なら明日の朝ごはんの仕込をしてるはずのコックさんがいません。
小首をかしげると、被っていたそれの猫耳がへにゃん、と垂れました。
「てめぇ、くそゴム!! そりゃ明日の朝飯用に取っといたやつだ!! 吐け!!」
そんな大きな声と一緒にどかどかと蹴り飛ばしてるような音がすぐ聞こえてきて、納得すると。
「お、風呂から上がったのか」
剣士のゾロが酒の瓶をもって奥の倉庫からキッチンに入ってきました。
じ、と金色の瞳がその瓶を見つめます。
「あぁ、これか? 倉庫にあった」
それはコックに黙ってということなのでしょうか?
にやりと笑う剣士に、くんは目をただ向けるだけです。
「いいんだよ、これは」
くんはしばらく考えて、こくり、と頷きました。
「お前は?」
てとてととくんは冷蔵庫を開くと「ちゃん用! くそゴムぜってー飲むな!!」とサンジの字で書かれた瓶を取り出します。
特別にナミさんが許可をくれて作ったみかんジュースです。
その傍にはナミさん用、とかビビちゃん用、というのが並んでいました。
とくり、とくり。
ジュースをカップに注ぎ終えてしまうと、ゾロがきゅぽん! とお酒の瓶の蓋を開けていました。
カップを持つくんに自然な流れてその瓶を差し出し、くんは意図がわかってカップをそれに合わせました。
かちん!
「乾杯」
なんの、とかそういうのはありません。
ですがそれを言ったゾロは満足したように笑うと瓶の口に己の口をつけてあおりました。
くんはカップの中のみかんジュースを口にいれます。
「美味いか? まぁ、まずいなんて言ったらあの魔女になにされるかわかったモンじゃねーがな」
魔女? とくんはカップを口から離して首を傾げます。
へにゃり、と猫耳が動きました。
「あぁ、ナミだ。あいつは魔女だ。覚えとけ」
しばらく考えてから、くんは目を細めます。
その様子を苦笑いをしながらゾロはまたお酒を飲みました。
くんが飲みきってカップを流しで洗い終えるまで、ゾロは一緒にいてくれました。
「じゃあな、。明日は早ぇぞ。よく寝とけ」
どうも今晩の見張り番はゾロのようです。
彼の言葉にくんは大きく頷きました。
そのせいで帽子の猫耳が前にへにゃん、と垂れます。
「あぁ、おやすみ」
おやすみなさい。
くんは口だけ動かして、そうゾロに言いました。
「てめぇ! マリモ!! その酒どっからとってきた!!」
「いいだろ、別に」
「ゾロ、なんか食いモンもってねーか?」
「てめぇはまだ食うのか!!」
そんな声を聞きながら、てとてととくんは女部屋に行きました。
静かに部屋に入るともう寝息が聞こえます。
そーっとベットの中にもぐりこむと、ナミさんが寝ぼけているのか抱きしめてきました。
うっすらと香るみかんの匂い。
それはナミさんの使ったシャンプーの匂いなのか、それとも自分がさっきまで飲んでいたジュースの匂いなのかわかりません。
くんはその香りに目を閉じました。
誰かの存在を感じながら、安らいでいる自分をどこかで感じながら静かに思います。
おやすみなさい。
日常話2