修正前

砂浜からジャングルの中に入る。


砂浜からジャングルの中に入る。
ジャングル、というには語弊があるか。
道がないのかと思ったが、中は結構歩いたり走ったりは楽にできる空間があった。
…茂みばかりで直した 刀剣 を鉈代わりに使わなくてほっとする。
この島を発見し、全てを探索しつくして生き延びた女トレジャーハンターの話を思い出す。
島に元々あったのは鎌倉時代の木造建築物を中心としたもので、その他は漂流してこの島にたどり着いた人間が建築した物だと言っていたはずだ。
だが当時からだいぶ年月が経過しているし、手入れや修復するはずの人間も、その時に全員死んだようなのでそれらがどうなってるかもう分からない。
どっちにしろ廃墟になっているはずだ。
島独自の生命体は肉食動物は狼、草食動物として兔に鹿。そしてこの緑あふれる植物や虫…類になるだろう。
あとこれだけ自然があふれていれば食べられる植物もそこそこあるはずだ。
女の話からすると、森の奥に廃墟がありもっと奥の山の麓には山門があるらしいのだが。
……別次元の〔異界〕と同化してたら、この情報も頼りにはならないか。
わたしは森の奥を片目で見つつ、深呼吸した。


――― 〔異能:気功法  察気 さっき 〕―――

中国奥地ですれ違った〔仙人〕に強制的に教えられた〔気功法〕は、自分の中の 〔気〕 マグネタイト の潤滑をコントロールする技術だ。
これがなかなか使い勝手がいい。

今わたしが使用したのは、自分を中心として半径10m弱の範囲内に自分と敵対する生命体や罠を察知できる 技能 スキル で、 仲間内には「FPSで出てくる敵味方をマーキングするスキルか」と言われたそれだ。
時間はそう長い間は使えないが、それでも一人で行動する時は必ず行うようにしている。

使う精神力 消費MP もそんなに多いわけではないし。
反応は…いまのところない。
…とりあえず大丈夫そうだ。
視界が半分しかないので、特に右側を注意しつつ移動する。
きちんと陽の光が入れば綺麗な森なんだろうと思うが、今は空気に柔らかいが赤い色が混じっているのでそう綺麗に映らない。
これは異界特有の光の当り方だ。
普通の人間界の異界では「赤」じゃなくて「緑」だったり「黒」だったりするが。
異界の主を倒せば普通はそれで終わりだが、ここはそうじゃないのでこの空気にも慣れていかないといけない。
〔アマラ深界〕やアステカ文明遺跡で出て来た〔魔王〕の気配に比べれば楽な空気だ。
周囲の気配を探りながら小走りに移動していると、小さな川が流れていた。
元々こんな地形だったんだろうか? この島。
注意深く川の流れにそって進んでいくと、その川に両断されたように作られた石垣を見つける。
するとふいに中型犬サイズの何かが飛び出して来た。
察気 さっき で敵対している何かだということはすぐにわかるので、手に 刀剣 打刀 を出現させる。
相手は素早い。
だが対応できないわけではない。
わたしは視覚外からも飛んできた一体を見ないで切り落とす。
感触はないが気配が消えることで倒したことを肌で感じ取ると、そのまま返す格好で飛び込んでくる一体を切り落とした。
…あれ、あっけなさすぎないか。
こいつらが弱すぎるのか。
地面に落ちたはずのそれに視線をやると、紅い燐光を放つ魚のような骨が短刀を銜えたような格好の悪魔だった。
見たことの全くない、新種の悪魔。
これが別次元の生命体か。
異界内で悪魔を倒した時と同じように、それらは空中に霧散していく。
実際のところは霧散し、その 存在していた力 マグネタイト は倒した倒したわたしが自然に吸収している。
悪魔と関わる人間が一般人たちよりも霊的にも肉体的にも強くなるのは、これが理由だ。
倒せば倒しただけ、その悪魔が得ていた生体マグネタイトを得る。

ようは 敵を倒して経験値を得て〔霊格〕を上げている モンスターを殺してLvUPしている のだ。
…一部人間相手でもそのシステムが適用されているのが、今、わたしが生きている世界。
こうして霧散してはいるが、その「この世界のルール」にこの悪魔達も組み込まれているのだろう。
別次元の悪魔でも、今現在「この場に存在している」時点でマグネタイトを持っている。
どれだけかは知らないが。
血潮もつかない相手だったか、と刃を確認する。
いや、待てああいう類が雲霞の如くかかってきたら手間だ。
こういうとき、範囲系の攻撃力がないわたしは苦労する。

調子に乗って 神経すり減らして MP使いすぎて 自滅なんて目も当てられないことになったら困る。
石垣の中にあったのは、きれいに川で分割されていた武家屋敷だ。
日本庭園を含む武家屋敷を、その川自体がぶった切ったような奇妙な造りは、別次元の異界に建築物が奇妙にこの島の廃墟と同化した結果なのだろう。
屋敷の敷地としては広いが、母屋と見られる大きな建物は 2階部分が崩れているところがあるが、1階はぎりぎり入れるようだ。
その崩れているところにあの〔骨〕たちがうごめいているのが分る。
あそこから下を見下ろす形で周囲を索敵してるのか?
わたしは庭に植えられた樹木と壁の間にそっと身体を潜めて移動することにした。
〔骨〕以外にも大型の〔ナニカ〕の姿を片方しかない目が確認する。
敷地内にあるのは母屋だけではなかった。
物置小屋にしては立派な造りの一階建ての建物が見えた。
壊れているのは扉ぐらいだ。
母屋のあの〔骨〕たちから姿を隠すにはちょうどいい。

察気 さっき が反応している敵対生命体は三つ。
壊れた扉を踏まないように入り込むと、そこは鍛冶場に思える場所だった。
あぁ、煙突は炉のものだったか。
そう思ったのは一瞬だ。
半身裸でボロボロの菅笠をかぶった武者が背中を向けている。
わたしはそのまま襲い掛かった。
肉に刃が刺さる感触は一瞬だ。
いける、と感じたその瞬間武者の身体を横に両断する。
続いて襲い掛かって来たのは〔虫〕だ。
それらを避けるんじゃなく、刀剣で受け止める。
体当たりしたそいつをそのまま刃で押し返した。
簡単に刃は苦悶の顔つきをした上半身を肩から斜めに切り離す。
残りの一体は逃げようとしているのか、うろうろと混乱した〔骨〕だった。
そのまま両断する。
音もなく三体の悪魔達が溶けていく。
…にしても。


「お前、いつ 圧切 へしきり になった? 山姥切」

いつになく切れ味の鋭い相棒の一振りにそう話しかける。
山姥切国広。

わたしが異界で拾い上げて、持てる技術で強化し続けている 刀剣 日本刀の打刀 は若干、赤い光を帯びている。
火炎系の付加はつけた覚えがないんだが。
血も何もついていないが、それでも気分的に刃を一度だけ振るって精神に収納した。
あの悪魔達が取り囲んでいた存在が目の端に映ったのだ。
それは本当に小さな悪魔だった。
鼻にかかったような哀れな小さな声しか、届いてこない。
少し大きめのネコか、子犬程度か、と思う前にふと思った。
こいつ、まんま〔子犬〕だ。
少しだけ胴と尻尾が長く、頭以外の身体は白。頭部は黒く、額には何かしらの文様が描かれているが正直興味がないので意味を調べたこともない。
混沌王と東京受胎中に世話になった悪魔の、その小型化した姿。
魔獣イヌガミ。
その白い身体は腕や足が半ば千切れかけていた。
血潮ではなく、赤いマグネタイトが白い身体を土や埃で汚れている。

「まだ生きてるか」

わたしはその悪魔にしゃがみこんで見下ろした。
こういうのは最初が肝心で、手早く済ませないといけない。
虫の息のイヌガミは、寝転がったままわたしにその目を向けたようだ。

「そのまま死にたいなら介錯しよう。生きたいなのなら条件がある」

視線が先を促す。

「配下に下れ」

それは哀れに思ったからではなく打算からだ。
今弱い個体であっても、今後一緒にこの島で生活していけば 霊格 レベル も上がるだろう。
そうすればやれることも増える。

「どうする? イヌガミ。なるのであれば、指を舐めろ。そうでなければそのままにしていろ」

わたしの言葉に小さなイヌガミは、顔に寄せたわたしの指を舐めた。
悪魔召喚師ではないから、きちんとした契約ではないだろうが約束させただけでもいいだろう。
邪教の館の主が来たら、その辺確認して再度契約させてしまえばいい。

「お前の名前は 五徳 ごとく だ」

――― 〔異能:気功法  手当 初の座 〕―――

イヌガミ…〔五徳〕の体内に残されたマグネタイトを循環させ、増幅させる。
身体が小さいせいもあってか、すぐに千切れかけていた腕や足は綺麗に治っていく。
…よし、拠点(仮)と小さいなりだが労働力を一つ獲得したぞ。
わたしはそんなことを考えながら、もう一度〔手当〕を繰り返した。


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